アルバムレビュー：m b v by My Bloody Valentine

アルバムレビュー

2024.10.17

発売日: 2013年2月2日
ジャンル: シューゲイザー、オルタナティブ・ロック、ドリームポップ

『m b v』は、My Bloody Valentineが1991年の名作『Loveless』以来、22年ぶりにリリースしたサードアルバムで、長い沈黙を破って発表された待望の作品だ。このアルバムは、バンドが『Loveless』のサウンドを踏襲しつつも、さらなる実験性と音楽的進化を遂げた一枚だ。Kevin Shieldsのギターワーク、Bilinda Butcherの夢幻的なボーカル、そしてバンド独自の「ノイズの壁」は健在で、リスナーを深い音の渦に引き込む。『m b v』はシューゲイザーというジャンルを再び刷新し、My Bloody Valentineが依然として音楽シーンにおいて唯一無二の存在であることを証明している。

各曲ごとの解説:

she found now
静かなイントロで始まる、アルバムの幕開けを飾るトラック。ぼんやりとしたギターと、Butcherのエーテルのようなボーカルが混ざり合い、まるで夢の中にいるかのような感覚を作り出している。ノイズは控えめだが、深く引き込まれるような静かなエネルギーが漂っている。
only tomorrow
重厚なギターリフとゆったりとしたリズムが特徴の楽曲。ギターの音は強烈に歪んでおり、Kevin Shieldsの独特なサウンドスケープが全開に広がる。ノイズの渦の中にある美しさが際立ち、感情の高揚感がゆっくりと押し寄せる。
who sees you
My Bloody Valentineらしい「ノイズの壁」が全面に出た一曲。歪んだギターが旋回するように響き渡り、音の流れが絶えず揺らいでいる。ビートは一定でミニマルだが、音響の奥行きが壮大で、圧倒的な音の重厚さがリスナーを包み込む。
is this and yes
ドリーミーでアンビエントな楽曲。シンセサイザーが主導するトラックで、ギターの存在感は控えめ。静かで瞑想的な雰囲気が漂い、他の曲とは異なるミニマルなサウンドアプローチが印象的だ。Butcherのボーカルは、音の中に静かに溶け込んでいる。
if i am
ミッドテンポで、リズムが前面に出たリラックスした雰囲気の楽曲。Butcherの優しく柔らかなボーカルが、曲全体に浮遊感を与えている。ギターのリフは繊細でメロディアスだが、背景に深いノイズが漂っており、独特の音響効果が印象的だ。
new you
シングルカットされたこの曲は、アルバムの中でも特にキャッチーで、ポップなメロディが印象的。ビートは軽やかで、ギターも歪みが抑えられている。Butcherのボーカルが際立ち、シューゲイザーの枠を超えたエレガントな一面が楽しめる楽曲だ。
in another way
エネルギッシュでノイジーなトラック。ギターのリフがダイナミックに展開し、リズムも非常にアグレッシブ。音の層が複雑に重なり合い、混沌とした音の渦が広がる。サイケデリックな要素が強く、聴く者を圧倒する力強さを持つ。
nothing is
アルバム中でも最も激しい曲の一つ。繰り返されるギターリフと強烈なビートが持続し、トランスのような感覚を生む。シンプルな構成ながらも、その反復がリスナーに強いインパクトを与える。
wonder 2
アルバムを締めくくるトラックで、ドラムンベースの要素を取り入れた斬新な楽曲。スピード感のあるビートに、ギターのフィードバックが轟音のように重なり、カオスの中にも美しさがある。実験的でありながら、サウンドは非常に洗練されており、アルバム全体を象徴するフィナーレにふさわしい一曲。

アルバム総評:

『m b v』は、My Bloody Valentineが22年ぶりに発表したアルバムでありながら、そのサウンドは驚くほど新鮮であり、バンドの進化を感じさせる作品だ。『Loveless』で確立されたシューゲイザーサウンドを土台にしつつも、新たな要素を取り入れ、実験性と美しさを追求している。ノイズとメロディの融合、エフェクトを駆使したギターサウンド、そして夢幻的なボーカルが見事に調和し、深い音の世界へとリスナーを導く。My Bloody Valentineは、シューゲイザーというジャンルの枠を超えた、音楽的冒険を続けていることをこのアルバムで証明している。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

Loveless by My Bloody Valentine
『m b v』の前作で、シューゲイザーの金字塔として広く知られるアルバム。ノイズとメロディの完璧な融合が、シューゲイザーの基礎を築いた。
Souvlaki by Slowdive
ドリーミーで浮遊感のあるサウンドが特徴のシューゲイザーアルバム。『m b v』の持つ美しさとノイズの融合が好きなリスナーにおすすめ。
Tomorrow’s Harvest by Boards of Canada
アンビエントでサイケデリックなサウンドが印象的なエレクトロニカアルバム。『m b v』のミニマルな要素や実験性と共鳴する部分が多い。
Psychocandy by The Jesus and Mary Chain
ノイズポップとシューゲイザーの先駆的作品。ギターのフィードバックとキャッチーなメロディの融合が、My Bloody Valentineのファンに響く。
Takk… by Sigur Rós
壮大でドリーミーなサウンドスケープを持つポストロックの名盤。『m b v』の持つ浮遊感や美しい音響世界に引き込まれたリスナーにおすすめ。