
発売日: 1970年5月8日
ジャンル: ロック、バラード、ゴスペル、ブルース
崩壊と希望の狭間で——“最後”をめぐる矛盾の物語
Let It Beは、The Beatles最後のスタジオ・アルバムとして知られている。
だが実際には、本作はAbbey Roadの後に発売された“解散後”の作品であり、録音順としては先に行われた“未完成”のまま放置されたセッション音源が基になっている。
当初「Get Back Sessions」としてライブ的アプローチを目指したが、制作は難航し、メンバーの不和が表面化。
その後、フィル・スペクターがプロデューサーとして参加し、オーケストラやコーラスを加えて“完成”させた。
だがそのプロダクションはポール・マッカートニーを激怒させ、特に「The Long and Winding Road」の過剰な装飾は物議を醸した。
にもかかわらず、このアルバムにはビートルズというバンドの“終焉”と“希望”が共存する奇跡的瞬間が、確かに刻まれている。
全曲レビュー
1. Two of Us
ポールとジョンのハーモニーがよく響く、アコースティックな旅の歌。
友情と別れを予感させる柔らかな空気が漂う。
2. Dig a Pony
ジョンらしいナンセンスな歌詞とダイナミックな演奏。
セッションのラフさがそのまま魅力になっている。
3. Across the Universe
美しいメロディと精神性の高い歌詞が特徴。
「Nothing’s gonna change my world」というリフレインが永遠の祈りのように響く。
4. I Me Mine
ジョージによる自己中心性への風刺。
ワルツとロックを切り替える構成が印象的。
5. Dig It
ジョンの即興による実験的な断片。
アルバムの中で最も異質な小曲。
6. Let It Be
ポールが母親の夢をヒントに書いた、バンドの“遺言”のようなバラード。
静けさと希望が同居する、聖歌のような一曲。
7. Maggie Mae
伝統的なイギリスのフォークソングを短く取り上げたユーモアある挿話。
8. I’ve Got a Feeling
ポールとジョンがそれぞれ書いた曲を合体させたコラージュ形式。
エネルギーと余韻が共存する。
9. One After 909
初期の曲をセッションで再演。
バンドのルーツを辿るようなロックンロール。
10. The Long and Winding Road
ポールによる叙情的なピアノバラード。
スペクターによるストリングスと合唱が感傷的に響く。
11. For You Blue
ジョージによるブルース調の軽快なナンバー。
ジョンがスライドギターを担当し、メンバー間の温もりを感じさせる。
12. Get Back
アルバムのラストを飾るロックンロール。
原点回帰を象徴しつつ、未来へと繋がるような開かれたエンディング。
総評
Let It Beは、制作の混乱とメンバー間の断絶を経た“解散アルバム”でありながら、驚くほどの人間味と希望を湛えた作品である。
バンドの終焉という現実を受け止めながらも、その音楽には未だ解けきらない絆と創造の火が灯っている。
そして「Let it be(あるがままに)」という言葉は、騒がしすぎた時代とバンド自身にとっての祈りでもあったのだ。
おすすめアルバム
- Abbey Road by The Beatles
——実質的にはビートルズ最後のスタジオ・セッションによる傑作。構成美と成熟が光る。 - McCartney by Paul McCartney
——ビートルズ解散直後に発表された、自宅録音の素朴なソロ作品。 - Plastic Ono Band by John Lennon
——痛みと告白に満ちた、ジョンの“魂の解放”アルバム。 - All Things Must Pass by George Harrison
——ジョージの創作が一気に花開いた、3枚組の壮大なソロデビュー。 - Let It Be… Naked by The Beatles
——フィル・スペクターのアレンジを除き、当初の意図に近づけた再編集版。
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