1. 歌詞の概要
「Listen, the Snow Is Falling」はGalaxie 500が1990年のアルバム『This Is Our Music』で披露した楽曲であり、彼らがカバーした作品である。原曲は1971年にYoko Onoが発表した「Listen, the Snow Is Falling」で、ジョン・レノンとの共作時代に生まれた繊細な一曲だった。Galaxie 500はその楽曲を取り上げ、オリジナルの持つ透明感と静謐さを受け継ぎながら、独自のドリームポップ的なサウンドで再構築している。
歌詞の内容は極めてシンプルで、雪が静かに降り積もる様子を描いている。雪という現象をただ観察するだけのように見えるが、その背後には無垢さや時間の移ろい、そして孤独や浄化といった感情が重ねられている。Galaxie 500のバージョンでは、その淡々とした歌唱と空間的な演奏が雪の静けさを音楽的に表現しており、聴き手に瞑想的な感覚を与える。
2. 歌詞のバックグラウンド
Galaxie 500が『This Is Our Music』を発表した1990年は、彼らの短い活動期間の終盤にあたる。このアルバムはジャズ奏者オーネット・コールマンの同名アルバムへのオマージュとしてタイトルがつけられ、前作『On Fire』に比べてより多様な試みがなされている。その中で「Listen, the Snow Is Falling」は特異な位置を占めている。
原曲のYoko Ono版は、ジョン・レノンとの関係が色濃く反映された作品群のひとつであり、雪という普遍的なテーマを通じて愛や平和を表現した曲だった。Galaxie 500はその楽曲をカバーすることで、自らの「静けさと余白の美学」をより強く際立たせた。Dean Warehamの歌声は気だるさと無垢さを同時に帯び、Naomi YangのベースとDamon Krukowskiの抑制的なドラムがその響きを支える。
このカバーの選曲には、バンドの美意識と時代性が反映されている。90年代初頭に向かうオルタナティブ・ロックの潮流は、爆発的なエネルギーを帯びつつあったが、Galaxie 500はその逆を行き、内省と静謐さを徹底した。「Listen, the Snow Is Falling」はその象徴的な楽曲となったのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Listen, the Snow Is Falling」の一部を抜粋し、英語の歌詞と和訳を併記する。
（歌詞引用：Genius）
Listen, the snow is falling
耳を澄ませてごらん、雪が降っている
Over town
町の上に
Listen, the snow is falling
耳を澄ませてごらん、雪が降っている
Everywhere
至るところに
Between Tokyo and Paris
東京とパリのあいだにも
Between London and Dallas
ロンドンとダラスのあいだにも
Between your love and mine
そして、君の愛と僕の愛のあいだにも
歌詞はきわめて直接的で、雪があらゆる場所に降り積もる様子を語っている。しかし、都市名を挙げて世界を横断する視点を持たせることで、雪が持つ「普遍性」「境界を越える力」が強調されている。そして最後には「愛」と結びつけられ、自然現象と人間の感情が一体化していく。
4. 歌詞の考察
「Listen, the Snow Is Falling」は、雪という自然現象を通じて普遍的なテーマを描いた楽曲である。雪は国境も都市も、人種や文化も分け隔てなく降り積もる。これは、愛や平和が持つ「普遍性」を象徴するメタファーとして機能している。Yoko Onoが原曲で込めたメッセージもそこにあったが、Galaxie 500の解釈ではそのメッセージ性がさらに抽象化され、より詩的で夢幻的な響きへと変換されている。
「Between your love and mine」というフレーズは、雪が人と人の関係性にも介在することを示している。これは愛の隔たりや距離をも溶かし、ひとつに包み込む力を持つ雪のイメージを強調する。同時に、その「距離」を残している点がGalaxie 500らしい。完全な融合ではなく、隔たりの中に存在する曖昧さを描くことで、聴き手に余韻を残している。
また、この曲の演奏はゆったりとしたテンポと持続音が中心で、雪の舞い落ちる様子を音楽的に表現している。ギターのアルペジオは雪片のひとつひとつのきらめきを思わせ、ヴォーカルは雪に包まれた静けさそのもののようだ。歌詞のシンプルさと音楽の広がりが呼応し、雪が世界を覆うイメージを体感的に伝えてくる。
この曲がアルバム『This Is Our Music』のラストに収録されていることも象徴的である。アルバム全体を通じて追求された内省と静謐は、最後に「雪」という普遍的なテーマによって結晶化し、リスナーに余韻を残す。バンドの終焉を目前にした時期に、この曲が選ばれたことは、Galaxie 500の美学を総括する意味合いを持っていたともいえる。
（歌詞引用：Genius）
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Flowers by Galaxie 500
花をモチーフに人間の記憶や喪失を描いた詩的な楽曲。 - Tugboat by Galaxie 500
彼らの代表曲で、孤独と夢想を淡々と歌い上げる。 - Fade Into You by Mazzy Star
愛と孤独を幻想的な音像の中で表現する名曲。 - Lorelei by Cocteau Twins
抽象的な歌詞と夢幻的なサウンドが「雪の降る静けさ」と共鳴する。 - Untitled #3 (“The Moon Song”) by Sigur Rós
雪のような透明感を持つアンビエント的楽曲で、Galaxie 500的美学を受け継ぐ。
6. Galaxie 500と「雪」のモチーフ
Galaxie 500の音楽には、自然現象をモチーフとした楽曲が少なくない。『On Fire』に収録された「Snowstorm」が吹雪の厳しさと孤独を描いたのに対し、「Listen, the Snow Is Falling」は雪の普遍性と包容力を描いている。いずれも雪を通じて人間の感情や存在を照らし出しており、自然を単なる背景ではなく感情の媒介として捉えている点が共通している。
この曲はバンドの最後のアルバムの締めくくりとして、彼らの美学を象徴的に提示した。雪がすべてを覆い尽くすように、Galaxie 500の音楽もまた聴き手の記憶に静かに積もり続ける。30年以上が経った今も、この曲の持つ透明感と余韻は色褪せず、ドリームポップの重要な遺産として輝き続けている。
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