
発売日:2011年9月30日
ジャンル:Indie Folk / Chamber Pop / Art Pop
概要
Metalsは、Feistが2011年に発表した4作目のスタジオ・アルバムである。前作The Reminderは「1234」の大きな成功によって、彼女をインディー・ポップの枠を越えた存在へ押し上げた。軽やかなメロディと親しみやすい歌声で広く知られるようになった後、Feistが次に選んだのは、さらに明るく開けたポップ路線ではなかった。本作では、ピアノ、ギター、ストリングス、ホーン、手拍子や足音のような打楽器、厚みのあるコーラスを使いながら、より土の匂いがする、暗く静かな音の世界へ向かっている。
プロデュースはFeist本人とChilly Gonzales、Mocky、Valgeir Sigurðssonが中心となっており、録音には人の息づかいや部屋の響きが強く残されている。曲は派手なサビで一気に開くというより、低い温度で始まり、楽器や声が少しずつ積み重なっていく。前作までのポップな明快さは完全に消えたわけではないが、ここではメロディの美しさよりも、音の重さ、沈黙、言葉の余白が大切にされている。アルバム名のMetalsが示すように、作品には冷たさ、硬さ、鈍い光がある。
歌詞では、恋愛、別れ、後悔、記憶、自然のイメージが繰り返し現れる。ただし、感情は分かりやすい告白として整理されない。Feistの歌は、相手を責める声にも、自分の中を確かめる声にも聞こえ、曲によっては風景そのものが感情を語っているように響く。Metalsは、ヒット後の余裕から作られた静かな作品というより、大きな期待から距離を取り、自分の声と演奏の質感をもう一度深く掘り直したアルバムである。
全曲レビュー
1. 「The Bad in Each Other」
「The Bad in Each Other」は、重いドラムと低く鳴るギターで始まり、アルバムの暗い質感をすぐに示す曲である。リズムは大きく踏みしめるように進み、そこにホーンやコーラスが加わることで、個人的な関係の歌でありながら、どこか儀式のような響きも生まれる。歌詞は、二人が互いの悪い部分を引き出してしまう関係として読めるが、Feistはそれを怒りだけで歌わない。声には諦めと観察の距離があり、愛が壊れる瞬間より、壊れた構造を後から見つめているように聞こえる。冒頭曲として、本作が甘いフォーク・ポップではなく、もっと深い影を持つ作品であることを印象づけている。
2. 「Graveyard」
「Graveyard」は、墓地という重い言葉をタイトルにしながら、ただ暗く沈む曲ではない。リズムにはゆっくりとした行進のような感覚があり、コーラスが広がる場面では、失われたものを悼みながらも前へ進む空気が生まれる。歌詞は死や別れを直接的に説明するというより、過去の記憶が埋められた場所を歩くようなイメージを持っている。Feistの声は悲しみに完全には飲み込まれず、少し乾いた明るさを残しているため、曲は喪失の歌でありながら、集団で声を合わせる力も感じさせる。アルバム序盤に、個人の痛みを大きな風景へ広げる役割を持つ曲である。
3. 「Caught a Long Wind」
「Caught a Long Wind」は、前の2曲の重い足取りから離れ、空気の流れに身を預けるような静かな曲である。ピアノとギターは控えめに置かれ、Feistの声が広い空間に浮かぶ。タイトルの「長い風をつかまえた」という表現は、偶然の流れに乗ること、あるいは自分では制御できない力に運ばれることを思わせる。歌詞ははっきりした物語を語らず、自然の動きと心の揺れを重ねている。サウンドが薄いぶん、声の息づかいや言葉の余白がよく聞こえ、Metalsの中でも特に静かな美しさを持つ曲である。
4. 「How Come You Never Go There」
「How Come You Never Go There」は、本作の中では比較的シングル向きの輪郭を持つ曲だが、明るく弾けるポップではない。ゆったりしたグルーヴと太いベースが曲を支え、ギターやホーンが少しずつ色を加える。歌詞の問いかけは、相手がなぜそこへ行かないのか、なぜある感情や場所を避けるのかを尋ねているように聞こえる。恋愛の距離を描いているとも、自分の内側に触れようとしない相手への不満とも読める。Feistの歌は責めるよりも、相手の沈黙を不思議そうに見つめる調子で、曲全体に大人びた苦味を与えている。
