
発売日: 1981年2月12日
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック
プログレとハードロックの完璧な融合――Rushの最高傑作
1981年にリリースされた『Moving Pictures』は、カナダのプログレッシブロックバンドRushの8作目のアルバムであり、バンドのキャリアの中で最も成功した作品の一つである。本作は、従来のプログレッシブなアプローチを維持しつつも、よりコンパクトでアクセスしやすい楽曲構成を採用し、プログレファンだけでなく、一般的なロックリスナーにも受け入れられた。
特に、「Tom Sawyer」「YYZ」「Limelight」といった楽曲は今もなおRushの代表曲として語り継がれ、プログレッシブロック史上でも最も重要なアルバムのひとつとされている。本作の成功により、Rushは1980年代を通じてさらに広いファン層を獲得し、ロックシーンにおける不動の地位を確立した。
全曲レビュー
1. Tom Sawyer
Rushの代表曲にして、プログレッシブロックの名曲。強烈なシンセサイザーリフと、アレックス・ライフソンのギターが絡み合うイントロが印象的。
個人主義と反逆精神を描いた歌詞が特徴で、ゲディ・リーの力強いボーカルが楽曲のメッセージ性を際立たせている。
また、ニール・パートのドラムプレイも圧巻で、特に後半のフィルインは彼のテクニックの象徴となっている。
2. Red Barchetta
未来の世界で車が禁止された中、主人公が祖父の古いスポーツカー「Red Barchetta」を運転するというSF的な物語を描いた楽曲。
流れるようなギターリフと、楽曲が進行するにつれて加速していくダイナミックな展開が素晴らしい。
ロードムービーのような映像的な表現が印象的で、Rushのストーリーテリングの巧みさが光る一曲。
3. YYZ
インストゥルメンタルの名曲として知られる「YYZ」は、トロント・ピアソン国際空港のIATAコード「YYZ」に由来し、モールス信号のリズムを元に作られたユニークな楽曲。
アレックス・ライフソンのテクニカルなギター、ゲディ・リーの変則的なベースライン、そしてニール・パートの超絶技巧ドラムが融合し、まさにプログレの醍醐味を詰め込んだ曲となっている。
ライブでも定番の楽曲であり、バンドの演奏技術の高さを見せつけるトラック。
4. Limelight
ニール・パートが書いた「成功と名声の裏にある孤独」をテーマにした楽曲。
シンプルながらもエモーショナルなギターリフが印象的で、Rushの楽曲の中でも最も感情的な一曲となっている。
特に、「I can’t pretend a stranger is a long-awaited friend(見知らぬ人を長年の友人のように振る舞うことはできない)」というラインは、パート自身の名声との葛藤を象徴している。
5. The Camera Eye
本作の中で最も長い楽曲で、約10分に及ぶプログレッシブな大作。
ニューヨークとロンドンという二つの都市を描き、それぞれの風景や雰囲気を音楽で表現している。
シンセサイザーが多用され、徐々に盛り上がっていく構成が圧巻。70年代のプログレ的な要素を色濃く残しつつも、80年代へと向かうサウンドが垣間見える楽曲。
6. Witch Hunt
「Fear(恐怖)」をテーマにした4部作の最初の楽曲であり、ダークで不穏な雰囲気が漂う。
当時の社会におけるヒステリックな集団心理を風刺した内容となっており、シンセとギターが絡み合うサウンドが不気味さを強調している。
Rushの中でも異色の楽曲でありながら、強烈なインパクトを残す一曲。
7. Vital Signs
本作のラストを飾る「Vital Signs」は、後のRushのサウンドの方向性を示唆する楽曲であり、レゲエやニューウェーブの要素が取り入れられた独特の雰囲気を持つ。
この後のアルバム『Signals』(1982年)で本格的にシンセサイザーを導入する布石となった一曲であり、Rushが次の時代へ進む決意を感じさせる。
総評
『Moving Pictures』は、Rushのキャリアの中でも最もバランスが取れた作品であり、プログレッシブな要素とハードロックのエネルギーが完璧に融合したアルバムである。
前作『Permanent Waves』(1980年)で見せたコンパクトな楽曲構成をさらに洗練させ、より多くのリスナーに届くように仕上げられている。
「Tom Sawyer」や「YYZ」などの代表曲は今でもファンの間で愛されており、プログレの入門編としても最適なアルバムである。
本作の成功を機に、Rushは80年代にかけてシンセサイザーを積極的に導入し、さらに進化したサウンドを展開していくが、その転換点となるのがこの『Moving Pictures』であった。
プログレ好きはもちろん、ロックファン全般におすすめできる、まさにロック史に残る名盤。
おすすめアルバム
- Rush – 2112 (1976)
- 壮大なコンセプトとドラマチックな展開が詰まったアルバム。プログレ志向が強いRushを堪能できる。
- Rush – Permanent Waves (1980)
- 本作の前作で、よりコンパクトな楽曲構成への移行を見せた作品。「The Spirit of Radio」「Freewill」などの名曲を収録。
- Yes – Fragile (1971)
- プログレッシブロックのクラシックで、Rushと同様にテクニカルな演奏が際立つ。
- Genesis – Selling England by the Pound (1973)
- プログレッシブロックの傑作で、Rushの物語性のある楽曲と共通点が多い。
- Dream Theater – Images and Words (1992)
- プログレメタルの代表作。Rushの影響を色濃く受けた作品として必聴。
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- プログレメタルの代表作。Rushの影響を色濃く受けた作品として必聴。
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