1. 歌詞の概要
「Lovestruck（ラブストラック）」は、カナダ出身のインディーロック・バンド **Parlor Greens（パーラー・グリーンズ）**によって2023年にリリースされた楽曲であり、若さゆえの衝動的な恋愛と、その裏にある自己喪失の感覚をテーマにした、どこかレトロで甘くもほろ苦い1曲である。
タイトルの「Lovestruck」は直訳すれば「恋に打ちのめされた」「恋に夢中」といった意味を持つ言葉だが、この曲では単なる陶酔感ではなく、**“恋に落ちることで失われていく自己認識”**がモチーフとなっている。軽快なテンポとエネルギッシュなギター・リフに反して、歌詞には「これは本当に“愛”なのか？ それともただの依存なのか？」と自問するようなニュアンスがにじむ。
耳馴染みのよいポップロックとして始まりながら、徐々に焦燥感が滲み出してくる構成は、まさに“恋という名のカオス”を音楽にしたような楽曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Parlor Greensは、トロントのDIYシーンから登場した比較的新しいバンドであり、その音楽性はガレージロック、60年代のビートバンド、そしてオルタナティヴ・カントリーの影響を受けた独特のミクスチャーとなっている。
「Lovestruck」は、彼らが初めて全国的に注目されるきっかけとなったシングルであり、SpotifyやBandcampを通じて徐々に熱狂的な支持を得た。バンドのインタビューによれば、この曲は**“一度も報われなかった恋”を描いたものであり、「誰かに夢中になったとき、人はどこまで自分を失うのか」をテーマに書かれた**という。
レコーディングはトロントの地下スタジオで行われ、ほぼライブ一発録りに近い手法で録音されたことにより、荒削りで生々しいエネルギーがそのままトラックに封じ込められている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“You got me tangled in your hair / I forget who I used to be”
「君の髪に絡めとられて、かつての自分を忘れてしまったよ」“Call it love, call it lust, call it anything but me”
「それを愛と呼ぶか、欲望と呼ぶか、どうでもいい──でもそこに“僕”はいない」“I was lovestruck, now I’m love-sick”
「恋に落ちて、今は恋にやられてしまった」“You’re a summer song stuck in my winter mind”
「君は僕の冬の心に貼りついた夏のメロディなんだ」
これらの歌詞は、恋の高揚感と、それが過ぎ去ったあとの空虚感の両方を同時に描いており、まるで浮かれて踊るなかで、ふと足元の不安定さに気づいた瞬間のような感覚を呼び起こす。
4. 歌詞の考察
「Lovestruck」は、表面上はキャッチーで明るいロックンロールだが、内面ではきわめて繊細で、恋にのめり込んだ果てに自分を見失う過程が描かれている。
「You got me tangled in your hair」という表現は、官能性と拘束性のあいだを揺れ動く巧みな比喩であり、愛がときに甘美であると同時に、危険でもあることを示唆する。「恋をすると自分を見失う」という主題は、多くのポップソングで扱われてきたが、Parlor Greensはそれを内省と皮肉を込めた詞世界で、なおかつ疾走感ある演奏に落とし込むことで、新鮮な切り口を提示している。
また、「Call it anything but me（それを“僕”とは呼ばないでくれ）」というフレーズは、恋愛における自己喪失、そして“関係のなかで自分が誰だったのか”というアイデンティティの崩壊を鋭くえぐっている。
この曲には、喜びも悲しみもあるが、何よりも「自分がそこにいた」という感覚の揺らぎが一貫して漂っている。それこそが「Lovestruck」の美しさであり、切なさなのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Fell In Love With A Girl” by The White Stripes
恋に落ちる高揚感とスピード感をギターとドラムだけで描いた名曲。共通する熱量がある。 - “Someday” by The Strokes
若さ、期待、失望が同居するインディーロックの傑作。Parlor Greensの音楽的祖先的存在。 - “Lover, You Should’ve Come Over” by Jeff Buckley
もっと深く、もっと感傷的な失恋の歌を求めるならこの一曲。感情の揺れが通じる。 - “No One’s Gonna Love You” by Band of Horses
淡く、少し距離のある愛の曲。Parlor Greensの叙情性とよく響き合う。 - “Bloodbuzz Ohio” by The National
内省的なリリックと浮遊感のあるアレンジ。恋と混乱を描く大人のポップソング。
6. 恋に夢中になった瞬間の「代償」とその美しさ
「Lovestruck」は、ただの甘い恋の歌ではない。それは、恋をしたときに人はどこまで“自分”を投げ出すのか、そしてその見返りとして何を得て、何を失うのかを問う、静かなエモーショナル・ドキュメントである。
Parlor Greensは、この楽曲で明らかに**“ポップソングの形式”を借りながら、もっと深い感情の表層をなぞっている**。ギターは陽気に鳴っていても、ドラムが転がっていても、その奥には未練や自己否定、そして少しの諦めが横たわっている。
それは、現代に生きる私たちが経験する恋の姿そのものであり、だからこそ「Lovestruck」は、聴くたびにどこか心の底をちくりと刺してくるような痛みと美しさを併せ持っている。
この曲を聴くことは、誰かを愛してしまった記憶に、ふと呼び戻されることかもしれない。
そしてその記憶は、たとえ痛くても、きっとどこか温かい。
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