Ordinary Pleasure by Toro y Moi(2019)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

『Ordinary Pleasure』は、Toro y Moi(トロ・イ・モア)が2019年にリリースしたアルバム『Outer Peace』に収録された楽曲であり、そのタイトルが示すように「ありふれた快楽」や「小さな満足感」に焦点を当てた作品である。本作は、グルーヴィーなベースラインとファンキーなシンセサイザーが際立つディスコ/ファンク色の強いナンバーで、聴き手を自然と身体でリズムをとらせるような快感に包み込む。

しかしその一方で、歌詞に耳を傾けると、日常の快楽の背後に潜む「虚無」や「閉塞感」も垣間見えてくる。歌詞はシンプルでリフレインが多く、軽快に聞こえるが、その反復性こそが「繰り返される毎日」や「ルーティン化された快楽」の空虚さを浮き彫りにしている。Toro y Moiはこの曲で、現代生活における「快楽のインフレーション」、すなわち“何かを得てもすぐ飽きてしまう”という心情を、音楽的な快楽性と同時に描き出している。

『Ordinary Pleasure』は、“楽しさ”の中にある“むなしさ”というパラドクスを、ユーモアとクールさを交えて提示する、現代ポップの美学を体現したような一曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

本作が収録された『Outer Peace』は、Toro y Moiが制作にあたって「内なる平和(inner peace)を外部から構築できるか?」という問いをテーマに掲げたアルバムである。そのため、アルバム全体に通底しているのは、快適さや自由、自己表現を追求する一方で、そうした価値がいかに空虚に感じられるかという“現代的ジレンマ”である。

『Ordinary Pleasure』はその中でも特に“消費される快楽”に焦点を当てた楽曲で、カリフォルニア的なポジティブなサウンドと、内省的な歌詞のギャップが際立っている。Chaz Bear(本名:Chazwick Bundick)はインタビューで、「この曲は一見するとパーティー・チューンだけど、実は“幸福の価値の暴落”について歌っている」と語っており、その言葉どおり、この曲は“サウンドと意味のズレ”によって独自のメッセージを発している。

また、ミュージックビデオでは、Toro y Moi本人が小さなオフィスでスタッフたちと働きながら、バックステージのような空間で演奏する様子が描かれており、ここでも“舞台裏の楽しさ”と“表の顔”の対比がユーモラスに演出されている。派手さのない、現代的でありのままの“日常”が、彼なりの美学として提示されているのだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Maximize all the pleasure
快楽を最大化するんだ

Even with all this weather
この天気でも、関係なくね

ここでは、外部環境に関係なく「とにかく楽しむこと」が至上命題として提示されている。だが、その“最大化”が逆にどこか機械的にも響く。

Nothing’s ever worse than work unnoticed
誰にも見られない仕事ほど、つらいものはない

So just play the music louder
だから、音楽をもっと大きく鳴らしてくれ

“報われない労働”と“快楽によるごまかし”が、ここでは皮肉交じりに描かれている。現代社会のフラストレーションと逃避が垣間見える。

Ordinary pleasure
ありふれた快楽

It feels like, it feels like
まるで、そう…

It feels like I’m pulling teeth
歯を引っこ抜いてるような感じだよ

一見ポジティブに聞こえるタイトルとは裏腹に、実際の“快楽”は苦痛を伴う。ここでは日常の中の喜びすらも義務やストレスとして機能しはじめている現代の感覚が表れている。

引用元:Genius – Toro y Moi “Ordinary Pleasure” Lyrics

4. 歌詞の考察

『Ordinary Pleasure』は、Toro y Moiが得意とする“軽快さと不安定さの交錯”を極限まで洗練させた作品である。歌詞自体は語彙も少なく、一見すると“ただの気持ちいい曲”に思えるが、繰り返されるフレーズとその背景には、深い自己認識と社会批評が込められている。

特に印象的なのは、「何かを最大化しようとすること」の疲労感である。現代の都市生活では、仕事も遊びも“効率”や“成果”に晒される。だからこそ、リラックスのための音楽さえも“うまくリラックスできなければ意味がない”という矛盾に陥ってしまう。そのジレンマを、Toro y Moiは軽やかな音に包みながら、静かに皮肉っている。

また、「ありふれた快楽(Ordinary Pleasure)」という言葉は、反語的でもある。かつては特別だった感覚が、今では“並みの刺激”に感じられてしまう。つまりここで歌われているのは、“感動の希釈”であり、現代人の情緒的飽和なのだ。

このように、『Ordinary Pleasure』はポップソングの形式をとりながら、実はきわめて哲学的でアイロニカルな問題意識を抱えた作品であり、それをあくまで“ダンサブルな形式”で届けるセンスこそ、Toro y Moiの真骨頂といえる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Jamiroquai – Virtual Insanity
    ファンキーなトラックに乗せて現代社会への批判を展開するスタイルが共通。

  • Chromeo – Night by Night
    ディスコ・ファンクと恋愛の空虚さが交差する、洗練されたポップ。
  • Tame Impala – Breathe Deeper
    現代的なエレクトロ・サイケポップと、内省的なメッセージの融合。

  • Blood Orange – Charcoal Baby
    個人のアイデンティティと社会のギャップをクールに描いたアーバン・ソウル。

6. “快楽疲れ”の時代に踊るための音楽

『Ordinary Pleasure』は、Toro y Moiが現代人に向けて放つ“美しく設計された皮肉”である。踊ることが好きな人も、考えることが好きな人も、この曲の中には何かしらの“共感のタネ”を見つけられるだろう。それは、「楽しいはずなのに満たされない」という感覚や、「日常にある喜びが、なぜか消費されてしまうことへの違和感」かもしれない。

Chaz Bearはこの曲を通して、リスナーに問いかけている。

「本当の快楽って、なんだろう?」

その問いに明確な答えはない。しかし、少なくともこの曲を通じて、“ただ踊ること”の中に少しだけ本当の解放があるかもしれない。皮肉と真実の境界で鳴り続けるこの曲は、まさに“21世紀のためのファンク”そのものだ。


歌詞引用元:Genius – Toro y Moi “Ordinary Pleasure” Lyrics

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