アルバムレビュー:New Day Rising by Hüsker Dü

Spotifyジャケット画像

発売日: 1985年1月**
ジャンル: メロディック・ハードコア、ポスト・ハードコア、オルタナティブ・ロック


ノイズの向こうに朝が来る——怒りも痛みも包み込む“再生”のロック

1985年初頭、前作Zen Arcadeで物語的コンセプトと多様なスタイルに挑戦したHüsker Düは、続くアルバムNew Day Risingにおいて“より直接的な感情の爆発”を選んだ。
この作品では、ストーリーの枠から解き放たれた代わりに、Bob MouldとGrant Hartの2人のソングライターが、それぞれの視点と痛みをむき出しにしている。
全編にわたってノイズがうねり、ディストーションの壁が立ちはだかるが、その奥には間違いなく“メロディ”が、そして“歌”が存在している。

この作品はメロディック・ハードコアというスタイルの確立と同時に、オルタナティブ・ロックの未来への布石でもある。
怒りと混乱のなかに、確かに“夜明け”の気配が差し込んでいるのだ。


全曲レビュー

1. New Day Rising

タイトル・トラックにして、荒ぶるようなオープニング・マントラ。
New Day Rising!」というフレーズが繰り返されるだけのシンプルな構成ながら、その反復は祈りにも呪詛にも聴こえる。
混濁する音のなかに、夜明けのような光が射し込む。

2. The Girl Who Lives on Heaven Hill

Grant Hart作のラフで甘酸っぱいギター・パンク。
天上の“彼女”は誰なのか? 実像とも幻影とも取れる、憧憬と喪失が混在する。

3. I Apologize

Mouldによる、“謝罪”という名のロック・ナンバー。
叫ぶような声とメロディが絶妙に絡み、恋愛にも人生にも効く感情の直送便。
痛みをそのままメロディに変換したような佳曲。

4. Folk Lore

短く暴力的なハードコアに回帰したような一撃。
“伝承”とは、誰の物語なのか? アイロニーが強く感じられる。

5. If I Told You

わずか40秒ほどの断片。
語ることの困難さ、口にできない感情の塊。

6. Celebrated Summer

アルバム中最もメロディックかつセンチメンタルな一曲。
夏の記憶を、光と影の両面から振り返る。
冒頭のアコースティック・ギターが美しいコントラストを生む、後のパワーポップ/エモの源流とも言える名曲。

7. Perfect Example

静かなイントロから始まる、繊細なバラード調の曲。
自己矛盾や情けなさを、ノイズと共に受け入れる姿勢がにじむ。

8. Terms of Psychic Warfare

ハート作の高速パンク。
“精神戦争”というタイトルのとおり、内面の対立と破壊がテーマ。
カラフルなポップ感覚の裏に、不穏な緊張が走る。

9. 59 Times the Pain

執拗なまでの反復とビートが、苦痛と怒りの連打として響く。
“59回の痛み”は比喩か、それとも実数か。苛立ちが具体化する。

10. Powerline

Mouldのメロディ感が存分に活きたキャッチーなロック・ナンバー。
力の回路に繋がろうとするかのような意志が伝わる。

11. Books About UFOs

ピアノが導入され、異色のポップ・センスを感じさせるトラック。
“彼女はUFOの本を読んでる”という奇妙な描写に、非現実への憧れと現実逃避の両方が感じられる。

12. I Don’t Know What You’re Talking About

タイトル通りのすれ違いをテーマにしたスピード・パンク。
感情の断絶と怒りがストレートに流れる。

13. How to Skin a Cat

不穏で抽象的なイメージに満ちた、ハードコアの狂騒。
攻撃性のなかに一抹のユーモアを感じさせる。

14. Whatcha Drinkin’

酩酊と迷走を思わせる、ノイズまみれの小曲。
混乱する意識がそのまま音になったかのよう。

15. Plans I Make

エンディングを飾るにふさわしい、破壊的なテンションの長尺パンク。
計画の崩壊、あるいは構築。
叫びと轟音の果てに、“新しい日”がぼんやりと浮かび上がる。


総評

New Day Risingは、Hüsker Düが“ノイズの向こうにあるメロディ”へとたどり着いた瞬間を記録している。
それはZen Arcadeの実験的な物語性から解き放たれ、よりパーソナルで切実な“心の爆発”へと向かっている。

ハードコアのエネルギーを保ちつつも、曲構成、メロディ、リリックには明らかな進化が見られ、ここから90年代オルタナの美学が確立されていく。
Bob Mouldの激情とGrant Hartのポップネス、その両輪が最もバランスよく機能したアルバムといえるだろう。

音質は荒く、ミックスもラフだが、そのすべてがリアルで、嘘がない。
怒り、後悔、憧れ、断絶、希望——人間の不器用な感情が、そのまま“ロック”になった作品である。


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