発売日: 1983年5月
ジャンル: ニューウェーブ、ポストパンク、シンセポップ
概要
『Land』は、The Comsat Angelsが1983年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドがメジャーレーベル（Jive Records）移籍後に発表した最初の作品である。
それまでの陰鬱で内省的なポストパンク・サウンドから、よりアクセスしやすいポップな方向性への転換が明確に示された意欲作であり、同時にバンドにとっては“商業的成功”を模索した大きな賭けでもあった。
『Waiting for a Miracle』『Sleep No More』『Fiction』という3部作で築いた暗く静かな音の風景を、ここではより開放的に、リズミカルに再編しようとする姿勢が伺える。
その一方で、スティーヴ・フェローズのクールで憂いを帯びたボーカル、都市的で洗練されたアンサンブルといった、Comsat Angelsらしさは失われておらず、結果として独特の緊張感とメロディアスな感覚が共存した作品に仕上がっている。
全曲レビュー
1. Will You Stay Tonight?
シングルとしてもリリースされた、アルバムを象徴するようなアップテンポのナンバー。
キャッチーなサビとダンサブルなリズムが印象的で、従来のファンには意外性を感じさせたが、楽曲構造は非常に洗練されている。
2. A World Away
前作『Fiction』からの流れを感じさせる、美しくも孤独な響き。
「遠い世界」というタイトル通り、現実からの距離や疎外感が音に刻まれている。
3. I Know That Feeling
親密さと不安が交錯するようなリリックと、穏やかなシンセ・アレンジ。
80年代的なメロウさを持ちつつ、どこか冷ややかな情緒を漂わせる。
4. Land
アルバムのタイトル・トラック。
広がりのあるコーラスと、リズミカルなギターが印象的。
バンドの「新しい地平＝Land」に足を踏み入れる宣言的な楽曲でもある。
5. Mouth Shut
タイトルの通り、感情を抑え込むことを主題とした抑制的なナンバー。
音数は少なく、空間を生かしたアレンジが、言葉にならない感情を伝える。
6. Independence Day
デビュー作にも収録された代表曲の再録ヴァージョン。
オリジナルの冷たさを保ちつつ、よりスムーズで現代的な音作りが施されている。
再録によって、バンドの“過去”と“今”の架け橋となる。
7. Nature Trails
静けさの中に浮かぶ、不穏なリズムと淡いギター。
自然への郷愁というよりは、都市からの逃避願望が滲むようなサウンドスケープ。
8. Mr. Memory
“記憶”と“過去”を巡る抽象的なトラック。
フェローズのボーカルがまるで語りかけるようで、内省的ながらメロディは非常に滑らか。
9. Island Heart
アルバムの終盤に配置された、孤立と救済を同時に描いたバラード。
メランコリックなシンセとシンプルなリズムが、80年代的なロマンティシズムを体現する。
総評
『Land』は、The Comsat Angelsのキャリアの中でもっとも“変化”を象徴するアルバムである。
ダークで冷徹なポストパンクの表現から、より多くのリスナーに届くような開かれたポップ性への接近。
この転換は、批評家から一定の賛否を呼んだが、リスナーにとってはバンドの別の顔を知る貴重な機会でもあった。
そして何より、変化の中にもComsat Angelsらしい「内なる緊張感」が一貫して保たれていたことが、本作を単なる商業的転向にとどめず、独立した芸術作品として成立させている。
アルバムタイトルに込められた「土地／場所」という言葉には、彼ら自身の立ち位置を問い直す意味合いが込められているように思える。
これは、迷いながらも一歩を踏み出そうとした者たちの、誠実な記録なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
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China Crisis – Working with Fire and Steel (1983)
ポストパンクとシンセポップの融合。『Land』期のComsat Angelsと通じる柔らかさ。 -
The Chameleons – Strange Times (1986)
スケール感あるポストパンク。メロディと緊張感のバランスが共鳴する。 -
The Sound – Heads and Hearts (1985)
ダークさを保ちつつポップへと向かった、同様の進化を遂げた作品。 -
Simple Minds – New Gold Dream (1982)
商業的成功と芸術性の狭間でバランスを取った傑作。 -
Ultravox – Quartet (1982)
ニューウェーブ的洗練とシンセの華やかさ、バンドの移行期と重なる世界観。
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