
発売日:2016年2月5日
ジャンル:Indie Rock / Power Pop / Indie Pop
概要
KINGSIZEDは、コロラド州デンバーのDressy Bessyが2016年に発表した6作目のスタジオ・アルバムである。2008年のHOLLERandSTOMPから約8年を経て制作された復帰作で、Tammy Ealomのボーカルとギター、John Hillのギター、Rob Greeneのベース、Craig Gilbertのドラムを中心とするバンドの持ち味を改めて前面に出した。The Apples in StereoなどとともにElephant 6周辺から登場した初期の軽快なインディー・ポップを残しながら、本作ではギターを太く鳴らすパワーポップ/ロックの性格がより強い。
長い活動休止を経た作品だが、落ち着いた「再出発」を演出してはいない。Ealomの少し鼻にかかった独特の声、歪んだギター、簡潔なコード進行、掛け声のようなコーラスが最初から勢いよく飛び出し、曲の多くは3分前後でアイデアをまとめる。歌詞でも恋愛や人間関係を扱いながら、弱々しい告白より皮肉や苛立ち、自信を含んだ語り口が目立つ。長い空白を埋めるために過去を説明するのではなく、Dressy Bessyのポップなメロディと荒いバンド演奏が現在でも機能することを、曲そのもので示したアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Lady Liberty」
太いギターと大きなドラムをすぐに鳴らし、8年ぶりのアルバムを慎重な助走なしで開始する。Ealomの声はギターの歪みに埋もれず、少し挑発するような調子で旋律を押し出すため、曲には明るさと反抗心が同時にある。細かなアレンジを次々に加えるより、リフとサビの強さを優先した作りも本作の基本形を早々に示している。初期のDressy Bessyより音は大きいが、短いメロディを反復して耳に残す方法は変わっていない。
2. 「Make Mine Violet」
弾むリズムと明るいギターによって、前曲の力強さをよりカラフルなパワーポップへ変える。Ealomは言葉を滑らかに伸ばすより、一音ずつ少し角を立てるように歌い、その独特な発音自体がリズムの一部になる。ギターは歪んでいてもコードの輪郭が明瞭で、サビではコーラスを加えることで実際の音量以上に大きく感じられる。Dressy Bessyの「甘いメロディとざらついた演奏」という組み合わせがよく分かる曲だ。
3. 「Baby Six String」
タイトルにある「Six String」の通り、ギターへの愛着をそのままロックンロールの推進力へ変えたようなナンバーである。短いギター・フレーズを中心にバンドがまとまり、ベースとドラムは複雑に動くより強い拍を作って曲を押す。Ealomのボーカルも楽器と競うように前へ出るため、整然としたインディー・ポップというより、小さな会場で鳴らすガレージ・バンドに近い熱がある。本作でギターが単なる伴奏ではなく、曲のキャラクターそのものになっていることを端的に示す。
4. 「Get Along (Diamond Ring)」
タイトルが示す人間関係の距離を、明るいメロディの裏側に少し棘を残した歌い方で表現する。Ealomは感情を深刻なバラードへ変換せず、相手への苛立ちや疑問を軽快なテンポの中へ置くため、歌詞の緊張と演奏の楽しさがぶつかり合う。ギターはヴァースで音数を抑え、サビで厚みを増すという明快な変化を作る。Dressy Bessyが得意とする、気まずい感情を必要以上に重くせずポップソングへまとめる方法が生きている。
5. 「These Modern Guns」
前半の陽気なパワーポップから少し温度を下げ、タイトルからも危険や緊張を感じさせる曲である。リズム隊が一定の圧力を保つ上でギターが硬い音を重ねるため、開放的に跳ねるというより、じわじわ前へ押される感覚が強い。Ealomの歌唱も完全に感情を爆発させず、少し距離を置いた調子を維持する。その抑制によって、アルバムが明るいギター・ポップだけで一方向へ進むのを防いでいる。
