発売日: 2020年4月10日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グランジ、ハードロック、インディーロック
概要
『Lifers』は、Local Hが2020年にリリースした通算9作目のスタジオ・アルバムであり、
キャリア30年を迎えた2人組が、いまだ鋭利でしぶとい“ロックの現場主義”を貫き続けることを高らかに宣言した一作である。
タイトルの「Lifers」とは、「一生をかける人」「定職者」「終身刑囚」といった意味を持つ。
それはすなわち、“音楽業界を生き延びてきた者たち”に対する賛歌であり、
同時にこの混沌とした世界にあって、変わらずにギターとドラムだけで吠え続ける“生き残り”の覚悟を示している。
本作は前作『Hey, Killer』と同様、Ryan Harding（Dr.）との2人編成で制作され、
ヘヴィでありながらも洗練されたサウンド、ライブさながらの衝動感、そしてシニカルなリリックが三位一体となった濃密なロック体験を提供する。
プロデュースは前作に引き続き、Alt-rock界の重鎮Steve Albiniが担当。
そのドライで骨太な音像が、Local Hの持つリアリズムと剥き出しの感情を鮮やかに引き出している。
全曲レビュー
1. Patrick Bateman
映画『アメリカン・サイコ』の主人公にちなむタイトル。
現代社会における虚無と快楽主義の暴走、暴力性とナルシシズムを描く攻撃的オープナー。
ヘヴィで不穏なイントロが印象的。
2. Hold That Thought
キャッチーなギターリフと、“言いたいことを飲み込む”ことへの苛立ちが交錯する王道ロックナンバー。
無駄を削ぎ落としたアレンジが、Local Hらしさ全開。
3. High, Wide and Stupid
タイトル通りの痛烈な風刺ソング。
SNS時代の言葉の軽さと群集心理の愚かさをコミカルかつ攻撃的に描写する。
4. Turn the Bow
バンド中盤のハイライト。
「このままじゃ座礁する、舵を切れ」と叫ぶその言葉は、音楽業界・アメリカ社会・自分自身の進路への警鐘のようでもある。
スロウビルドからの爆発が圧巻。
5. Beyond the Valley of Snakes
不気味なスネアとサイケデリックなギターが絡むミドルテンポのナンバー。
“蛇の谷の向こう側”という比喩は、裏切り、嘘、腐敗を抜けた先に何があるのかという問いかけに。
6. Sunday Best
皮肉なタイトルに反して、曲調は荒々しいグランジ回帰型。
「良い顔してるけど本音はどこ？」というテーマが、外面と内面の落差、社会的仮面への怒りを映し出す。
7. Winter Western
本作でも異色のメロウ＆ダウナーな楽曲。
寒冷な風景の中、“何も変わらないアメリカ”に立ち尽くす個人の姿を描いたような孤高のバラード。
8. Demon Dreams
悪夢と現実が交錯する、スラッジ気味のサウンドと浮遊感のあるメロディが印象的。
内面の影をそのまま音像化したような、サイケとヘヴィネスの交差点。
9. Farrah
どこかノスタルジックな雰囲気を纏ったナンバー。
往年の女優ファラ・フォーセットをモチーフに、憧れ・記憶・喪失といったテーマが交錯する。
繊細なメロディラインが心に残る。
10. Defy and Surrender
最終曲にふさわしい力強いミッドテンポ。
「抗うことと、委ねることの両方を持て」というフレーズが、成熟したバンドの哲学を象徴する。
荒々しくも清々しい締めくくり。
総評
『Lifers』は、Local Hが自らのキャリアと信念を更新し続ける存在であることを力強く示したアルバムである。
スコット・ルーカスとライアン・ハーディングによる2人編成は、制約どころかむしろ武器となり、
徹底して生々しく、かつ鋭く構成されたロックが炸裂する全13曲は、
まさに“生涯ロッカー＝ライファー”の称号にふさわしい内容となっている。
怒りはまだある。疑念も、哀しみも、信念もある。
それでもこのアルバムは、単なる嘆きではない。
生き残ってきた者たちによる、過去と未来に対する意志の宣言なのだ。
おすすめアルバム
- METZ『Atlas Vending』
剥き出しのサウンドと精神的疲労感が共鳴する、現代ノイズロックの代表作。 - Drive-By Truckers『The Unraveling』
社会批評とルーツロックの融合。Lifersと同年リリース、テーマ的親和性が高い。 - Slothrust『Everyone Else』
ロックの原型を再解釈するようなダイナミックな展開と内省の濃さが近い。 -
Bob Mould『Blue Hearts』
パンキッシュな衝動と政治的メッセージを貫く姿勢はLocal Hの精神と通じる。 -
Queens of the Stone Age『…Like Clockwork』
成熟した暴力性と内省の融合。Local Hの現在地と重なるサウンドスケープ。
ファンや評論家の反応
『Lifers』はリリース当初から、**“Local H史上、最もタイトで力強いアルバム”として多くのファンから賞賛され、
ベテランながらマンネリに陥ることなく、むしろ“今が最も生き生きとしている”**という稀有な評価を獲得した。
パンデミック直前に発表されたことからプロモーション活動は制限されたが、
むしろそれが本作の“耐える者たち”というテーマと絶妙にシンクロ。
ロックバンドのサバイバルとは何かを体現した、まさに生き証人のような一作である。
Local Hは今日も生きている。叫び続けている。
『Lifers』はその事実を、これ以上なく誠実に証明してみせた。
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