It All Feels Right by Washed Out(2013)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「It All Feels Right」は、アメリカのチルウェイブ・アーティスト、Washed Outウォッシュト・アウト)が2013年にリリースした2ndアルバム『Paracosm』のオープニング・トラックであり、現実逃避、感覚の肯定、自然との一体感、そして“ここではないどこか”への旅立ちをテーマとした作品である。

この楽曲では、明確な物語は語られないものの、タイトルが示す通り、「It all feels right(すべてが正しいと感じられる)」という繰り返しのフレーズが精神的な解放や心の安定を象徴するマントラのように機能している。語り手は、混沌とした現実を抜け出し、自然や音、感情に身を委ねる中で、理屈ではなく“感覚”に従って生きることの喜びと平穏を発見していく。

歌詞全体は、感情的な具体性よりも、風景のようなイメージと言葉の響きの心地よさで構成されており、まさにWashed Outが追求する「音楽=感覚装置」という哲学が具現化された楽曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「It All Feels Right」は、Washed OutことErnest Greeneがリリースした『Paracosm(パラコズム)』というアルバムの幕開けを飾る楽曲であり、そのアルバムタイトルは“空想で構築された独自の世界”を意味する。つまりこの曲は、聴く者をその“空想世界”に招き入れるための入り口、精神のゲートウェイとして機能している。

1stアルバム『Within and Without』が都会的で洗練された内省的サウンドを展開していたのに対し、『Paracosm』では、より有機的で自然的なトーンへとシフトしており、「It All Feels Right」ではその方向性が顕著に表れている。鳥のさえずり、風のようなシンセ、柔らかなエレクトリック・ピアノ、レイヤーされたコーラスなどが重なり、自然と心が溶け合うような音世界が形成されている。

また、歌詞においても、“君”や“僕”といった特定の存在よりも、「the voices, the colors, the light(声、色、光)」といった抽象的要素が登場し、現実を超えた五感の旅が描かれているのが特徴である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「It All Feels Right」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

We’ll run away together
一緒に、どこかへ逃げよう

We’ll spend some time forever
永遠みたいな時間を過ごすんだ

We’ll never feel bad anymore
もう、悲しむことなんてないよ

It all feels right
すべてが、正しく感じる

The voices, the colors, the light
声と、色と、光が満ちていく

出典:Genius – Washed Out “It All Feels Right”

4. 歌詞の考察

「It All Feels Right」における語り手は、現実に疲れた誰かであると同時に、夢の中でしか会えない“誰か”を誘う存在でもある。この曲では、逃避や現実逃れといった言葉よりもむしろ、“選ばれた解放”としての感覚の旅立ちが描かれており、それは暗いものではなく、希望と再生に満ちている。

「We’ll run away together / We’ll spend some time forever」というラインでは、時間の概念そのものが曖昧にされ、一瞬が永遠になりうるような非現実的な時間感覚が示されている。そして「It all feels right」という繰り返しは、何かの正当化ではなく、理屈のない“納得”と“肯定”の感覚的表現である。つまり、これは説明不能な幸せ、説明しなくてもよい安らぎなのだ。

さらに、「The voices, the colors, the light」というフレーズには、視覚・聴覚・空気感といった五感すべてに訴えかける表現が込められており、Washed Outが音楽を通して“世界の感触そのもの”を再構築しようとしている姿勢が見て取れる。

この曲に言葉で説明できるメッセージを求めるのは野暮かもしれない。むしろ、音に包まれて目を閉じたとき、理屈ではなく心が「これでいい」と感じられることこそが、この曲が目指す世界なのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • A Real Hero by College & Electric Youth
    穏やかな未来への希望と都市の孤独を同時に描いた、感覚派シンセポップの名曲。

  • Sunrise Projector by Tycho
    音のグラデーションで心を照らすようなインストゥルメンタル・アンビエント。
  • Take Care by Beach House
    夢の中のようなメロディと、包み込むような歌声による内省的ロック。

  • Open by Rhye
    静かで官能的、そして心の深い部分に触れるような繊細なラブソング。

  • Soft Hair by Soft Hair
    チルウェイブの進化系ともいえる、洒落たポップ感覚とファルセットの融合。

6. “感じることこそが、真実”——Washed Outが導く空想の楽園

「It All Feels Right」は、Washed Outが音楽によって創り出す**理屈を超えた“感覚の桃源郷”のような作品であり、現代社会のノイズやストレスから一時的に逃れたいすべての人にとっての“音の避難所”**となる。

この曲は、明確なストーリーも、大きな感情の起伏もない。ただ音の中に身を委ね、目を閉じるだけで、心が静かにほぐれていく。その状態こそが、「すべてが正しく感じられる」瞬間なのだ。

もしあなたが今、何かを選べないでいるなら、何かに傷ついているなら、あるいは理由はないけど、ただ静かに過ごしたいなら——**この曲を流して、少しだけ世界から遠ざかってみてほしい。**それがあなたにとっての“Paracosm(空想の世界)”の始まりかもしれない。そして、あなた自身の中にある感覚が「Yes」と言ってくれたなら、それだけで充分なのだ。It all feels right.

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