6. 「Dresses」
Dressy Bessyというバンド名を連想させる題材を扱いながら、音楽は自己紹介的な小品ではなく、しっかりしたギター・ロックとして進む。短く切ったコードとEalomの特徴的な声が密着し、メロディには初期作品を思わせる軽さも戻ってくる。衣服や外見にまつわる言葉は、単なるファッションの描写だけでなく、他人からどう見られるかという感覚とも重なって聞こえる。甘さと皮肉を同じ声色で処理できるEalomの個性が効果を上げている。
7. 「Shape Shifter」
変化する人物像を思わせるタイトルに合わせるように、ギターの質感や曲の力加減を細かく切り替えていく。ヴァースでは比較的スペースを残しながら、サビへ入るとバンド全体が密集し、ポップなフックを強く押し出す。相手を完全には把握できない感覚が歌詞に残るため、単純な恋愛の肯定や拒絶には収まらない。中盤で同じテンポ感が続くことを避け、音の密度の変化によってアルバムに起伏を作る曲である。
8. 「Hey May」
呼びかけるようなタイトルをそのまま生かし、Ealomのボーカルが近い距離から話しかけてくるように聞こえる。ギターはメロディを覆い尽くさず、ベースとドラムの軽快な動きに合わせて短いアクセントを置くため、本作の中では比較的風通しがよい。人物に直接語りかける形式によって、抽象的な感情より会話の途中を切り取ったような親密さが生まれる。アルバム後半へ向かうところで、力任せではないDressy Bessyのポップ感覚を再確認させる。
9. 「Get Up 2 Get Down」
題名の言葉遊び通り、意味を深く掘り下げるより身体を動かす感覚を優先する。ドラムとベースが太いグルーヴを作り、その上でギターが短いフレーズを繰り返すため、通常の直線的なパワーポップより腰のある演奏に聞こえる。Ealomもメロディを丁寧に伸ばすのではなく、掛け声に近い勢いでリズムへ乗る。アルバムの後半でテンションをもう一度引き上げ、バンドの演奏そのものを楽しませる役割が大きい。
10. 「Cup O’ Bang Bang」
タイトルからしてコミカルで、演奏もその勢いを裏切らない。歪んだギターを前へ押し出しながら、メロディにはDressy Bessyらしい親しみやすさを残し、騒々しさだけで曲を成立させない。Ealomの少し投げるような歌い方とバンドのタイトな演奏が組み合わさり、荒い音なのに細部はよく統制されている。短い言葉やフレーズの響きを楽しむポップ感覚と、ガレージ・ロックの直接性が接近した一曲だ。
11. 「Kingsized」
アルバム名を掲げる曲らしく、ギター、ドラム、ボーカルを大きく鳴らし、本作の「サイズ」を音で表現するようなパワーポップへ仕上げている。ただし壮大な長編曲になるわけではなく、あくまでDressy Bessyらしい簡潔な構造の中で音圧を上げるのがポイントだ。Ealomの声もコーラスと重なることで厚みを増し、タイトルの誇張された感覚に似合う高揚を作る。長い休止を経ても縮こまらず戻ってきたバンドの姿勢が、最も分かりやすく表れた曲である。
12. 「Honey Bee」
終盤では少し甘いメロディを前面に戻し、アルバムの荒々しい部分を柔らかくする。タイトルの親密な呼びかけとEalomの独特な声質がよく合い、ギターが歪んでいても曲の中心にはインディー・ポップらしい軽やかさが残る。サビを過剰に巨大化させず、バンド全体が一定の距離で鳴るため、序盤の強いロック曲との違いも明確だ。Dressy Bessyが音を大きくしても失わなかったメロディ志向を確認できる。
13. 「Vinyl Radio」
レコードや音楽を連想させる題名を持ち、本作の終盤でバンド自身のロック/ポップへの愛情を思わせる曲である。ギターはざらついているが、メロディはすぐ追えるほど明快で、過去のインディー・ポップと現在の太いサウンドが自然に同居する。懐古そのものを目的にするというより、好きな音楽を繰り返し鳴らす楽しさへ重点が置かれているように聞こえる。長いキャリアを持つバンドだからこそ、音楽を聴く側と演奏する側の感覚が近づいた一曲だ。