5. 「A Commotion」
「A Commotion」は、タイトル通り騒ぎや混乱を音で表したような曲である。低い弦のような響きと力強いリズムが反復し、そこに男性コーラスが入ることで、曲は不穏な集団の声をまとっていく。Feistのボーカルはその中で鋭く立ち上がり、感情の整理がつかない状態を、きれいに歌い流すのではなく、少し荒いまま提示している。歌詞は、心の中で起きる騒ぎ、あるいは関係の中で避けられない衝突として読める。アルバムの中盤で、静かな内省に激しい揺れを持ち込み、本作の音楽的な幅を広げる曲である。
6. 「The Circle Married the Line」
「The Circle Married the Line」は、円と線が結ばれるという抽象的なタイトルを持ち、曲にも不思議な幾何学的な感覚がある。ピアノを中心にした穏やかな伴奏の上で、Feistは言葉を丁寧に置き、サウンドは大きく膨らむより、少しずつ形を変えていく。円は繰り返しや閉じた関係を、線は進行や別れを思わせるため、タイトルは相反するものが一つになる瞬間としても読める。歌詞は明確に説明されないが、二人の関係や時間の流れを、図形のようなイメージでとらえているように聞こえる。派手さはないが、本作の詩的な抽象性がよく出た曲である。
7. 「Bittersweet Melodies」
「Bittersweet Melodies」は、タイトル通り甘さと苦さが同時にある曲である。メロディは比較的親しみやすく、Feistの声も柔らかく響くが、歌詞には過去の記憶がそのまま美しいものにはならない感覚がある。甘い旋律が、思い出の中では痛みを伴って戻ってくるという構図で、音楽そのものが記憶を呼び起こす力を持っているように歌われる。アレンジは控えめで、細いギターや鍵盤の響きが曲を包む。アルバムの中では聴きやすい一曲だが、決して軽い休憩ではなく、懐かしさが人を傷つけることもあると静かに示している。
8. 「Anti-Pioneer」
「Anti-Pioneer」は、本作の中でも特に内省的で、タイトルからして進んで開拓する人間像への疑いを含んでいる。開拓者になるのではなく、前へ進むこと自体に抵抗するような感覚が曲全体にある。演奏は非常に抑えられており、ピアノやストリングスの余韻が広い空白を作る。歌詞は、動き出せないこと、先頭に立つことへの疲れ、未知へ向かう勇気の欠如としても読めるが、Feistはそれを弱さとして断罪しない。声は静かで、むしろ立ち止まることの正直さを認めているように聞こえる。アルバムの深い谷にあたる、暗く美しい曲である。
9. 「Undiscovered First」
「Undiscovered First」は、未発見のものを最初に見つけるというタイトルを持ちながら、勝利や冒険の歌には聞こえない。リズムはゆっくりと進み、ギターや鍵盤は薄く重ねられ、曲は手探りで進むような感覚を作る。歌詞は、まだ名前の付いていない感情や、関係の中で見えていなかった部分に触れようとしているように読める。Feistの歌は強く断定せず、発見の途中にいる声として響く。前曲の「反開拓者」的な停滞から続けて聴くと、この曲は無理に前へ進むのではなく、暗がりの中で小さな輪郭を見つける場面として機能している。
10. 「Cicadas and Gulls」
「Cicadas and Gulls」は、蝉とカモメという自然の音をタイトルにし、アルバムの中で外の風景を静かに呼び込む曲である。アコースティック・ギターの響きは柔らかく、Feistの声も近い距離で鳴るため、聴き手は大きなステージではなく、窓のそばで歌を聞いているような感覚になる。歌詞は自然の生き物の声を通して、季節、移動、記憶を思わせる。蝉の反復する音とカモメの遠い声が、心の中のざわめきと遠くへ行きたい願いに重なるようにも聞こえる。短く穏やかな曲だが、本作の余白の美しさをよく伝えている。
11. 「Comfort Me」
「Comfort Me」は、慰めを求める非常に直接的なタイトルを持つ曲である。だが、曲は甘く包み込むようなバラードではなく、リズムやコーラスにどこか重い儀式性がある。Feistの声は、誰かに抱きしめてほしいという弱さを見せながらも、完全に崩れ落ちるわけではない。歌詞の慰めは、すぐに与えられる安心ではなく、痛みの中で必要とされる切実なものとして響く。後半に向けて声や楽器が厚くなると、個人の小さな願いが集団の祈りのように広がる。アルバム終盤で、内側にたまった感情が静かに外へ出ていく曲である。
