Love to Love by UFO(1977)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Love to Love(ラヴ・トゥ・ラヴ)」は、UFOが1977年に発表したアルバム『Lights Out』のラストを飾るバラード調の名曲であり、彼らのディスコグラフィにおいて最も感情的かつ叙情的な作品の一つとして知られている。この楽曲は、ハードロックの枠を超えたスケール感と詩的な内省に満ちた、魂のエレジーである。

タイトルの「Love to Love」は、「愛することを愛する」という意味を持ちながらも、実際の歌詞では深い孤独と不安、そして壊れそうな愛の崇高さと儚さが描かれている。単なるロマンティックな愛の賛歌ではなく、感情の不安定さと信頼への恐れ、そしてすべてを手放すような告白が、抑制された語り口で静かに綴られている。

この楽曲における愛は、癒しであると同時に傷でもあり、救済であると同時に破滅の予感をもたらす。まるで夜明け前の静けさの中で囁かれる、最も人間的な嘆きのように、聴く者の心の奥底を揺さぶるのである。

2. 歌詞のバックグラウンド

1977年に発表された『Lights Out』は、UFOにとって音楽的成熟と商業的成功が結実したアルバムであり、「Lights Out」「Too Hot to Handle」などのアップテンポなロックナンバーが収録される中で、この「Love to Love」はアルバムの最後に置かれた静かなるクライマックスとして、圧倒的な存在感を放っている。

作詞はボーカルのフィル・モグによるもので、彼のリリカルなセンスが最も端的に表れている作品といえる。また、ギターのマイケル・シェンカーは、この曲で最も感情的なプレイを披露しており、イントロのアルペジオからソロの緊張感に至るまで、音そのものが感情となって流れ出すような構成になっている。

特筆すべきは、1979年のライヴアルバム『Strangers in the Night』に収録されたバージョンで、この曲は観客との呼吸すら計算されたような静と動の対比によってさらに完成度を高めている。スタジオ版では得られない、生の人間の揺れがそこにはある。

また、「Love to Love」は長年にわたり多くの映画やTVでも引用され、とりわけカルト的なファンからは**“ハードロック史上最も美しいバラードの一つ”**として崇敬を集めている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Oh it’s been too many times and I can’t go back
もう何度も繰り返した、でももう戻れない

Night bars, guitars, rundown motels like shacks
バーに、ギターに、掘っ立て小屋みたいなモーテルばかりの夜

What it amounts to I don’t want it at all
結局何だったんだろう――でももうどうでもいいんだ

Lost you and I want you today
君を失って、今日もまだ欲してる

Love to love you
君を愛すること――それがすべてだった

(参照元:Lyrics.com – Love to Love)

この一節からは、ツアーに明け暮れるロックスターの虚無感と、愛への飢えがにじみ出ている。

4. 歌詞の考察

「Love to Love」は、UFOの中でも最も“個人的な感情”が強く表出した楽曲である。それは華やかなラブソングではなく、愛という概念の儚さと、自らの不完全さへの深い自覚に満ちた告白のようなものだ。

ツアー生活の反復、関係の空虚さ、感情の摩耗――これらは1970年代のロックミュージシャンにとって避けがたい現実だった。その中で、フィル・モグは愛を「逃れられないもの」としてではなく、「もう一度信じたいもの」として語っている。そしてその“もう一度”が、どれだけ不確かな希望であるかも、彼はわかっている。

マイケル・シェンカーのギターは、こうした歌詞の言葉にならない余白を見事に埋めていく。特に間奏でのギターソロは、孤独、後悔、微かな希望をすべて詰め込んだ内面的カタルシスであり、単なる技巧の披露ではない。

さらに、曲の構造そのものが緊張と解放を繰り返しながら進んでいくことで、まるで感情のジェットコースターを体験しているかのような没入感を生み出している。これは、単なるハードロック・バラードでは到達しえない精神的深度である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Still in Love With You by Thin Lizzy
     愛の残り香を静かに歌い上げる、リジー屈指の哀愁ナンバー。

  • Soldier of Fortune by Deep Purple
     漂泊する男の孤独を美しいメロディで綴ったブルージーなバラード。
  • Dream On by Aerosmith
     人生の儚さと信念を語る、ハードロック史に残る叙情的アンセム。

  • Beyond the Realms of Death by Judas Priest
     精神の孤立と希望をテーマにした、重厚で美しいメタルバラード。

  • Mama, I’m Coming Home by Ozzy Osbourne
     反抗と和解の狭間にある感情をストレートに綴った、哀愁と力強さのバランスが絶妙な一曲。

6. “壊れた心で愛を歌うということ”

「Love to Love」は、単に“愛してる”という言葉を並べた曲ではない。むしろ、愛がうまくいかないこと、愛に傷ついたこと、愛の不在を自覚したその先にある、“それでも愛したい”という切なる願いが描かれている。

それは、誰もが通るかもしれない感情の落とし穴であり、ロックの表現としては異例の繊細さを持っている。ハードな音楽に生きるバンドが、このように静かで壊れやすい歌を最後に置いたという事実こそが、UFOというバンドの深さを物語っている。

「Love to Love」は、人生の長い夜の終わりにそっと寄り添うような楽曲である。強がりの裏にある本音、爆音の後の静寂。そこにこそ、人は最も真実に近づくのかもしれない。ハードロックというジャンルが到達し得た、最も静かな美しさがここにはある。

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