14. 「57 Disco」
アルバム最後はタイトルからディスコを掲げながら、Dressy Bessyらしいギター・バンドの感触を残して締める。リズムの反復を強め、身体を動かす感覚を前へ出すことで、終曲を感傷的なバラードにはしない。ここまでの作品にあった掛け声、太いギター、弾むビートという要素が再び集まり、長い休止からの復帰作を祝うような明るさが生まれる。大げさな結論を提示せず、バンドがまだ演奏を楽しんでいるという感触を残して終わるのが本作らしい。
総評
KINGSIZEDを特徴づけるのは、Dressy Bessyが初期のインディー・ポップをそのまま再現するのではなく、そこに長年の演奏経験を反映した太いロック・サウンドを与えたことである。メロディそのものは短く覚えやすく、曲も必要以上に複雑ではない。しかしギターの歪みとドラムの圧力は初期より強く、かわいらしいポップというイメージだけでは説明できない重量がある。タイトルの「KINGSIZED」という大げさな言葉は、この音の拡大をよく表している。
その中心にいるEalomのボーカルは、技術的な派手さとは別の意味で強い個性を持つ。少し鼻にかかった声、語尾の独特な置き方、甘い旋律でも完全には丸くならない歌い方によって、明るい曲にも小さな棘が残る。歌詞でも恋愛や対人関係を無条件にロマンティックなものとして扱わず、苛立ちや距離、自信を混ぜるため、ギターのざらつきと人物像がよく一致している。
14曲という長さの中では、短いパワーポップと似たギターの質感が続き、曲同士の境界が薄くなるところもある。ただし本作は、スタイルを次々に変えることで多様性を示すタイプのアルバムではない。リズムを強める曲、音数を減らす曲、初期を思わせる軽いポップ曲を挟みながら、一つのバンド・サウンドを様々な角度から鳴らすことに重点を置いている。その一貫性は8年の空白を感じさせない。
Elephant 6周辺から登場したバンドの中でも、Dressy Bessyは複雑なサイケデリアより簡潔なポップソングを得意としてきた。KINGSIZEDでもその基本は変わらないが、1990年代末から活動してきたバンドが2010年代に同じ方法を使う意味は、初期作品とは異なる。若々しさを人工的に再現せず、声や演奏の粗さまで含めて現在の姿を鳴らしたことで、復帰作は懐古に閉じなかった。Dressy Bessyの核が、特定の時代のインディー・ポップではなく、強いメロディを大きなギターで鳴らすことにあると確認できる作品である。
おすすめアルバム
Pink Hearts Yellow Moons by Dressy Bessy
1999年のデビュー作。軽快なギターとEalomの特徴的な歌声を中心とする初期のインディー・ポップが聞ける。KINGSIZEDで演奏がどれほど太くなったかを比べやすい。
Dressy Bessy by Dressy Bessy
2003年作では初期の甘いポップ感覚を残しながら、より力強いロック・バンドへ変化している。後年のKINGSIZEDへ至るギターの重量化を追ううえで重要な中間地点だ。
Tone Soul Evolution by The Apples in Stereo
同じElephant 6周辺から生まれた1997年作。明るいメロディと歪んだギターを組み合わせており、Dressy Bessyのポップ感覚が育った音楽的環境との共通点を聞き取れる。
Mass Romantic by The New Pornographers
2000年作。複数のボーカルと厚いギターを使いながら、短く強力なメロディを次々と提示する。KINGSIZEDの「大きな音で鳴らすインディー・ポップ」と近い快感を別の方法で味わえる。
All Hands on the Bad One by Sleater-Kinney
2000年作。Dressy Bessyより鋭いパンク色を持つが、女性ボーカルの個性、乾いたギター、簡潔なフックを使い、甘さだけに寄らないロックを作る点で響き合う作品である。

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