
1. 歌詞の概要
「Livin’ Thing」は、Electric Light Orchestra(ELO)が1976年にリリースしたアルバム『A New World Record』に収録された代表曲の一つであり、愛や人生という“生きているもの”の壊れやすさと奇跡のような尊さを、軽快でダンサブルなサウンドに乗せて描いた名バラードかつポップソングである。
タイトルの“Livin’ Thing(生きているもの)”とは、愛、感情、魂、もしくは人生そのものを指しており、それは育まれるものでもあり、壊れるものでもあり、時に自分の意志を越えて動く“生き物”のような存在として描かれている。歌詞では、取り返しのつかない失敗や後悔を経た主人公が、その“生き物”を手放してしまったことを悔いながら、それでもなお前を見つめようとする葛藤が描かれている。
冒頭の弦楽器による情熱的なフラメンコ風アレンジや、キメの効いたリズム、重層的なコーラスワークがこの“命あるもの”のイメージを際立たせており、サウンドと歌詞が一体となって、感情の躍動と崩壊を劇的に描き出す。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Livin’ Thing」は、ジェフ・リン(Jeff Lynne)の卓越したソングライティングとアレンジ力を証明する作品として、ELOの中でも特に高く評価されている一曲である。アルバム『A New World Record』はELOが世界的ブレイクを果たすきっかけとなった作品であり、「Telephone Line」や「Do Ya」などとともに、「Livin’ Thing」はその中心に位置する。
この曲がリリースされた1976年は、ELOがロックとクラシック音楽を大胆に融合しつつ、よりポップで洗練されたサウンドを確立しはじめた時期であり、「Livin’ Thing」はそのスタイルの結晶と言える。シンフォニックなオープニング、ファンキーなリズムセクション、そして感情を揺さぶるメロディラインは、ELOの多層的な魅力を完璧に凝縮している。
歌詞の面では、“生きているもの”を失うこと、あるいは自ら壊してしまったことへの悔恨が基調にあるが、それを悲壮感たっぷりにではなく、むしろ軽快に、時にコミカルに歌い上げることが本作の魅力となっている。これはジェフ・リンが持つ、深い感情を明るい音で包み込む独自の美学を象徴している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Sailin’ away on the crest of a wave / It’s like magic”
波の頂を滑るように進む それはまるで魔法みたいだった
“It’s a livin’ thing / It’s a terrible thing to lose”
これは生きているもの 失ってしまうなんて恐ろしいことだ
“It’s a given thing / What a terrible thing to lose”
与えられたものなんだ それをなくすなんて、本当に恐ろしい
“Making believe this is what you’ve conceived from your worst day”
最悪の日に思いついたことを、まるで信じてるみたいだ
“Open up your eyes and see the things you’ve done”
目を開けて見てごらん 自分がしてきたことを
歌詞引用元:Genius – Electric Light Orchestra “Livin’ Thing”
4. 歌詞の考察
「Livin’ Thing」が巧みなのは、その歌詞が非常に抽象的かつ普遍的な表現で構成されているため、聴き手それぞれが自由に意味を読み込めるところにある。「It’s a livin’ thing(それは生きているもの)」というフレーズは、愛や希望、関係性、心そのものなど、様々な対象に置き換えることができる。
その“生きているもの”を失うことが「terrible(恐ろしい)」だと繰り返されることで、歌の主人公が深い後悔や喪失の感情を抱いていることが分かる。と同時に、「making believe this is what you’ve conceived from your worst day(最悪の日に思いついたことを信じ込んでる)」というラインからは、自己破壊的な選択をしてしまったことへの反省や、再起をかけた葛藤がにじみ出ている。
また、「Open up your eyes and see the things you’ve done(目を開けて見てごらん、君がしてきたことを)」というフレーズは、自己への警鐘でありながら、同時にリスナーに向けられたメッセージのようにも響く。自らの行動の結果と向き合い、喪失の意味を知ることで、もう一度“生きているもの”の価値を取り戻そうとする姿勢が感じられるのだ。
ELOの音楽はよく“壮大であるがゆえに感情に寄り添わない”という批評を受けることもあるが、「Livin’ Thing」はその逆で、壮大さと感情の繊細さが同居する極めてパーソナルな楽曲である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mr. Blue Sky by Electric Light Orchestra
ポジティブな高揚感のなかに、孤独な問いかけが潜むELOの代表曲。 - Everybody’s Got to Learn Sometime by The Korgis
愛と喪失、成長を静かに歌い上げるバラードの名曲。 - You Make My Dreams by Hall & Oates
愛という“生きているもの”がもたらす興奮を、軽快に描いたポップソング。 - Don’t Let the Sun Go Down on Me by Elton John
愛が離れていく恐怖と、それでも希望を抱こうとする姿勢をドラマチックに描いた作品。
6. “失うことの恐ろしさ、そして生きるということ”
「Livin’ Thing」は、そのキャッチーなメロディと、リズム感のあるアレンジがあまりに見事であるため、つい“楽しい曲”として受け取られがちである。しかしその実、人生の中でもっとも切ないテーマ——大切なものを失ってしまったときの絶望と、それでも生きていかなければならないという現実——を、ポップミュージックの形式で巧みに描いた詩的作品である。
失うことの恐ろしさを知っているからこそ、“生きているもの”は輝く。その“命あるもの”を守るために、私たちは選び、時に後悔しながらも歩み続ける。ジェフ・リンの優しい視線と、ELOの壮麗なサウンドが一体となって、この楽曲は**“人生のほろ苦さ”と“感情の美しさ”を見事に可視化している**。
「Livin’ Thing」は、生きているということ、愛するということ、それを失うことの痛みを、踊るようなリズムと共に見つめ直させてくれる珠玉のポップロックだ。“それ”が何であれ、あなたにとっての“生きているもの”の価値を再確認させてくれる1曲である。
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