発売日: 1975年7月
ジャンル: ノイズミュージック、アヴァンギャルド、エクスペリメンタル
アルバム全体の印象
「Metal Machine Music」は、ルー・リードのキャリアの中でも最も異質で挑戦的な作品であり、音楽史においても極めて特異な位置を占めるアルバムだ。1975年にリリースされたこのアルバムは、従来の楽曲構成やポップスの枠組みを完全に放棄し、ノイズやフィードバックによる純粋な音の実験に特化している。全4トラックにわたる音響のカオスは、従来のリスナーに大きな衝撃を与え、当時は酷評されることも多かった。しかし、時間が経つにつれてその意図と影響が再評価され、アヴァンギャルド音楽やノイズミュージックの先駆的作品として語られるようになった。
ルー・リードはこのアルバムについて「クラシック音楽への敬意」と語っているが、その真意は謎めいており、リスナーを試すような挑発的な側面も見え隠れする。また、このアルバムが商業的なレーベルへの反抗として生まれたとも言われている。いずれにせよ、この作品は伝統的な音楽の枠組みを打ち壊し、アーティストの完全な自由と意志を表現した極端な例として注目されている。
本作は、決して万人に受け入れられるようなアルバムではない。しかし、ノイズミュージックや音響実験の世界を切り開いたその意義を考えると、無視することのできない作品である。
各曲解説
1. Metal Machine Music, Part I
アルバムの幕開けは、フィードバック音が渦巻く約16分間のトラック。高音域のノイズが耳を刺し、低音のハムが不穏な空気を生み出す。ここにはメロディやリズムは存在せず、全体が一つの抽象的な音響体験として展開される。初めて聴くと戸惑いを覚えるが、音に身を任せると奇妙な没入感が得られる。
2. Metal Machine Music, Part II
第2トラックは、第1トラックと連続して展開するが、音の密度がさらに増し、カオスが深まる。音の層が重なり合い、リスナーに強烈な感覚刺激を与える。繰り返されるパターンの中に微細な変化があり、集中して聴くことで音の「動き」を感じ取ることができる。
3. Metal Machine Music, Part III
アルバム後半に突入し、ノイズのダイナミクスが一層劇的になる。高音域のフィードバックが主軸となり、異様な緊張感が続く。ここまでくると、音楽というよりも環境音や工場の騒音のような印象を受けるが、それがこの作品の狙いでもある。
4. Metal Machine Music, Part IV
ラストトラックでは、全体の騒音が一つの頂点に達し、最後は突然途切れる。フィードバックが永遠にループする設計になっているため、最初に戻ったかのような感覚を覚えるリスナーもいる。リードが意図した「終わりのない音響実験」の象徴ともいえる締めくくりだ。
アルバム総評
「Metal Machine Music」は、ルー・リードの挑発と実験の精神が極限まで詰め込まれた作品であり、従来の音楽の枠組みを完全に超越している。その過激な内容ゆえに、リスナーを選ぶアルバムであることは否定できない。しかし、ノイズミュージックや音響芸術の歴史において、その影響力は計り知れない。聴くこと自体が一種の挑戦であり、ルー・リードというアーティストの飽くなき探求心と自由な精神を体感することができる作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「White Light/White Heat」 by The Velvet Underground
ノイズやエクスペリメンタルな要素が詰まったアルバムで、リードの前衛的な一面を垣間見ることができる。
「Yoko Ono/Plastic Ono Band」 by Yoko Ono
前衛音楽とノイズの要素が強いアルバム。音楽の枠組みを破壊する試みが「Metal Machine Music」と共通している。
「Trout Mask Replica」 by Captain Beefheart and His Magic Band
カオスと実験精神が溢れる一作で、ノイズや即興演奏の愛好家に響く内容。
「Music for Airports」 by Brian Eno
エクスペリメンタルなアプローチを持つが、「Metal Machine Music」とは対照的に静的で瞑想的な作品。
「Merzbow – Pulse Demon」 by Merzbow
日本のノイズミュージックの巨匠による一作。「Metal Machine Music」の後継的作品ともいえる音響体験が得られる。
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