
発売日: 2010年2月9日
ジャンル: スラッシュメタル
スラッシュメタルの復活——Overkillが示した圧倒的な勢いと攻撃性
2010年にリリースされたIronboundは、Overkillの15作目のスタジオアルバムであり、キャリア30年を超えたバンドがスラッシュメタルの勢いを完全に取り戻した作品として高く評価されている。本作は、Overkillが長年培ってきた攻撃的なスラッシュサウンドを、モダンなプロダクションと洗練された楽曲構成でアップデートした傑作である。
90年代から2000年代にかけてのOverkillは、スラッシュメタルにグルーヴやヘヴィネスを加えた作品をリリースしていたが、本作では原点回帰とも言えるピュアなスラッシュメタルサウンドを前面に押し出しつつ、圧倒的なテクニックとメロディの深みを融合させている。
ボビー・”ブリッツ”・エルズワースの衰えを知らないパワフルなヴォーカル、D.D.ヴァーニのタイトなベース、そしてデイヴ・リンクスとデレク・テイルマンによる強烈なツインギターのリフワークが、全編にわたってスラッシュメタルの醍醐味を見せつけている。
全曲レビュー
1. The Green and Black
アルバムのオープニングを飾る、壮大なイントロから始まる9分に及ぶ長尺の楽曲。ミッドテンポのヘヴィなリフから、スラッシュメタル特有のスピード感あふれる展開へと変化し、アルバムのテーマを完璧に表現している。Overkillの進化と原点回帰を象徴する一曲。
2. Ironbound
タイトル曲であり、アルバムのハイライトとなる超重量級スラッシュメタルナンバー。イントロのベースラインが印象的で、そこから炸裂するギターリフが圧倒的な破壊力を持つ。サビの「Ironbound!」のシャウトもキャッチーで、ライブでの盛り上がりは必至。
3. Bring Me the Night
本作の中でも特にスピード感のある楽曲で、まさにOverkillの持ち味が全開のスラッシュメタルチューン。2分台という短めの尺の中に、疾走感と攻撃性を詰め込んでおり、80年代スラッシュメタルの精神が息づく一曲。
4. The Goal is Your Soul
ヘヴィなリズムとギターリフが特徴的な、ミッドテンポの楽曲。サビのメロディが印象的で、どこかメロディックな要素も含まれている。ボビー・”ブリッツ”のヴォーカルの表現力が際立つ一曲。
5. Give a Little
グルーヴ感のあるスラッシュメタルで、スピード一辺倒ではなく、変則的なリズム展開が魅力。中盤のギターソロもスリリングで、曲の構成が非常に緻密に計算されている。
6. Endless War
再びテンポを上げ、リフ主体のスピーディーなスラッシュナンバーへ。ドラムのブラストビートが強烈で、まさにOverkillのパワーとテクニックの融合を感じさせる。
7. The Head and Heart
ミッドテンポのリフをベースにしながら、後半に向かってスラッシュメタル特有のスピード感を取り戻す展開。静と動を巧みに使い分けた楽曲で、アルバムの流れを引き締める役割を果たしている。
8. In Vain
イントロからヘヴィなリフが炸裂し、アルバム後半のエネルギーを加速させる楽曲。ヴォーカルのメロディラインも印象的で、単なるスラッシュメタルではなく、ダイナミックなアレンジが光る。
9. Killing for a Living
クラシックなスラッシュメタルの影響を色濃く残した楽曲。ギターリフの刻みが鋭く、ドラムのリズムチェンジも巧妙。Overkillのスラッシュメタルとしての純度を高めた楽曲の一つ。
10. The SRC
アルバムのラストを締めくくる、壮大なフィナーレ。スローテンポで始まり、徐々にスピードアップする構成が見事で、アルバム全体のテーマを集約したかのような重厚な一曲。
総評
Ironboundは、Overkillが30年以上のキャリアを経てもなお、衰え知らずのエネルギーと創造力を持ち続けていることを証明したアルバムである。本作では、80年代のスラッシュメタルのエッセンスを取り戻しつつ、現代的なプロダクションと洗練された楽曲構成を融合させることに成功している。
特に「Ironbound」や「Bring Me the Night」のようなスピード感溢れる楽曲は、Overkillの原点を思い出させる一方で、「The Green and Black」や「The SRC」のような長尺でドラマティックな楽曲は、バンドの成熟したソングライティングを示している。
Overkillがただの懐古的なスラッシュメタルバンドではなく、現在進行形でシーンを牽引する存在であることを証明した作品であり、スラッシュメタルの新たなクラシックとして今なお語り継がれるべきアルバムである。
おすすめアルバム
- Overkill – The Electric Age (2012)
- Ironboundの流れを引き継ぎ、さらに攻撃性を増したスラッシュメタルの傑作。
- Overkill – The Years of Decay (1989)
- 80年代スラッシュメタルの名盤。よりプログレッシブな要素を取り入れた作品。
- Exodus – Blood In, Blood Out (2014)
- 2010年代スラッシュメタルの復活を象徴する作品。Overkillとの共通点も多い。
- Testament – Dark Roots of Earth (2012)
- モダンなプロダクションとスラッシュメタルの要素を絶妙に融合させた作品。
- Anthrax – Worship Music (2011)
- スラッシュメタルの復活を印象付けたアルバムで、Overkillと同時期にリリースされ話題となった。
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