Lady Marmalade by Patti LaBelle(1974)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Lady Marmalade」は、Patti LaBelle率いるグループ、LaBelle(ラベル)が1974年に発表したファンキーかつセクシーな大ヒット曲であり、性的な自立と女性の主体性を、グルーヴィなファンク・ディスコ・ビートに乗せて大胆に描いた名曲である。

最も有名なフレーズ “Voulez-vous coucher avec moi, ce soir?(今夜一緒に寝ない?)” は、パリの夜に出没する娼婦が発する誘惑の言葉として繰り返されるが、それは単なる性的な挑発ではない。この曲における“レディ・マーマレード”は、女性のセクシュアリティと選択の自由を象徴する存在として描かれている。

物語の舞台はニューオーリンズ。裕福な男がフランス語で誘惑してくる美しい女性“Lady Marmalade”に魅了され、肉体関係を結ぶという筋立てだが、語り手の視点から見るとそれは決して受け身なものではなく、女性が主体的に男を翻弄し支配していく描写が強調されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲は、アラン・トゥーサンの推薦でニューオーリンズでレコーディングされ、**作詞作曲はボブ・クリュー(Bob Crewe)とケニー・ノーラン(Kenny Nolan)**によるもの。もともとはガールグループ「Eleventh Hour」のために書かれたが、LaBelleの手に渡り、彼女たちのイメージを大胆に刷新する“トランスフォーメーション・ソング”となった。

LaBelleはそれまでのソウルグループとしてのイメージを一新し、銀色の未来的な衣装、アフロ・フューチャリズム、そしてフェミニズム的アティチュードを打ち出すことで、R&B界において前衛的な存在となる。
「Lady Marmalade」はその変革の象徴であり、黒人女性による性的な表現の解放を公然と提示した初のヒット曲のひとつとなった。

1975年には全米チャート1位を記録し、後にChristina Aguileraらによるカバー(2001年『ムーラン・ルージュ』サントラ)によっても広く知られることになる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Hey sister, go sister, soul sister, go sister
ねえ、姉妹たち、行こうよ、自分らしく、ソウルフルに

He met Marmalade down in old New Orleans
Struttin’ her stuff on the street
She said, “Hello, hey Joe, you wanna give it a go?”

彼はニューオーリンズの古い街角でマーマレードに出会った
彼女は自信満々に通りを歩いてた
そして言ったのさ――「ねえ、ジョー、試してみたい?」

Voulez-vous coucher avec moi, ce soir?
今夜、一緒に寝ない?

引用元:Genius 歌詞ページ

この大胆なやりとりの中で、女性のセクシュアリティは恥じらいではなく武器として描かれる。さらに“sister”という呼びかけには、黒人女性同士の連帯と励ましも込められており、単なる挑発的な楽曲ではない深みがある。

4. 歌詞の考察

「Lady Marmalade」は、その挑発的な外見に反して、女性の主体性、ジェンダーと権力、そして自己決定権をめぐる社会的メッセージを内包している。
この楽曲の中での“Lady Marmalade”は、社会において“売られる存在”とされてきた女性像に反し、自らの価値と力を知り、それを意のままに操る存在として描かれている。

セクシュアリティが恥ではなく誇りであり、恥じらうものではなく踊るものになった時、それは抵抗でもあり、芸術でもあり、革命でもある
Patti LaBelleの圧倒的な歌唱と、パワフルなファンク・グルーヴがそれを裏打ちし、この曲は**性的な解放と黒人女性の表現の自由を高らかに宣言する“サウンド・マニフェスト”**となっている。

さらに、LaBelleが3人組の女性グループであるという点も重要だ。彼女たちはこの曲を通じて、“sisterhood(姉妹的連帯)”を高らかに祝福し、聴く女性たちに「自分の人生を自分で選び取れ」とメッセージを投げかける。これは70年代のフェミニズム第二波とパラレルな動きでもあり、音楽がその最前線にいたことを証明している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • I’m Every Woman by Chaka Khan
    女性の力強さと多面性を賛美するソウル・アンセム。

  • Respect by Aretha Franklin
    自己主張と尊厳をソウルフルに歌い上げたフェミニズムの古典。

  • Superwoman by Stevie Wonder
    より繊細な視点から女性像を描いた、優しさと強さの融合。

  • Express Yourself by Madonna
    自立した女性の生き方をポップに表現した、1980年代の女性解放ソング。

  • No Scrubs by TLC
    自分の価値を低く見積もることを拒否した、90年代の新たな女性の声。

6. 歌と身体で語る、70年代の“女たちの革命”

「Lady Marmalade」は、70年代のアメリカ――黒人解放運動とフェミニズムのうねりのなかで、音楽がどれだけ強く社会と結びついていたかを象徴する一曲である。

それはダンス・ナンバーであり、ラジオ・ヒットであり、同時に社会的メッセージそのものであり、歌声ひとつで社会規範を揺るがすことができるという証明でもあった。

ラベルがこの曲で作り上げたのは、ただの娼婦の物語ではない。
それは、**自分の身体も声も人生も、自分の意志で使う“女の物語”**である。

“Voulez-vous coucher avec moi, ce soir?”
この一節が放たれたとき、誰もが気づく。
それは誘惑ではなく、宣言なのだ。
そしてその響きは、今も変わらず力強く、時代を超えて響いている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました