発売日: 2021年5月21日
ジャンル: インディーフォーク / アメリカーナ / ドリームポップ
Lord Huronの4作目となるスタジオアルバムLong Lostは、過去と現在、記憶と喪失の狭間を描いた叙情的な作品である。アルバム全体を通して感じられるのは、時代を超えたノスタルジアと、永遠に失われたものへの憧憬。タイトルの通り、「失われた長い時間」に焦点を当てており、物語性と音楽性が見事に融合した一枚だ。
本作では、架空のラジオ局「Whispering Pines Studios」を舞台にしたコンセプトが展開されている。この設定を通じて、アルバムはまるで古いAMラジオを聴いているかのようなヴィンテージ感を漂わせつつ、鮮やかで現代的なアプローチも加えている。リバーブの効いたボーカル、柔らかく流れるストリングス、そして広がりのあるサウンドスケープが特徴的で、アルバム全体が夢の中を漂うような体験をリスナーに与える。
トラック解説
1. The Moon Doesn’t Mind
静かで穏やかなイントロダクション。ギターと控えめなコーラスが織りなすこの短い楽曲は、アルバム全体のテーマである「時代を超えたノスタルジア」を象徴している。
2. Mine Forever
軽快なリズムとヴィンテージ風のギターリフが特徴の楽曲。失われた愛への憧れを歌いながらも、どこか明るさを感じさせる。「永遠に君のものだ」という歌詞が、切なさと希望の両方を伝える。
3. (One Helluva Performer)
架空のラジオ局のパフォーマンス音声として挿入されたインタールード。アルバム全体のコンセプトを補強する重要なトラック。
4. Love Me Like You Used To
恋愛の初期の情熱を懐かしむバラード。優しいストリングスとメロディが胸に響く。「かつてのように愛してほしい」という歌詞が多くのリスナーに共感を呼ぶだろう。
5. Meet Me in the City
フォークとドリームポップの要素を融合させた楽曲。都会の光と喧騒の中に埋もれた孤独感が描かれており、ギターとストリングスがその雰囲気を美しく彩っている。
6. Long Lost
アルバムのタイトルトラックで、壮大なサウンドスケープが印象的な一曲。過去への郷愁と永遠に失われたものへの憧れを歌った歌詞が、リスナーの心を締めつける。
7. Twenty Long Years
切なくも力強いメロディが特徴の楽曲。20年という長い時間がもたらす変化や失われた愛への苦悩が描かれている。シュナイダーのボーカルが特に感情的で、アルバムの中でも印象的なトラックだ。
8. (Drops in the Lake)
またしても架空のラジオ局を舞台にした短いインタールード。アルバムの雰囲気を一層深めている。
9. Where Did the Time Go
シンプルなギターのリフと穏やかなメロディが心地よい。時間の流れの速さに驚きながら、過去を振り返る切なさが歌われている。
10. Not Dead Yet
アップテンポでポップな楽曲。「まだ終わっていない」という歌詞が、喪失感を抱えながらも前向きに進むメッセージを届ける。アルバムの中では明るいアクセントとなっている。
11. I Lied (feat. Allison Ponthier)
美しいデュエットが際立つラブバラード。互いに嘘をつきながらも、愛を捨てきれない感情を歌っている。アリソン・ポンティアの繊細なボーカルがシュナイダーと絶妙にマッチしている。
12. At Sea
大海原を彷徨うような感覚を与える静かな楽曲。波音のようなサウンドスケープが印象的で、アルバムの中でも特に幻想的な雰囲気を持つ。
13. What Do It Mean
哲学的なテーマを持つ楽曲。静かなリズムと繰り返されるメロディが、人生の意味を問いかけるような感覚を生む。
14. Time’s Blur
10分を超える壮大なラストトラック。エクスペリメンタルな要素を取り入れたインストゥルメンタルに近い構成で、時間の感覚を歪ませるようなエフェクトと音の重層が印象的だ。
アルバムの背景: 記憶とラジオを介した物語
Long Lostは、Lord Huronがこれまで培ってきたストーリーテリングをさらに進化させ、架空のラジオ局という斬新なコンセプトを導入している。ラジオ局「Whispering Pines Studios」は、過去の記憶や忘れ去られた物語が集う場所として機能し、リスナーをアルバム全体の物語に引き込む役割を果たしている。ノスタルジックなサウンドは、まるで古いラジオから流れる楽曲のような温かみを持ちながら、現代的なプロダクションがその世界観を支えている。
アルバム総評
Long Lostは、Lord Huronのディスコグラフィーの中でも特に深い感情的な旅を提供する作品だ。美しいメロディと詩的な歌詞が、リスナーに忘れられた記憶や感情を呼び起こさせる。架空のラジオ局という設定がアルバムの物語性を強化し、これまでの作品以上に統一感のある世界観を作り上げている。リスナーにとって、Long Lostは単なる音楽以上の体験を提供する一枚だ。
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Crack-Up by Fleet Foxes
叙情的な歌詞と豊かなサウンドスケープが共通点のあるアルバム。
Punisher by Phoebe Bridgers
個人的な喪失感やノスタルジックな雰囲気を描いた作品で、感情的な共鳴を得られる。
The Shepherd’s Dog by Iron & Wine
フォークとドリームポップが融合したサウンドが、本作と響き合う。
Titanic Rising by Weyes Blood
ノスタルジックなムードとシネマティックなアレンジが共通する一枚。
The Suburbs by Arcade Fire
過去と現在、喪失感をテーマにしたストーリー性の高いアルバム。
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