発売日: 2004年5月24日
ジャンル: フォーク、バロック・ポップ、アコースティック
魔法のために生まれた歌——Nick Drake、沈黙の奥から届いた“幻の肖像画”
『Made to Love Magic』は、Nick Drakeの死後30年を経て2004年にリリースされた編集アルバムであり、既発曲の別ミックス、リマスター、そして未発表音源を含む“Nick Drakeの補遺的肖像”ともいえる作品である。
本作の意義は、“コレクターズ・アイテム”にとどまらず、Nick Drakeという芸術家の内面をさらに深く掘り下げる「第二のポートレート」として機能している点にある。
特に、彼の死の直前に録音された「Tow the Line」や、母モリー・ドレイクが作詞した「Magic（I Was Made to Love Magic）」など、Nickの人生の終末やルーツに接近するような楽曲が含まれていることは、聴く者にとって決して小さな出来事ではない。
アレンジや音質の調整は、オリジナルの“儚さ”を壊さぬよう慎重に施されており、このアルバムは“Nick Drakeがそこにいた”という手触りを改めて感じさせてくれる静かな証言集となっている。
収録楽曲レビュー（抜粋）
1. Intro
Nick Drakeの父による録音日誌が冒頭に挿入される。家庭という密室から生まれた音楽の源を感じさせる私的な導入。
2. Hazey Jane II（未発表バージョン）
『Bryter Layter』よりも軽快なリズムが際立つ初期ミックス。Nickの“もう少し外に向けた”音楽性の瞬間が垣間見える。
3. Place to Be（リマスター）
『Pink Moon』からの再収録。ミックスの透明度が増し、Nickの声の奥行きがより鮮明に浮かび上がる。
4. Magic（I Was Made to Love Magic）
原題「I Was Made to Love Magic」を弦楽アレンジで再構築。Nickの幻想志向がくっきりと現れる、美しくも哀しいバラード。
5. River Man（オリジナル・オーケストラ・テイク）
名曲の異なるテイク。微妙に異なるテンポとニュアンスが、“同じ景色の違う光”のように響く。
6. Three Hours（初期バージョン）
よりプリミティヴで引き締まった演奏が印象的。Nickの瞑想的なサイドを強く感じさせる。
7. Tow the Line
Nick Drakeが最後に残した録音。シンプルなギターと声だけの構成だが、その静けさはまるで“終わりを告げる風”のように聴こえる。 本作最大の聴きどころ。
総評
『Made to Love Magic』は、Nick Drakeの作品世界を“再び聴く”のではなく、“別の角度から見つめ直す”ためのアルバムである。
そこにあるのは新発見というより、“知っていたはずの風景を、違う光で照らし出したもの”だ。
Nick Drakeの音楽は、完成されたカタログのような整合性よりも、欠けていた断片にこそ心を揺さぶる美しさがある。
このアルバムは、そんな“欠落の美”を丁寧にすくい取り、聴き手にそっと手渡してくれる。
Nick Drakeをすでに知る者には新たな静けさを、初めて触れる者には優しい入り口を——
『Made to Love Magic』は、沈黙に耳を澄ませるすべての人のために用意された、小さな祈りのような作品なのである。
おすすめアルバム
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Time of No Reply / Nick Drake
同じく未発表音源を集めた編集盤。Nickの“沈黙の声”に触れられる。 -
Bryter Layter / Nick Drake
Nickのもっとも華やかで洗練されたスタジオ作。 -
Molly Drake / Molly Drake
Nickの母による詩的なピアノと歌。Nickのルーツに出会える一枚。 -
The Lake / Antony & the Johnsons
Nickの幽玄な感性を継承する、儚く美しいバロック・フォーク。 -
Sketches for My Sweetheart the Drunk / Jeff Buckley
未完の美と死後発表という点でNickと共鳴する、現代の“魔法の残響”。
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