12. 「Get It Wrong, Get It Right」
ラストの「Get It Wrong, Get It Right」は、失敗することと正しくすることを並べ、アルバムを穏やかに閉じる曲である。演奏はとても控えめで、ギターと声が中心になり、ここまでの重いドラムや厚いコーラスから一歩引いた場所にある。歌詞は、間違えることと正すことが人生や関係の中で何度も繰り返されるという感覚を持っている。Feistは結論を大きく歌い上げず、むしろ未解決のまま受け入れるように声を置く。アルバム全体が喪失、問い、混乱、記憶を通ってきた後、この曲は答えを出すのではなく、間違いながら続けることを静かに認めて終わる。
総評
Metalsは、Feistが大きな成功の後に、自分の音楽をより静かで重い場所へ導いたアルバムである。前作The Reminderの親しみやすいポップ感を期待すると、本作はかなり地味に聞こえるかもしれない。曲はすぐにサビで弾けることが少なく、テンポも落ち着いており、音数にも余白が多い。しかし、その余白の中にこそ本作の豊かさがある。ドラムの一打、ホーンの短い響き、コーラスの低い重なり、Feistの息の残り方が、感情を直接説明する以上に多くを伝えている。
アルバム全体のサウンドは、金属というタイトルから想像される冷たい硬さだけでなく、木や土や風の感触も強く持っている。ギターやピアノはあくまで自然に鳴り、ストリングスやホーンも華やかな装飾ではなく、曲の奥に沈む影として使われる。録音の中には人間の動きが残っており、手で作られた音楽であることが分かる。それでも作品全体は素朴なフォークに収まらず、構成や音の配置には非常に意識的な緊張がある。静かな曲でも、ただ穏やかなだけではなく、どこか硬い芯を持っている。
歌詞の面では、関係の終わりや心の揺れが、自然や抽象的なイメージを通して描かれる。Feistは「悲しい」「寂しい」と分かりやすく感情を言い切るより、墓地、風、円と線、蝉とカモメといった言葉で、感情の周囲にある風景を作る。そのため本作は、はっきりした物語を追うより、曲ごとに変わる空気や比喩を受け取る聴き方が合っている。歌詞の曖昧さは逃げではなく、言葉にしきれない感情をそのまま残すための方法として機能している。
キャリア上では、MetalsはFeistが一発のヒットに回収されないアーティストであることを示した作品である。明るく分かりやすいポップ・ソングを求めるリスナーには距離を置く内容だったが、その選択によって、彼女の音楽はより深く、長く聴けるものになった。派手な革新性を叫ぶアルバムではないが、歌、演奏、沈黙、部屋の響きを丁寧に積み重ねることで、独自の重さと美しさを作っている。Metalsは、成功後に音を大きくするのではなく、むしろ声を低くし、暗い場所で鳴る小さな光を見つめたアルバムである。
おすすめアルバム
The Reminder by Feist
前作にあたり、Feistのポップな魅力が最も広く届いた代表作である。Metalsの暗さや余白は、この作品の明るいメロディと比べることでよりはっきり見えてくる。
Let It Die by Feist
ジャズ、ボサノヴァ、フォーク、ポップを柔らかく混ぜた作品である。Metalsより軽やかだが、Feistの声の近さや、大人びたメロディ感覚の原点を知ることができる。
Have One on Me by Joanna Newsom
長い曲と豊かなアコースティック・アレンジで、個人的な感情を広い物語へ変える作品である。Metalsより幻想的だが、余白の多い演奏と言葉の密度に共通する魅力がある。
Actor by St. Vincent
室内楽的なアレンジと不穏なポップ感覚を組み合わせたアルバムである。Feistより鋭く人工的だが、美しい音の中に不安や影を置く方法に近いものがある。
Once I Was an Eagle by Laura Marling
フォークを基盤にしながら、恋愛、喪失、自立を静かに掘り下げた作品である。Metalsと同じく、大きなポップの爆発より、声と言葉の重みで聴かせるアルバムである。

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