発売日: 2011年9月20日
ジャンル: オルタナティヴ・カントリー / アメリカーナ
アルバム全体の導入部分
2011年にリリースされた『Mockingbird Time』は、The Jayhawksにとって特別な意味を持つ作品だ。このアルバムでは、Gary LourisとMark Olsonというバンドの創設メンバーが再びタッグを組み、1995年の『Tomorrow the Green Grass』以来となるクラシック・ラインナップで制作された。オルタナティヴ・カントリーの名門バンドとして知られるThe Jayhawksが、その象徴とも言える美しいハーモニーと洗練された楽曲構成を再び披露したことにより、多くのファンの期待を背負った作品である。
アルバム全体に広がるのは、The Jayhawks特有のノスタルジアと、少し陰りのある感情だ。再結成という背景もあり、このアルバムには、時間を経ても変わらない音楽への情熱と、年月を重ねたからこその深みが感じられる。また、プロデューサーにはLouris自身が加わり、緻密なサウンド設計が施されている。アコースティックギターやピアノを中心としたアレンジは、フォークやカントリーの伝統を重んじながらも、モダンなプロダクションが効いており、リスナーを引き込む。
歌詞のテーマには「喪失」や「再生」、そして「希望」といった普遍的なモチーフが散りばめられている。そのため、このアルバムは、単なる過去の栄光の再演ではなく、新しい一歩を踏み出す決意のようにも感じられる。これまでのファンにとっては懐かしさを、そして新しいリスナーには洗練された音楽の魅力を届ける作品だ。
各曲ごとの解説
1. Hide Your Colors
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、オープニングに相応しいスケール感のある一曲だ。LourisとOlsonのハーモニーが冒頭から際立ち、ギターリフが心地よく響く。歌詞には、「本当の自分を隠すこと」と「それを乗り越える葛藤」が込められており、アルバム全体のテーマがここで示唆されている。
2. Closer to Your Side
フォーク調のメロディが美しく、ミニマルながらも深みのあるアレンジが印象的な楽曲。歌詞には、「距離を縮めたい」という切実な思いが込められており、シンプルながらも強い感情が伝わってくる。
3. Tiny Arrows
6分を超えるこの楽曲は、アルバムの中でも特にドラマティックな展開を見せる。ゆっくりとしたテンポの中に緊張感が漂い、エレクトリックギターとアコースティックギターが絶妙に絡み合う。歌詞には自然や宇宙的なイメージが散りばめられ、壮大さを感じさせる。
4. She Walks in So Many Ways
シンプルなギターフレーズと軽快なテンポが心地よい、カントリーロックの真髄とも言える一曲だ。オルタナティヴ・カントリーとしてのJayhawksの魅力が凝縮されており、爽やかなメロディが耳に残る。
5. High Water Blues
この曲は、ややブルージーな要素が加わり、アルバムにアクセントを加えている。スライドギターとリズムセクションが特徴的で、歌詞には困難を乗り越える決意が感じられる。
6. Mockingbird Time
タイトル曲であるこの楽曲は、アルバム全体のテーマを象徴している。モッキンバード(マネシツグミ)の歌声のように、美しいメロディとハーモニーが際立つ。歌詞には「過去への回帰」と「未来への希望」が混在しており、再結成という背景を反映しているようだ。
7. Stand Out in the Rain
この曲は、ピアノを中心とした柔らかなアレンジが特徴だ。雨の中に立つという歌詞の比喩は、困難に立ち向かう勇気を示しており、リスナーに優しく語りかけるような楽曲だ。
8. Cinnamon Love
やや実験的な要素を含んだこの楽曲は、Jayhawksの中では異色の一曲と言えるかもしれない。ギターリフの反復とリズムの変化がユニークで、聞き手を飽きさせない構成だ。
9. Guilder Annie
ミドルテンポの曲で、優しいメロディと牧歌的な雰囲気が心地よい。歌詞には懐かしさや温かさが込められており、どこか家庭的な風景を思い起こさせる。
10. Black-eyed Susan
切なくも美しいこの楽曲は、ピアノとギターの静かな対話が特徴的だ。歌詞の内容も内省的で、アルバム全体の中で特に感情的な深みを感じさせる一曲。
11. Pouring Rain at Dawn
タイトルが示すように、夜明け前の雨の情景を描いた楽曲。シンプルなアレンジと静かなハーモニーが、心に染み渡る。
12. Hey Mr. Man
アルバムを締めくくるこの曲は、軽やかなリズムとシンプルなメロディが印象的だ。再び歩き出す決意が感じられる歌詞とともに、アルバム全体を穏やかに締めくくる。
フリーテーマ
『Mockingbird Time』は、ファンにとって待望の再結成アルバムでありながら、バンドにとっては新たなチャレンジでもあった。再びタッグを組んだLourisとOlsonは、それぞれが持つ才能を最大限に発揮し、クラシックなJayhawksサウンドを復活させつつも、より成熟した表現を追求している。その結果、このアルバムは過去の作品へのノスタルジーと、新たな可能性を感じさせる作品となった。
アルバム総評
『Mockingbird Time』は、The Jayhawksのキャリアにおけるひとつの集大成と言える作品だ。懐かしさを感じさせるクラシックなアメリカーナサウンドに加え、時間を重ねたからこそ生まれる深みが楽曲に反映されている。再結成による期待に応えつつ、新たな一歩を踏み出す姿勢が感じられるアルバムである。Jayhawksファンならずとも、この洗練されたサウンドに心を動かされることだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Fleet Foxes – “Helplessness Blues”
美しいハーモニーとアコースティックなサウンドが特徴のFleet Foxesの傑作。The Jayhawksのファンならば、その叙情性に共感するはずだ。 - Neil Young – “Harvest”
フォークとカントリーの要素を融合したNeil Youngの代表作。The Jayhawksの音楽性に大きな影響を与えた一枚。 - Uncle Tupelo – “March 16–20, 1992”
アメリカーナとオルタナティヴ・カントリーの原点とも言えるアルバムで、『Mockingbird Time』の牧歌的な要素と共通点がある。 - Bon Iver – “For Emma, Forever Ago”
内省的で静かな楽曲が多いBon Iverのデビュー作は、Jayhawksのより感情的な側面に共感するリスナーに響くだろう。 - R.E.M. – “Automatic for the People”
メロディアスで深い歌詞が特徴のR.E.M.の名作。Jayhawksの美しいハーモニーや内省的な歌詞に惹かれる人におすすめだ。
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