発売日: 1991年9月30日
ジャンル: テクノ、アシッドハウス、IDM
90年代テクノの幕開け——Orbitalの衝撃的なデビュー作
イギリスのエレクトロニック・デュオOrbitalが1991年にリリースしたデビューアルバムOrbital（通称The Green Album）は、アシッドハウスからインテリジェント・ダンス・ミュージック（IDM）への架け橋となる歴史的作品である。本作は、90年代のレイヴシーンを象徴するようなダンスフロア向けの楽曲を収録しながらも、Orbitalの持つ映画的な構成力とエモーショナルなサウンドスケープがすでに確立されている。
シングル「Chime」のヒットをきっかけに、Orbitalはクラブシーンで注目を集め、本作をもってテクノシーンの最前線に立つこととなった。アシッドハウスの影響を色濃く受けながらも、単なるクラブトラック集ではなく、アルバムとしての流れを重視した構成が特徴的である。Orbitalはこの作品を通じて、テクノが「アルバムアート」として成立し得ることを証明した。
全曲レビュー
1. The Moebius
不穏なシンセのループとアトモスフェリックなサウンドが絡み合うオープニングトラック。リズムが徐々に構築され、ミニマルな展開を持ちながらも、どこか映画的な感覚を覚える。宇宙的な雰囲気が漂い、アルバムの入り口として機能する。
2. Speed Freak
ハイテンポなビートとアシッドシンセが炸裂するナンバー。90年代初頭のレイヴカルチャーを体現するような、ダンサブルかつアグレッシブな楽曲。反復されるメロディラインが中毒性を生み出し、トランスの先駆的な要素も感じられる。
3. Oolaa
シンセの流麗なメロディが印象的な一曲。クラブ向けのグルーヴとエモーショナルなコード進行が絡み合い、Orbitalの持つ独特の美学が際立つ。アシッドハウスの攻撃性を抑え、より知的なサウンドを構築している。
4. Desert Storm
タイトル通り、砂漠を思わせる広大なサウンドスケープが展開される。ミリタリー的なリズムとシリアスな雰囲気が特徴で、ダークでインダストリアルなムードが漂う楽曲。映画のサウンドトラックのようなアプローチが興味深い。
5. Fahrenheit 303
「303」の名の通り、ローランドTB-303のアシッドベースが炸裂するトラック。アシッドハウスの影響が色濃く、エネルギッシュでありながらも、どこか冷たい質感を持っている。90年代初期のクラブシーンの雰囲気を象徴する一曲。
6. Steel Cube Idolatry
ミニマルかつリズミカルな展開が続く、知的なテクノトラック。金属的な質感を持つシンセが特徴的で、Orbitalのサウンドデザインの緻密さが光る。トランスやIDMへの布石とも言える実験的な楽曲。
7. High Rise
不穏なシンセパッドとリズミカルなパーカッションが絡み合う、アンビエント要素の強いトラック。都市の風景を切り取るような、映画的なサウンドスケープが展開され、後のSnivilisation（1994年）やIn Sides（1996年）に繋がる実験的な側面が垣間見える。
8. Chime
Orbitalの代表曲であり、90年代初頭のレイヴアンセム。TB-303のアシッドベースと、メロディアスなシンセラインの組み合わせが絶妙で、当時のクラブシーンを象徴するサウンドとなった。キャッチーながらも深みのある楽曲で、今なお色褪せない魅力を持つ。
9. Midnight
ダークなベースラインと浮遊感のあるシンセが特徴の楽曲。アルバム全体の流れの中で、落ち着いた雰囲気を持つ。夜の都市をドライブしながら聴きたくなるような、クールでミステリアスなトラック。
10. Belfast
アルバムのラストを飾る名曲。美しいシンセパッドとメロディが絡み合い、アンビエント・テクノ的な要素が際立つ。クラブミュージックでありながらも、リスニング向けの深みを持ち、後のOrbitalの方向性を決定づける一曲となった。
総評
Orbital (The Green Album)は、90年代テクノの黎明期における重要な作品であり、アシッドハウスの攻撃性と、アンビエント・テクノの知的なアプローチを融合させたアルバムである。クラブ向けの楽曲が中心でありながらも、単なるダンスミュージックではなく、アルバム全体の流れを意識した作品となっている点が、後のIDM（インテリジェント・ダンス・ミュージック）への橋渡しとなった。
特に「Chime」や「Belfast」は、彼らの代表曲として今なお影響を与え続けており、ダンスミュージックとしての即効性と、リスニング向けの奥深さを兼ね備えている。本作によって、Orbitalはテクノシーンにおいて単なるクラブアクトではなく、アーティスティックな視点を持つ存在であることを証明した。
おすすめアルバム
- Orbital – Orbital (The Brown Album) (1993)
- The Green Albumの進化形であり、より実験的でアート性の高い作品。
- The Future Sound of London – Accelerator (1991)
- 90年代初頭のテクノシーンを牽引したアルバム。「Papua New Guinea」は必聴。
- Underworld – Dubnobasswithmyheadman (1994)
- レイヴカルチャーを洗練されたアートへと昇華した名盤。
- Aphex Twin – Selected Ambient Works 85-92 (1992)
- テクノとアンビエントの融合を極めた初期IDMの傑作。
- Leftfield – Leftism (1995)
- テクノとダブ、ブレイクビーツを融合させた、Orbitalと並ぶUKテクノの名盤。
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