Last Train to London by Electric Light Orchestra(1979)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Last Train to London」は、Electric Light Orchestra(ELO)が1979年にリリースしたアルバム『Discovery』に収録された楽曲であり、ディスコの高揚感と失恋の切なさを同居させた、洗練された都会派ラブソングである。

タイトルの「Last Train to London(ロンドン行き最終列車)」は、時間切れ、別れの予感、そして愛する人との別離を象徴するモチーフとして登場する。歌詞は、恋人との夜のひとときを過ごした主人公が、彼女が“最終列車に乗って帰ってしまう”ことで取り残されるという情景を描いている。そのシンプルな物語の背後には、一瞬の幸福と、その後に訪れる孤独が繊細に織り込まれている。

また、この曲の魅力はストーリーだけでなく、恋の魔法がかかったかのような夢見心地のサウンドと、去っていく恋人への未練が込められた切ないボーカルにある。ELOらしいストリングスの躍動感とシンセサイザーの煌めきが都会の夜の風景を彩り、ディスコ調のリズムがどこか切なさを帯びながらも踊らせる。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲はアルバム『Discovery』からの5枚目のシングルとして1979年にリリースされ、イギリスやヨーロッパを中心にヒットした。『Discovery』はELOが本格的にディスコやソウルのリズムを取り入れたポップ・アルバムであり、「Last Train to London」はその中でも最も洗練されたシティポップ的な空気をまとう楽曲である。

ジェフ・リン(Jeff Lynne)は、当時の音楽トレンドを鋭く取り入れつつも、クラシカルな旋律美とセンチメンタルな詩情を保ち続けるバランス感覚を持っており、この曲でもその特性が存分に発揮されている。とくにこの曲では、ABBAやBee Geesとも共鳴するような、都会的でミニマルなアレンジとメロディの融合が印象的だ。

また、夜の終わり=別れというテーマは、1970年代のポップミュージックで頻出するモチーフであり、「Last Train to London」はその代表的な作品の一つに数えられる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“It was 9:29, 9:29 back street big city”
あれは9時29分 大都市の裏通りでのことだった

“The sun was going down, there was music all around”
夕日が沈みかけていて あたりには音楽があふれていた

“It felt so right / It was love at first sight
完璧な瞬間だった まさに一目惚れってやつさ

“But she had to go / She couldn’t stay”
でも彼女は行かなきゃならなかった とどまれなかったんだ

“I just couldn’t bear to see her leave me”
彼女が去っていくのを見るのは 耐えられなかった

“Don’t say no, my love is real”
「ダメ」なんて言わないで 僕の愛は本物なんだ

“On the last train to London, just heading out”
ロンドン行きの最終列車に乗って 彼女は出ていってしまった

歌詞引用元:Genius – Electric Light Orchestra “Last Train to London”

4. 歌詞の考察

この曲の主人公は、一夜の恋、あるいは短い逢瀬を経て、深い愛情を感じた相手との別れの瞬間を体験している。物語は、9時29分という具体的な時間から始まり、夕暮れ、音楽、都市の喧騒といった要素が詩的に描かれることで、一夜のロマンスの高揚感と終焉の儚さを見事に表現している。

特に、「She had to go, she couldn’t stay(彼女は行かなきゃならなかった)」というラインは、相手の意志ではなく“事情”による別れを示しており、運命の無情さと、主人公の無力感を際立たせる。

「Don’t say no, my love is real(ダメなんて言わないで、僕の愛は本物なんだ)」という叫びは、すでに遅れてしまった愛の告白であり、それがなおさら聴く者の胸に刺さる。つまりこの曲は、“恋が始まった瞬間に終わってしまった”ような時間の非対称性と感情のすれ違いをテーマにしている。

また、“最終列車”という言葉の響きには、映画的なロマンと切なさ、そして取り返しのつかなさが込められており、曲全体に漂う憂いときらめきのバランスは、まさにELOならではの叙情性である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Knowing Me, Knowing You by ABBA
     終わりを迎える恋の痛みと、大人の知性が同居するスウェディッシュ・ポップの金字塔。

  • I Can’t Go for That (No Can Do) by Hall & Oates
     恋愛の境界線をファンキーに描いた、都会的なポップ・ナンバー。

  • Nightshift by Commodores
     夜の時間、喪失、そして記憶が交錯する哀切とソウルの融合。

  • Don’t Leave Me This Way by Thelma Houston
     別れを拒む切実な叫びを、ディスコの熱気とともに表現したダンス・クラシック。

6. “最終列車が告げる恋の終わり”

「Last Train to London」は、**別れを美しく、しかし残酷に描いた“都市の夜の小さなラブストーリー”**である。恋は時に、始まった瞬間に終わりを内包している。その刹那の輝きと、去っていく後ろ姿を見送る寂しさを、ジェフ・リンは軽快なディスコ・ビートに隠しながら、深い感情の残響としてリスナーに残していく

この曲を聴くとき、私たちは誰かを見送った駅のホーム、もしくは誰かを引き止められなかった夜のことを思い出すかもしれない。光る都会のネオンの下で、もう会えない誰かに手を振るような気持ちで——。


「Last Train to London」は、時間の終わりとともに消えていく愛の美しさと儚さを描いた、ディスコ時代の感情のポエジーである。最終列車が出てしまった後でも、音楽はその余韻を私たちの心に残し続ける。

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