発売日: 1971年1月
ジャンル: サザンロック、スワンプロック、ルーツロック
概要
『Little Feat』は、ローウェル・ジョージ率いるリトル・フィートが1971年に発表したデビュー・アルバムであり、ブルース、カントリー、サザン・ロックを軸にした実験的かつ荒削りな音作りを特徴としている。
本作は、ローウェルがフランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションを離れた直後に結成したバンドによって制作され、バンドの後年の洗練されたファンキーなサウンドとは異なる、生々しい初期衝動が刻まれた作品となっている。
レオン・ラッセルやデルタ・ブルースからの影響も色濃く、ロサンゼルスのロックシーンの一角にありながら、南部の泥臭いサウンドと都市的なひねりが共存している。
このアルバムは商業的には成功しなかったが、後に多くのミュージシャンが影響を受けるカルト的な作品として位置づけられるようになる。
全曲レビュー
1. Snakes on Everything
跳ねるようなピアノリフとスライドギターが導入から印象的なナンバー。
タイトルの通り皮肉や風刺の効いた歌詞で、ローウェルらしいユーモアと奇妙な比喩が詰まっている。
ブルースとニューオーリンズR&Bを交差させたようなアレンジが特徴的で、リトル・フィートの“都会のスワンプ”という独自路線が垣間見える。
2. Strawberry Flats
フランク・ザッパ的な言語感覚を残したトラックで、トーキング・ブルースのような語り口がユニーク。
歌詞ではヒッピー文化への皮肉や個人的な幻滅が描かれ、ポップに見せかけてかなりの毒を含んでいる。
ローウェルのボーカルは飄々としていながらも、どこか痛烈な視線を帯びている。
3. Truck Stop Girl
カントリーの文法に則りながらも、ローウェルのヴォーカルとギターが都会的な哀愁を漂わせる。
旅する男とトラックストップの少女との切ない物語が綴られ、アメリカ南部のロードムービー的情景を描く。
後にバーズやリンダ・ロンシュタットもカバーした、隠れたスタンダード。
4. Brides of Jesus
ゴスペル調のハーモニーとブルースが交錯する曲で、聖書のイメージをブラックユーモアで反転させたような歌詞が印象的。
スライドギターとオルガンの絡みが見事で、信仰と欲望のあいだを揺れ動くアメリカの一断面を映し出している。
5. Frozen Warnings
ナicoの同名曲とは別物で、本作では陰鬱でスローなブルース・バラードとして展開される。
寒々とした音像が特徴で、ローウェルの内面に潜む孤独が露わになった一曲といえる。
6. Hamburger Midnight
本作でもっともストレートなブギー・ロック。
セックス、飢え、暴力といった夜の風景を、粗暴なユーモアで切り取っている。
バンド全体がスリリングに駆け抜ける演奏で、アルバム前半のクライマックス的存在。
7. Forty Four Blues / How Many More Years
ウィリー・ディクソンのクラシック・ブルース「Forty Four Blues」とハウリン・ウルフの「How Many More Years」をメドレー形式でカバー。
荒削りながら、リトル・フィートのルーツ音楽への深いリスペクトがにじみ出る。
このカバーで見せるローウェルのギターとリズム隊の緊張感は特筆に値する。
8. Crack in Your Door
怪しげなイントロとスライドギターが醸す、心理スリラー的ムード。
“ドアの隙間”という象徴的なフレーズから、恐れや不安、秘密といったテーマが浮かび上がる。
ローウェルのヴォーカルはささやくようでいて、内に強い熱を秘めている。
9. I’ve Been the One
意外にもポップなメロディを持つラブソング。
だが単なる恋愛賛歌ではなく、「自分はずっとそばにいたのに」という寂しさと報われなさがにじむ。
バンドの繊細な一面を伝える美しいバラードである。
10. Takin’ My Time
ゆったりとしたテンポに乗せて、人生の速度を問い直すようなリリックが展開される。
「急ぐ必要なんてない」と語りかけるようなローウェルの声が、聴き手に不思議な安堵をもたらす。
のちの“Dixie Chicken”にもつながる、のんびりとしたフィート節の萌芽。
総評
『Little Feat』は、のちのファンキーで洗練されたサウンドとは大きく異なる、ラフでブルージーな音像に満ちている。
だがそれゆえに、ローウェル・ジョージという稀有なソングライターの初期衝動や実験精神が色濃く刻まれており、聴き手にとっては発見の多い一枚でもある。
アメリカ南部の土着性とロサンゼルスの都会性が交錯するサウンドスケープは、同時代のザ・バンドやリトル・リチャード、さらにはキャプテン・ビーフハートにも通じるものがある。
商業的成功には至らなかったが、後に続くアーティストたちにとっての隠れた金鉱のような存在となり、ルーツ志向のロック再評価の流れの中で再発見され続けている。
時代に迎合せず、むしろ時代に抗うように鳴らされた音が、50年を経た今も鮮やかに響く。
リトル・フィートの“はじまり”を聴くという意味でも、極めて重要なアルバムである。
おすすめアルバム（5枚）
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The Band – Music from Big Pink (1968)
アメリカン・ルーツロックの原点のひとつとして、リトル・フィートと精神的に共鳴する存在。 -
Frank Zappa – Hot Rats (1969)
ローウェル・ジョージの師とも言えるザッパが制作した、変拍子と実験精神あふれる傑作。 -
Ry Cooder – Into the Purple Valley (1972)
同時代のルーツ指向を持つギタリストによる、オールド・アメリカーナ再解釈の好盤。 -
Captain Beefheart – Safe as Milk (1967)
ブルースをひねり倒した先鋭的ロック。ローウェルのスライドギターにも通じる奇矯さがある。 -
Delaney & Bonnie – On Tour with Eric Clapton (1970)
サザンソウルとロックの結合点を示したライブ作。スワンプロックの雰囲気が共通する。
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