Motor City Is Burning by MC5(1969)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Motor City Is Burning」は、MC5のデビュー・アルバム『Kick Out the Jams』の終盤に収録された異色のトラックであり、デトロイトで起きた1967年の暴動を題材にした、非常に政治的かつ社会的な楽曲である。この曲はもともとデルタ・ブルースの巨人、ジョン・リー・フッカーによって書かれたもので、彼のバージョンではブルースの形式で描かれていた出来事を、MC5は自らの政治的信条と怒れる若者の視点から、激しいガレージ・ロックへと昇華させている。

タイトルの「Motor City」とはもちろんデトロイトの通称であり、アメリカの自動車産業の中心地として知られているが、その都市が“燃えている”という比喩は、単なる暴動の描写を超え、社会構造の崩壊と人種的緊張の爆発を象徴している。
歌詞の中でMC5は、黒人コミュニティに対する警察の暴力、国家の抑圧、そしてその反動としての民衆の怒りを生々しく描いており、これは単なる出来事の報告ではなく、明確な政治的スタンスの表明である。

2. 歌詞のバックグラウンド

1967年7月、デトロイトではアメリカ史上最悪級の都市暴動のひとつが勃発した。きっかけは無許可の酒場(「ブラインド・ピッグ」)に対する警察の急襲だったが、それが積年の差別と貧困、そして警察による黒人市民への暴力に対する怒りに火をつけ、5日間にわたりデトロイト市は炎に包まれた。この暴動では43人が死亡し、7000人以上が逮捕され、数百の建物が焼き払われた。

ジョン・リー・フッカーはこの出来事をもとにオリジナルの「Motor City Is Burning」を作曲したが、彼の歌はどこか哀愁と諦念を帯びたブルースであった。それに対し、MC5のバージョンは、同じ出来事を題材にしながらも、完全に異なる感情—つまり怒りと革命の意志—を注ぎ込んでいる。これは単なるカバーではなく、同じ事件を異なる階級・異なる世代の視点から再構築した異種のレポートと言える。

MC5は当時、ラディカル左派グループ「ホワイト・パンサー・パーティー」と関係を持っており、音楽を通して政治的変革を訴える姿勢を明確にしていた。この曲はその思想を最も端的に表現しており、特にライブでの演奏時には、ギターとドラムによる混沌としたサウンドが暴動の混乱を想起させるように構成されていた。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下はMC5バージョンからの歌詞の一部抜粋と和訳です(引用元:Genius Lyrics)。

“The Motor City is burning, y’all”
「デトロイトの街が燃えているんだ、みんな」
(暴動の現場を生々しく描写する導入)

“Ain’t no thing in the world that I can do about it”
「オレにできることなんて、何もありゃしない」
(個人の無力さと現実への諦観)

“My home town burning down to the ground / Worser than Vietnam”
「オレの故郷が焼け落ちていく / ベトナム戦争よりひでえよ」
(戦争と都市暴動を並列に語るラディカルな視点)

“They told me to get my white ass out”
「オレに“白人の尻をここから出せ”って言いやがった」
(暴動の現場での人種的緊張を白人視点で描写)

MC5はこのように、現場の混沌と恐怖、怒りと差別、階級と政治を赤裸々に描いており、ただのドキュメンタリー的楽曲をはるかに超えたメッセージソングとなっている。

4. 歌詞の考察

「Motor City Is Burning」は、MC5というバンドの政治的・社会的スタンスを最も明確に表した楽曲である。1967年のデトロイト暴動は単なる騒乱ではなく、制度的抑圧に対する民衆の叫びであり、この曲はその叫びをロックという手段で拡声器のように増幅している。

注目すべきは、MC5のメンバーが白人でありながら、黒人市民の怒りに共鳴し、警察や政府の行動を激しく非難している点である。ウェイン・クレイマーやロブ・タイナーは、暴動の原因が貧困や人種差別といった構造的問題にあることを理解し、それを音楽に乗せて伝えようとしている。
「My home town burning down / Worser than Vietnam」というラインには、国内の都市暴動が、アメリカ政府が加担している国外の戦争と同じくらい、あるいはそれ以上に非人道的であるという認識が込められている。

また、「They told me to get my white ass out」という一節は、人種間の緊張がピークに達した瞬間を物語っており、MC5が単に“正義の味方”として描かれていない点も重要である。彼ら自身もその社会的緊張の只中に投げ込まれており、完全な傍観者ではなかったことが示唆されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Inner City Blues (Make Me Wanna Holler) by Marvin Gaye
    同じくデトロイト出身で、都市の荒廃と制度的不正義を歌った名曲。

  • Mississippi Goddam by Nina Simone
    黒人差別と暴力に対する怒りを、芸術的かつ直接的に表現した社会派楽曲。

  • The Revolution Will Not Be Televised by Gil Scott-Heron
    メディアでは描かれない本当の革命を詩とファンクで語る重要作。

  • Fight the Power by Public Enemy
    黒人の抵抗とパワーの象徴として、MC5のメッセージを現代に引き継ぐヒップホップ。

  • Killing in the Name by Rage Against the Machine
    警察の暴力と制度的レイシズムをテーマにした、MC5の精神を受け継ぐ爆発的楽曲。

6. “音楽と暴動”の記録としての価値

「Motor City Is Burning」は、音楽が社会的記録であるという点において、極めて重要な作品である。単にデトロイト暴動という歴史的事件を描写しているだけでなく、MC5というバンドがその時代に何を考え、どの立場から発言していたのかを如実に表している。

この曲は、60年代後半のアメリカにおける激しい社会変革のうねりを、現場の視点からリアルタイムで描いた“ロックによる報道”であり、さらにその中で、白人のロックバンドが黒人コミュニティの怒りに共鳴し、それを拡声器として世界に向けて発信したという点でも歴史的価値が高い。


MC5の「Motor City Is Burning」は、単なるカバー曲でも、単なる反体制のロックでもない。それは音楽を通じて語られた怒りの報告書であり、都市と国家が抱える構造的問題への鋭い告発である。今なお続く社会的分断の中で、この曲のメッセージは古びることなく、むしろ一層鋭く響いてくる。ロックが時に“記録”であり“革命”であることを証明する、稀有な楽曲である。

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