アルバムレビュー：Latest Thing by The Nixons

発売日: 2000年6月13日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポスト・グランジ、パワー・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
制作の裏側（Behind the Scenes）

概要

『Latest Thing』は、The Nixonsが2000年にリリースした通算4作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのメジャー・レーベル期を締めくくる作品である。

前作『The Nixons』（1997）でストレートなロック・サウンドを打ち出した後、彼らは本作においてよりポップで洗練された方向性へと舵を切った。
サウンドは相変わらずタイトで男臭いが、キャッチーなフックやサビの展開、そしてパワー・ポップ的なメロディ感が強くなっており、“ラジオ向けロック”への意識が色濃く反映されている。

アルバムタイトルの『Latest Thing』は、“最新の流行”という意味だけでなく、バンド自身の進化・現在地を示す言葉として機能している。
時代はすでにポスト・グランジからポップ・パンクやラップ・ロックへと移行しつつあったが、The Nixonsはその中でも自分たちなりの“最新型”を探ろうとした。

結果として、本作は最もアクセスしやすく、同時に最もバンドのアイデンティティが揺れていた時期を象徴する作品となっている。

全曲レビュー

1. Sad, Sad Me

前作にも収録されていたナンバーの再録。
より洗練されたサウンドで再構築され、キャッチーなコーラスが前面に出ている。

2. First Trip

軽快なビートとポップなメロディが印象的なナンバー。
青春と逃避行をテーマにしたリリックが、明るくもどこか切ない。

3. Latest Thing

タイトル曲にして本作の象徴的楽曲。
“僕たちが新しい”という開き直りと自己肯定感が、パワフルなギターとともに鳴り響く。

4. Giving It All

ストレートなロック・ソング。
恋愛と自己喪失のはざまで揺れる感情を、爽快なアレンジで包み込む。

5. My Good Friend

友情をテーマにした穏やかなバラード。
パーソナルで温かみのあるメロディが心に残る佳曲。

6. Leave Her Alone

ヘヴィでややダークなサウンドが印象的なミッドテンポ曲。
リリックには“守るべき存在”と“干渉の是非”という二重のテーマが潜む。

7. Fragile

パワー・ポップ寄りのアプローチで展開される一曲。
“壊れやすい”というキーワードが、現代的な脆弱さや人間関係の不安を表現。

8. O’Leander

文学的なタイトルとメロディが魅力のミディアム・ロック。
少しひねりの効いた構成とギターのフレーズが秀逸。

9. Headlights

旅と夜をテーマにした、アメリカンロック的なスケール感を持つ楽曲。
疾走感とセンチメンタリズムが同居する構成。

10. June is Dying

アルバム終盤のバラード。
季節の移り変わりを喪失と重ね合わせた、静かで叙情的な一曲。

11. More

ラストを飾るにふさわしい、感情のうねりを描いたロックバラード。
“もっと”という欲望と絶望が交錯する、エモーショナルな締めくくり。

総評

『Latest Thing』は、The Nixonsが2000年代という新たなフェーズに向けて“何かを変えよう”としたアルバムである。
その変化は決して劇的ではないが、サウンドの洗練、メロディの明瞭さ、プロダクションのモダンさからは、バンドが“次の扉”を開こうとした努力が感じられる。

ただし、その一方で、バンド特有の荒削りさやエモーショナルな爆発力が後景に退いたことにより、コアなファンの中には“丸くなった”と感じる声もあった。
『Foma』や『The Nixons』にあった、ギリギリの切実さや剥き出しの感情はやや抑制され、本作では代わりに“普遍性”と“親しみやすさ”が前面に出ている。

それでも、メロディと歌詞、演奏のクオリティは高く、パワー・ポップ的な側面においては、The Nixonsの中でも屈指の完成度を誇る。
『Latest Thing』は、バンドにとっての“終章”の始まりであり、静かな変化と進化の記録なのだ。