発売日: 1978年6月
ジャンル: ハードロック、ヘヴィメタル、メロディックロック
概要
『Obsession』は、UFOが1978年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、マイケル・シェンカー在籍時の“黄金時代”を締めくくる作品として位置づけられている。
バンドとしての演奏力、楽曲の構成美、叙情性のすべてが高いレベルで結実しており、前作『Lights Out』の芸術的完成度を継承しながらも、より内面的で繊細な情感が強く打ち出されたアルバムである。
プロデューサーには前作同様ロン・ネヴィソンを起用し、録音はアメリカ・ロサンゼルスのレコード・プラント・スタジオで行われた。
煌びやかでクリアな音像の中に、哀愁と焦燥が漂うアレンジが施され、マイケル・シェンカーのギターは激情と冷静を同時に内包した見事なバランスを誇る。
アルバムタイトルの『Obsession(執着)』が象徴するように、本作では愛、喪失、孤独、記憶といったテーマが繰り返し歌われ、ハードロックでありながら極めて“感情主導”の作品となっている。
また、バンドの内部ではすでにシェンカーとの関係に亀裂が入り始めていたが、だからこそ本作は、UFOのメンバー全員が一丸となって創り上げた“最後の奇跡”とも言えるだろう。
全曲レビュー
1. Only You Can Rock Me
本作を代表するロック・アンセム。
リフのキレとキャッチーなコーラスが完璧に融合し、ライブでも人気の高い一曲。
“ロックできるのは君だけ”という直接的なフレーズに、実は切実な想いが滲む。
2. Pack It Up (And Go)
スピーディかつシンプルなハードロック・ナンバー。
フィル・モグの乾いたボーカルが、去り際の冷たさと未練を同時に表現している。
短いながらもスナップの効いた一曲。
3. Arbory Hill
1分弱のギターインストゥルメンタル。
シェンカーの繊細なアルペジオが木漏れ日のように響き渡り、アルバムに詩的な息抜きを与える。
4. Ain’t No Baby
粘り気のあるリズムと憂いのあるメロディが特徴のナンバー。
愛と支配、依存と反発をテーマにした歌詞が、タイトルの軽さとは裏腹に重たく響く。
5. Lookin’ Out for No. 1
ストリングスを交えた壮麗なバラード。
自己保身と孤独、過去への未練が交差する深い内容で、モグのボーカルも情感豊かに響く。
アルバム前半のハイライトのひとつ。
6. Hot ‘n’ Ready
ライヴの定番曲であり、荒々しくもフックのあるギターリフが印象的。
“準備はできてるぜ”という直球のテンションが、ハードロック本来の魅力を思い出させる。
7. Cherry
愛の記憶と苦みが入り混じるミディアムテンポの名バラード。
“チェリー”という女性名を通じて描かれる回想的ラブソングであり、シェンカーのギターが涙のように旋律を紡ぐ。
UFOバラード史の中でも屈指の完成度を誇る。
8. You Don’t Fool Me
緊張感と冷たさが漂うダークなナンバー。
恋愛の駆け引きや疑念を描くリリックと、鋭利なギターが絶妙にマッチしている。
9. Lookin’ Out for No. 1 (Reprise)
5曲目のバラードのリプリーズ。
インストゥルメンタルとして再構成されており、テーマの回帰がアルバムの一貫性を際立たせる。
10. One More for the Rodeo
アメリカ的なメタファーを用いたミディアム・ハードロック。
“もう一度だけ舞台に上がる”というフレーズが、旅と再起、表舞台と裏側の対比を描き出す。
11. Born to Lose
ラストを飾るにふさわしい、悲哀と力強さを併せ持つハードロック・バラード。
“生まれながらにして敗者”というタイトルは重いが、そこには“それでも歌い続ける”というロックの美学が凝縮されている。
アルバムの余韻を深く刻むエンディング。
総評
『Obsession』は、UFOが感情と構成の両面において最もバランスのとれた作品を完成させた瞬間であり、叙情と攻撃性が理想的に融合した傑作である。
マイケル・シェンカーはギター・ヒーローとしての頂点に達しながら、過度に技巧に走ることなく、旋律の美しさとドラマ性を徹底して追求している。
一方でフィル・モグのボーカルは、人間味に満ち、どこか危うく、それゆえにリアルである。
全体を通して“喪失と執着”というテーマが繰り返し変奏されており、これはシェンカーとの関係性を含めたバンド内外の状況とも深くリンクしている。
商業的にも成功を収めつつ、このアルバムを最後にシェンカーはUFOを一度脱退することとなり、本作はまさにひとつの時代の終焉とその頂点を同時に刻んだ作品である。
おすすめアルバム(5枚)
- MSG – Michael Schenker Group (1980)
シェンカーの叙情性と技巧がさらに深まったソロ・プロジェクト。 - Scorpions – Lovedrive (1979)
シェンカーが一時復帰した名盤。『Cherry』的な哀愁と攻撃性のバランスが共通。 - Thin Lizzy – Renegade (1981)
内省的で洗練されたハードロック。『Lookin’ Out for No.1』と共鳴。 - Rainbow – Difficult to Cure (1981)
技巧とメロディを両立させたドラマティック・ハードロックの好例。 - Blue Öyster Cult – Mirrors (1979)
幻想性とポップ性の両立。『One More for the Rodeo』のような陰影と近い世界観。
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