発売日: 2020年7月14日
ジャンル: インディーポップ、ベッドルームポップ
アルバム全体の印象
グレイシー・エイブラムスのデビューEPminorは、彼女の音楽的な才能と詩的な感受性を見事に表現した作品だ。静謐で親密な雰囲気が漂うこのEPは、彼女の心の内側を覗き見るような体験をリスナーに提供する。恋愛、喪失、自身のアイデンティティとの葛藤といった普遍的なテーマを、シンプルかつ丁寧に描写している。
プロダクションにはアーロン・デスナー（ザ・ナショナル）やジョエル・リトル（ロード、テイラー・スウィフトとのコラボレーションで知られる）といった実力派が参加しており、繊細で洗練されたサウンドが特徴だ。アコースティックギターやピアノの温かみのある音色と、彼女の柔らかな歌声が織りなすハーモニーは、リスナーに深い感情の共鳴をもたらす。全体を通して、自分の部屋で静かに語りかけられているような親密さが感じられる。
各曲ごとの解説
1. Friend
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、友情と愛の間で揺れる複雑な感情を描いている。控えめなギターとグレイシーの柔らかな歌声が、歌詞の切実さを引き立てている。「I never thought you’d happen to me」というラインが、胸に迫る。
2. 21
この曲は、青春期の不安定さや過去への後悔を描いている。ピアノを基調としたメロディが、歌詞の繊細さを際立たせている。特に「You’re only 21, you don’t even know who you wanna become」というフレーズが、若さゆえの迷いや痛みを感じさせる。
3. I miss you, I’m sorry
EPの中でも特に感情的な楽曲で、失恋の痛みとその余韻がテーマだ。シンプルなアコースティックギターの伴奏が、歌詞の親密さを強調している。「Do you think about who we used to be?」という歌詞が、失った関係への未練を痛烈に表現している。
4. Long Sleeves
思い出と現実が交錯するこの楽曲は、ピアノとストリングスが静かに心を包み込む。歌詞には、過去の恋愛を振り返る苦さと温かさが同居している。「You were always in the back of my mind」という一節が、感情の複雑さを象徴している。
5. Under/Over
アップテンポなビートが特徴の楽曲で、EPの中では異色の存在だ。感情の乱高下を反映した歌詞とリズムが、現代の若者特有の不安定さを鮮やかに描いている。
6. minor
タイトル曲であり、グレイシーのシンプルなソングライティングが際立つ一曲だ。恋愛の終わりをテーマにした歌詞と、ミニマルなピアノ伴奏が、彼女の歌声を引き立てている。「It’s minor, but it’s happening」というフレーズが、アルバム全体のテーマを象徴している。
7. Stay
アルバムを締めくくるこの曲は、愛する人を引き止めたい気持ちを歌っている。優しいアコースティックサウンドと、感情を込めた歌声が心に残る。「Don’t you wanna stay here forever?」という問いかけが、エモーショナルな余韻を残す。
特筆すべきテーマ：親密さと普遍性
minorは、親密さの中に普遍的な感情を宿すアルバムだ。個人的な物語を描きながら、リスナーが自分自身の経験と重ね合わせやすい。特にグレイシーの詩的な歌詞と、繊細なサウンドスケープがその魅力を支えている。
アルバム総評
グレイシー・エイブラムスのminorは、彼女のデビュー作ながら完成度の高い作品だ。感情的な歌詞、洗練されたプロダクション、そして彼女の優しい歌声が、深い印象を残す。恋愛や喪失、アイデンティティといったテーマを描く中で、彼女の才能が光る瞬間が何度も訪れる。リスナーにとって、彼女の歌詞とメロディは、個人的な共鳴をもたらすと同時に、癒しと慰めを与える存在となるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Punisher by Phoebe Bridgers
繊細な歌詞と親密なサウンドスケープが共通しており、感情の深みを味わえる。
Folklore by Taylor Swift
ミニマルなアレンジとストーリーテリングが魅力で、静かな感動を呼ぶ作品。
Immunity by Clairo
ベッドルームポップの親密さと、若者特有の感情を描いた歌詞が共通点。
When We All Fall Asleep, Where Do We Go? by Billie Eilish
インティメートなプロダクションと若い感性が共鳴する。
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
同じく感情的で詩的な作品で、グレイシーファンにとって必聴の一枚。
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