
1. 歌詞の概要
「My Instincts Are the Enemy」は、アメリカのエモ/インディーロックバンド American Football が2016年にリリースしたセカンドアルバム『American Football (LP2)』に収録された楽曲であり、大人になっても変わらない自己の葛藤と、不完全な人間関係の中で揺れ動く感情を描いた作品です。
この楽曲のテーマは、自己破壊的な衝動、失敗の繰り返し、そして人間関係における後悔です。タイトル「My Instincts Are the Enemy(僕の本能は敵だ)」が示すように、自分自身の直感や行動が、しばしば問題を引き起こしてしまうという自己認識が込められています。
歌詞では、人との関係を築こうとしても、無意識のうちに壊してしまう主人公の心情が描かれており、リスナーに強い共感を与える内容となっています。
音楽的には、American Football の特徴であるマスロック的なギターアルペジオと、叙情的なメロディラインが融合し、静かに進行する中で感情の高まりを見せる構成が印象的です。
2. 歌詞のバックグラウンド
American Football は、1999年のデビューアルバムがエモシーンに与えた影響の大きさとは裏腹に、長らく活動を休止していましたが、2016年に『American Football (LP2)』で劇的なカムバックを果たしました。
「My Instincts Are the Enemy」は、バンドのメンバーが20代から30代、そして40代へと年齢を重ねる中で、依然として過去と向き合いながらも、自分の行動パターンが変わらないことへの苛立ちや諦めを歌っています。
このアルバムは、若者特有の傷心や恋愛の喪失を描いたデビュー作とは異なり、成熟した視点からの内省と、より深い感情的な洞察が加えられているのが特徴です。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、楽曲の印象的な部分の歌詞を抜粋し、英語の原文とその日本語訳を掲載します。
What’s the allure of inconsequential love?
「何の意味もない愛に、どんな魅力があるんだ?」
→ ここでは、主人公がこれまでの恋愛や関係性に対して疑問を抱いていることが表現されています。「inconsequential love(取るに足らない愛)」という言葉から、一時的な関係や深みのない恋愛を繰り返してきたことへの自己嫌悪が感じられます。
My instincts are the enemy
「僕の本能は敵だ」
→ **この楽曲のタイトルにもなっているラインであり、自己破壊的な行動や、同じ過ちを繰り返してしまう自分への嫌悪が込められています。**人間関係を築こうとしながらも、それを無意識のうちに壊してしまう矛盾した感情が伝わってきます。
So hell is others, or hell is me?
「地獄とは他人のことなのか? それとも僕自身なのか?」
→ このラインは、ジャン=ポール・サルトルの哲学的名言「L’enfer, c’est les autres(地獄とは他者である)」に由来しています。 ここでの主人公は、自分が抱える問題が、他人との関係によるものなのか、それとも自分自身の内面に原因があるのかを問いかけています。
※ 歌詞の全文は Lyrics.com などで参照可能です。
4. 歌詞の考察
「My Instincts Are the Enemy」は、過去の恋愛や人間関係の失敗を振り返りながらも、未だに同じ問題を抱え続けている自分自身に対する葛藤を描いた楽曲です。
タイトルの「My Instincts Are the Enemy(僕の本能は敵だ)」という言葉が示すように、人間は直感的に行動することが多いにもかかわらず、それが必ずしも正しい選択ではないことがあるという認識が込められています。
また、「地獄とは他者なのか?それとも自分自身なのか?」というラインは、人間関係における苦悩が、自分以外の誰かに原因があるのか、それとも自分の内面的な問題なのかを考える哲学的な視点を持っている点で非常に興味深いものとなっています。
音楽的には、American Football の持つ繊細なギターアルペジオと、ゆったりとしたリズムが、内省的な歌詞と見事に調和しており、楽曲全体に静かな感情の波を作り出しています。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “I’ve Been So Lost for So Long” by American Football
→ 自己喪失と孤独をテーマにした、同じアルバムの楽曲。 - “Never Meant” by American Football
→ 過去の恋愛に対する後悔を描いた、バンドの代表曲。 - “For Sure” by American Football
→ 2019年のアルバムから、成熟した視点からの愛と喪失を描いた楽曲。 - “Jesus Christ” by Brand New
→ 内省的な歌詞とメロディアスなサウンドが共通する楽曲。 - “The Calendar Hung Itself” by Bright Eyes
→ 自己破壊的な愛と執着をテーマにしたインディーロックの名曲。
6. American Footballの成熟した視点を象徴する楽曲としての「My Instincts Are the Enemy」
「My Instincts Are the Enemy」は、American Football のセカンドアルバムにおける重要な楽曲の一つであり、若者の失恋や青春の終焉を歌ったデビューアルバムとは異なる、大人の視点からの自己内省を描いた楽曲です。
この楽曲の魅力は、単なる失恋ソングではなく、「なぜ自分は同じ過ちを繰り返すのか?」という哲学的な問いを持ち込んでいる点にあります。リスナーにとっても、人間関係における自己の問題や、無意識のうちに傷つけてしまう衝動について考えさせられる作品となっています。
また、音楽的にも、ギターの美しいアルペジオと、静かに進行するメロディが、内省的な歌詞と見事に調和しており、American Football の持つ特有のメランコリックな美しさを体現している楽曲と言えます。
「My Instincts Are the Enemy」は、American Football の成熟した視点を象徴する楽曲であり、自己の内面と向き合うことの難しさを見事に描いた名曲である。
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