発売日: 2011年4月3日
ジャンル: ミニマル・ファンク、インストゥルメンタル・グルーヴ、DIYソウル、ローファイ・ファンク
概要
『Mit Peck』は、アメリカのファンク・バンドVULFPECK（ヴルフペック）が2011年に発表したデビューEPであり、現代インディー・ファンクにおける美学の源流を刻んだ、たった6曲・15分の“完璧な自己紹介”である。
バンド名の“Peck”とドイツ語の“mit（〜と一緒に）”をかけたこのタイトルは、架空のジャズ・スクールの卒業制作のような、実験と遊びの混ざった知的なユーモアに満ちている。
メンバーはUniversity of Michigan出身の音楽オタクたちで、ミニマルな構成と極限までタイトなリズム、そして“音数の美学”を武器に、聴き手を即座に踊らせる。
本作はボーカル曲なしのインストゥルメンタル・ファンクで構成されており、ベーシストのJoe Dart、ドラマーのTheo Katzman、キーボーディストのJack Strattonらによる、演奏力とアンサンブルの妙技が極限まで研ぎ澄まされたデモンストレーションとなっている。
全曲レビュー（全6曲）
1. Beastly
デビュー作の幕開けを飾るベース・ファンクの金字塔。
Joe Dartのプレイが炸裂し、“インディー・ファンク”というジャンルそのものを立ち上げた瞬間とされる。
スラップでも速弾きでもなく、“音を選ぶこと”の美しさを教えてくれる名演。
2. It Gets Funkier
シンセ・ベースとリズム・ギターの掛け合いが軽快な、ポリリズム・ファンク。
「よりファンキーになる」というタイトル通り、展開するごとにグルーヴが層を成していく。
音の“間”がダンスを生む感覚が見事に体現されている。
3. Outro
早くも3曲目にして“アウトロ”を名乗るユーモラスな構成。
短くシンプルなキーボード主体の小品だが、ミニマル美学が凝縮されている。
ノートの選び方が“静かなる熱”を帯びる佳曲。
4. Hero Town
この曲のみ、ややドラマティックな展開を見せる構成。
コード進行がほのかにエモーショナルで、VULFPECKの後年の“ソウル”路線の萌芽が感じられる。
5. The Birdwatcher
パーカッションが前面に出た、リズム重視のグルーヴ・ジャム。
まるで鳥を探しながら森を歩いているような、音で景色を描く手法がここに表れている。
6. Mean Girls
シンセが主旋律を奏でる、やや80年代風味のポップ・ファンク。
アメリカン・スクール・カルチャーを匂わせる曲名と、どこか無邪気な音色の対比が面白い。
エンディングにふさわしい軽やかさ。
総評
『Mit Peck』は、VULFPECKというバンドのすべてが詰まった原点であり、“音楽はこんなにも軽く、こんなにも深くなれる”ということを証明した、現代ファンク史における転換点である。
この作品の凄さは、“引き算”にある。
圧倒的なテクニックを持つ彼らが、あえて音数を絞り、シンプルであることの豊かさ、そして間のグルーヴを極めたことが、本作を唯一無二の存在にしている。
彼らのその後の成功──YouTube、バイナル、クラウドファンディング──すべての始まりはここにある。
おすすめアルバム（5枚）
-
VULFPECK / Fugue State
本作の続編的EP。ミニマルとメロウのバランスがさらに深化。 -
Cory Wong / The Optimist
VULFPECKファミリーのギタリスト。洗練されたリズムと明快な構成が魅力。 -
Snarky Puppy / Tell Your Friends
ジャズ寄りの大編成ファンク。音の密度とインプロの妙味が秀逸。 -
Lettuce / Crush
本格派ファンク・ジャム。VULFPECKとの“熱さと軽さ”の対比が面白い。 -
The Fearless Flyers / The Fearless Flyers
Joe DartとNate Smithらによるスーパーグループ。“音の最小単位で踊らせる”美学を継承。
コメント