1. 歌詞の概要
「My Hero」は、Foo Fightersが1997年にリリースした2ndアルバム『The Colour and the Shape』に収録され、1998年にシングルカットされた代表的楽曲のひとつである。
この曲が讃えているのは、スーパーマンや有名人といった“派手な英雄”ではなく、**日常の中で静かに、確かに生きる“無名のヒーローたち”**である。
歌詞全体は極めてシンプルで繰り返しが多いが、その中に込められたメッセージは深い。
語り手が見つめるのは、どこにでもいる普通の人々。名もなき誰かが困難と闘いながら、声高に語らず、拍手も喝采も求めず、黙って日々を生き抜いていくその姿が、真の「ヒーロー」として讃えられている。
「There goes my hero / He’s ordinary(ほら、あれが俺のヒーローだ。普通の奴さ)」というサビのラインは、現代における“英雄”という概念の再定義でもあり、リスナーに「自分にとってのヒーローとは誰なのか?」という静かな問いを投げかけてくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
Dave Grohlはこの曲について、たびたび「特定の誰かのことを歌ったわけではない」と語っている。
にもかかわらず、「My Hero」はしばしばKurt Cobainへの追悼歌ではないかと解釈されてきた。
Grohlはその解釈を否定はしないが、強調するのは「この曲は、名もなき人々に向けたもの」だという点である。
実際、1990年代後半はアメリカ社会が著しく“個人のヒロイズム”を消費し、メディアが“ヒーロー像”を再生産していた時代でもあった。
そのなかでGrohlは、もっと静かで、人知れず頑張る“誰か”の存在に目を向け、「本当の英雄はきっとスポットライトの外にいる」と語りたかったのだ。
また、音楽的にもこの曲は、初期Foo Fightersの代表的なサウンドを確立した重要曲とされている。
ミュートされたギターから徐々に盛り上がる構成、そしてサビの爆発的な開放感。これらはライブにおけるハイライトとして、以降のセットリストに必ず組み込まれるほど、バンドの“魂”を象徴する一曲となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Lyrics © BMG Rights Management
Too alarming now to talk about
Take your pictures down and shake it out
― 今さら話すには生々しすぎる
写真なんかしまって、全部振り払え
Truth or consequence, say it aloud
Use that evidence, race it around
― 真実か結果か、はっきり口に出せ
証拠を使って、世界に突きつけろ
There goes my hero
Watch him as he goes
There goes my hero
He’s ordinary
― ほら、あれが俺のヒーローだ
行く先を見てごらん
あれが俺のヒーロー
ただの、普通の人さ
Kudos, my hero, leaving all the best
You know my hero, the one that’s on
― ありがとう、俺のヒーロー
最高のものを残していってくれた
そう、お前のことだよ
俺のヒーロー、ずっとそこにいた奴
4. 歌詞の考察
「My Hero」は、非常にストレートで誠実なロックソングであると同時に、現代社会における“価値ある存在”を問い直す哲学的な作品でもある。
「He’s ordinary(あいつは普通のやつだ)」というラインは、見方によっては皮肉や軽視にも思える。
しかしここでは、それが最大限の賛辞として用いられている。
普通であること、地味であること、特別ではないこと――そうした“何者でもない生き方”の中にこそ、静かな強さと美しさがあるというメッセージが込められている。
サビの爆発的なサウンドと共に放たれる「There goes my hero(あれが俺のヒーロー)」という一節は、
Grohlの叫びというよりも、すべての“誰かを見守る目線”の代弁であるように響く。
それは親が子を見守るようなまなざしであり、友が友を誇るような気持ちでもある。
そしてこの曲は、誰もが「自分の中のヒーロー像」を投影できるように設計されている。
それゆえにこの曲は、人種や国境、時代を超えて、あらゆる“名もなき努力”に寄り添う応援歌として、多くの人々にとっての“人生のBGM”になってきた。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Ordinary People by John Legend
“普通であること”の中にある愛と葛藤を丁寧に描いたソウルバラード。主題が重なる。 - Hall of Fame by The Script feat. will.i.am
努力と信念によって名もなき人が“偉業”を達成していく姿を讃えるモチベーション・ソング。 - Fix You by Coldplay
誰かを支える気持ちと、自分を信じることの間で揺れるエモーショナルな楽曲。 - The Rising by Bruce Springsteen
9.11以後の再生を描いた、静かな英雄たちへのオマージュ。社会と個人の交差点にある名曲。
6. 静かなる英雄たちへ贈る、最大の賛歌
「My Hero」は、Foo Fightersが世界に提示した**“最も控えめで、最も力強いロックソング”**である。
この曲が今なお多くの人に愛され続けているのは、それが**“声なき人々の代わりに叫んでくれる”楽曲**だからだ。
名もなき誰かの痛み、奮闘、立ち上がる姿――そのすべてが、この3分間のサウンドに刻まれている。
Dave Grohlは、ロックを通して何度も「声なき声」をすくい上げてきた。
その中でも「My Hero」は、もっともやさしく、もっとも力強く、“あなたはそれでいい”と語りかけてくれる一曲だ。
この歌の“ヒーロー”は、あなたの隣にいる誰かかもしれないし、今ここにいるあなた自身なのかもしれない。
だからこそ、この曲は聴くたびに意味を変え、力を持ち続けるのである。
コメント