発売日: 2008年2月26日
ジャンル: ネオソウル、ファンク、ヒップホップ、サイケデリックソウル
エリカ・バドゥが2008年に発表したNew Amerykah Part One (4th World War)は、これまでの彼女の作品の中でも最も野心的で実験的な一作だ。社会的・政治的テーマを中心に据えた本作は、彼女のアイデンティティやルーツ、アメリカ社会に対する批評を織り交ぜたアルバムであり、リスナーに深い思索を促す。
アルバムタイトルの「New Amerykah」は、「新しいアメリカ」を意味する造語で、現代社会の混沌と、希望を持って新たな未来を築こうとする意思を象徴している。本作のプロダクションには、J・ディラ、マッドリブ、9th Wonder、サイケデリック・ソウルのエレメントが加わり、エリカ独自の音楽的ヴィジョンが色濃く反映されている。重厚なサウンド、詩的な歌詞、鋭い社会批評が融合したこのアルバムは、単なる音楽作品にとどまらず、現代アートとしての価値を持つ。
トラックごとの解説
1. Amerykahn Promise
ファンクバンドFunkadelicを思わせるオープニングトラック。政治的なメッセージとスピリチュアルな要素がミックスされ、アルバム全体のテーマを暗示する。
2. The Healer
マッドリブがプロデュースした楽曲で、音楽、特にヒップホップを「癒しの力」として称賛する一曲。ミニマルなビートとエリカのドリーミーなボーカルが特徴的だ。
3. Me
自身の内面に焦点を当てた楽曲。エリカの率直なリリックと、シンプルなアレンジが彼女の自己探求を際立たせている。
4. My People
メロウなグルーヴが印象的なトラックで、ブラックコミュニティへの愛と連帯感を歌った曲。反復的なビートが瞑想的な雰囲気を作り出している。
5. Soldier
アルバムの中核を成す楽曲で、社会的不正や黒人社会が直面する問題を力強く訴える。エリカのメッセージ性が特に際立つトラック。
6. The Cell
J・ディラが手掛けたビートに乗せて、現代社会の病巣を探る一曲。ドラマチックなサウンドスケープが楽曲を際立たせている。
7. Twinkle
スローテンポでサイケデリックな雰囲気を持つ楽曲。政治的な腐敗や社会的無関心について深く切り込んだリリックが印象的。
8. Master Teacher
「Stay woke（目を覚ませ）」というフレーズが象徴的な一曲で、自己啓発やコミュニティの成長をテーマにしている。サイケデリックソウルの要素が色濃い。
9. That Hump
現代社会における抑圧や苦しみをテーマにした楽曲。エリカの深い感情がストレートに伝わってくる。
10. Telephone
亡きJ・ディラへのトリビュートとして書かれた感動的なトラック。暖かく柔らかいサウンドが、彼女の感謝と追悼の気持ちを表現している。
アルバム総評
New Amerykah Part One (4th World War)は、エリカ・バドゥがアーティストとして新たなステージへと到達したことを示す作品である。個人的なテーマを掘り下げるだけでなく、アメリカ社会の不安や不正、そしてブラックカルチャーの力強さを音楽に昇華している。サイケデリックな要素とヒップホップ、ネオソウルの融合が斬新であり、アルバム全体を通じて強い一貫性を持っている。
特に「The Healer」や「Master Teacher」は、エリカのメッセージ性が最大限に発揮された楽曲であり、リスナーに深いインパクトを与える。本作は単なる娯楽作品ではなく、現代社会への鋭い批評と未来への希望が込められた音楽的アートとして評価されるべき一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
“Voodoo” by D’Angelo
重厚なグルーヴと社会的テーマが共通する名盤。音楽のアート性を求めるリスナーにぴったり。
“The Low End Theory” by A Tribe Called Quest
ジャズ、ファンク、ヒップホップが融合したアルバム。音楽の深さを楽しみたい人におすすめ。
“To Pimp a Butterfly” by Kendrick Lamar
ブラックカルチャーの美しさと社会的メッセージを探るアルバム。『New Amerykah』の精神性と共鳴する。
“Maggot Brain” by Funkadelic
サイケデリックでメッセージ性の強い作品。エリカのファンク的側面に惹かれる人におすすめ。
“Like Water for Chocolate” by Common
The Soulquariansの参加による、ソウルフルで政治的なアルバム。エリカの世界観に共通する要素が多い。
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