Karma Police by Radiohead(1997)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Karma Police」は、Radioheadが1997年に発表した3作目のアルバム『OK Computer』に収録された楽曲であり、同年シングルとしてもリリースされた。
この曲は、“カルマ警察”という架空の存在を通して、倫理的制裁・報復・正義の皮肉な行使をテーマにしており、静かな怒りと冷笑がじわじわと立ち上ってくるような、不穏な美しさをたたえている。

歌詞は一見すると抽象的で断片的だが、ある種の“監視社会”や“報復的正義”への皮肉が明確に込められている。
「この人をカルマ警察に突き出してやってくれ」という冷ややかな一言に始まり、誰かを裁こうとする側が、やがて自らも取り込まれていく倒錯的な構造を持つ。

曲はその中盤で語り手自身が「このすべてが自分を狂わせた」と崩れていき、ラストでは「永遠に戻ってこないと思っていたが、君がすべてを正してくれた」と、救済とも錯乱ともつかぬ言葉で幕を閉じる。
まさに『OK Computer』というアルバムが描いた、テクノロジー、孤立、不安、そして不確かな救済のテーマを象徴する一曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Karma Police」は、Radioheadが『OK Computer』の制作においてよりコンセプチュアルかつ抽象的なアプローチへと移行していく中で生まれた曲である。
この時期、トム・ヨークはメディアや企業支配、社会の管理化、個人の疎外といったテーマに強く関心を持っており、その視点がこの楽曲にも反映されている。

タイトルの「カルマ警察」は、当時のバンド内で冗談として使われていたフレーズが由来で、「悪いことをしたら報いがある」という皮肉交じりの“監視的正義”を象徴している。
また、サウンド的にはピアノの不穏なコード進行と、抑制されたボーカルから、後半にかけての轟音ギターのうねりへと移行する構成が、曲の狂気と浄化を描き出している。

この曲は、Radioheadが“反抗するロックスター”ではなく、“世界そのものを疑い、分析し、警告する観察者”へと変化していく過程の一里塚とも言える。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Radiohead “Karma Police”

Karma police / Arrest this man / He talks in maths / He buzzes like a fridge
カルマ警察 この男を逮捕してくれ 数式で話し 冷蔵庫みたいな音を立てるんだ

This is what you’ll get / When you mess with us
これが報いさ 僕らに逆らった報いなんだ

For a minute there / I lost myself, I lost myself
一瞬だけど 自分を見失ったんだ 完全に

4. 歌詞の考察

この曲の語り手は、表面上は誰か“迷惑な存在”を批判しているように見えるが、やがてその視線は内側へと反転し、語り手自身が崩壊していく構造をとっている。
つまり、「カルマ(業)」をふりかざす者が、いつしかそのカルマの連鎖に飲み込まれていくというパラドックスが描かれているのだ。

「数式で話す男」や「冷蔵庫みたいに鳴る男」は、個人性を失ったテクノクラートや機械的社会の象徴とも読める。
彼らを“処罰すべき対象”として糾弾する一方で、語り手自身がその冷たさと暴力性に染まり、最後には「自分を見失った」と繰り返す。

これは単なる社会批判ではない。むしろ、他者を裁こうとする者が、やがて自らの内面の空洞や、制度の冷酷さに同化してしまうという、根源的な恐怖が描かれている。
だからこそ、この曲はただの風刺では終わらず、救いのない哀しみと、わずかな希望が交錯する傑作となっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Street Spirit (Fade Out) by Radiohead
    静かな絶望と美しいメロディが共存する曲。「Karma Police」と同じく、見えない力への恐怖が描かれている。
  • Life in a Glasshouse by Radiohead
    監視社会と人間関係のもろさをジャズ的アレンジで表現した一曲。カルマ的視線の延長線にある。
  • Perfect Day by Lou Reed
    やさしい音楽に包まれながら、じわじわと自己崩壊していく感覚が似ている。
  • She’s in Parties by Bauhaus
    不気味さとポップさの共存。社会に対する反抗と自壊のバランスが絶妙。

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