Medicine Bow by The Waterboys（1985）楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Medicine Bow（メディスン・ボウ）」は、The Waterboysが1985年にリリースしたサード・アルバム『This Is the Sea』に収録された、アルバム中随一のスピード感と熱量を誇るロック・トラックである。
わずか2分半ほどの短い曲だが、その中には“衝動”と“旅”と“再生”が凝縮されており、まさにアルバムの中盤における爆発的なエネルギーの核となっている。

タイトルの「Medicine Bow」とは、アメリカ・ワイオミング州に実在する山地や町の名前でもあり、同時にネイティブ・アメリカンの伝統や儀式に結びつくスピリチュアルな響きをも持っている。曲中ではそれが「新たな旅路の目的地」として機能しており、過去の自分を断ち切り、未来へ突き進むための象徴として描かれている。

語り手は過去の後悔や罪を背負いながら、それでも「メディスン・ボウへ行く」と決意する。その疾走感は、まるで人生の交差点を全速力で駆け抜けていくような焦燥と希望を内包している。

2. 歌詞のバックグラウンド

アルバム『This Is the Sea』は、The Waterboysが掲げた“ビッグ・ミュージック”という理念の完成形であり、ロマンと哲学、スピリチュアリティと激しい情動がひとつに融合した作品である。
その中で「Medicine Bow」は、極めて肉体的かつ感覚的な楽曲として異彩を放つ。

この曲は、Mike Scott自身の“変わりたい”という強い衝動の表れでもあり、1980年代前半のポストパンクやニューウェイブの“抑制されたエネルギー”とは一線を画す、“純粋な生の爆発”のような曲調となっている。

「Medicine Bow」とは地名でありながら、ここでは精神的な“通過点”あるいは“浄化の地”としての意味を持つ。
ネイティブ・アメリカンの伝統において“medicine”は薬というより“癒し”や“力”の象徴であり、「Medicine Bow」は、過去のしがらみや痛みを振り払い、魂を再生させる場所として、象徴的に用いられている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I’ve got two things on my back
背中にしょってるものが二つあるんだ

A big black guilt and a red, red wound
大きな黒い罪悪感と、真っ赤な傷

I’m going to Medicine Bow
俺はメディスン・ボウへ行く

I’m going to lose them there
そこで全部捨ててくるつもりだ

I’m going to get clean
清められたいんだ

出典: Genius Lyrics – Medicine Bow by The Waterboys

4. 歌詞の考察

「Medicine Bow」は、その短い時間の中で、まるで魂の浄化と再生のドラマを駆け抜けるような構成となっている。
歌詞に出てくる「black guilt（黒い罪悪感）」と「red wound（赤い傷）」は、過去の過ちと深い感情の傷を象徴している。これらを“背負ったまま”では前へ進めないと悟った語り手が選んだ行動――それが“メディスン・ボウへ行く”という旅なのだ。

この旅は、現実的な移動ではなく、むしろ精神的・象徴的な“通過儀礼”である。
“going to get clean（清められたい）”というラインがそれを物語っている。つまりこの曲は、“魂の洗濯”を求める現代の巡礼者の歌なのである。

スピード感に満ちた楽曲構成も、まさに語り手の焦燥感と決意をそのまま反映している。ギターは激しく掻き鳴らされ、ドラムは鼓動のように疾走し、ヴォーカルはほとんど叫ぶように突き進む。
そのすべてが、過去を捨て、新しい自分へと生まれ変わろうとする衝動を生々しく描いている。

「Medicine Bow」は、その短さゆえに物語の“途中”しか語らない。しかしだからこそ、聴き手はその先に続く“自己再生の旅”を想像せずにはいられないのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

• Gloria by Patti Smith
  古典ロックの再構築を通じて“新しい自分の誕生”を高らかに宣言する名曲。
• Running Up That Hill by Kate Bush
  魂の交差と変容を描いた、精神的な疾走感を持つエレクトロニック・クラシック。
• Going to California by Led Zeppelin
  心の再生と逃避行をフォークロックで描いた、内なる旅の歌。
• Red Hill Mining Town by U2
  罪と再生、信仰と破滅の間で揺れる男の姿を描いたドラマチックなロックバラード。
• The Mercy Seat by Nick Cave & The Bad Seeds
  内面の罪と赦しを、激しいビートと聖書的イメージで描くゴシック・ロックの傑作。

6. 火花のように駆け抜ける、魂の解放

「Medicine Bow」は、The Waterboysが築いた“ビッグ・ミュージック”の中にあって、最も“生”の感触に近い楽曲である。
この曲には理屈も余白もない。あるのはただ、捨てられない過去と、それでも生き直したいという魂の叫びだ。

Mike Scottはこの短い楽曲で、“変わりたい”という気持ちがどれほど激しく、痛々しく、そして美しいものかを描いてみせた。
それは逃避ではなく、むしろ真正面から自分と向き合った者だけが辿り着ける、“魂の再出発点”なのだ。

「Medicine Bow」は、“何かを終わらせる勇気”と“もう一度始める力”を、激しい音とともに教えてくれる。
そしてその音は、旅の途中で立ち止まっているすべての人に、そっと背中を押してくれる。
行き先は、あなたの「Medicine Bow」かもしれない――その場所は、外ではなく、あなたの内側にあるのかもしれないのだ。