
1. 歌詞の概要
「New Sensation(新しい感覚)」は、オーストラリアのロックバンド**INXS(インエクセス)**が1987年にリリースしたアルバム『Kick』の3曲目に収録され、翌年にシングルカットされてヒットした楽曲である。
この曲は、刹那的な快楽と今この瞬間を生きることの喜びを讃える、ポジティブかつエネルギッシュなロック・アンセムだ。
タイトルの“New Sensation”とは、直訳すれば「新しい感覚」だが、ここでは常識や過去の経験を越えて、人生に新しい刺激を求める衝動を意味している。
「昨日にしがみつくな、今この瞬間を最大限楽しもう」というメッセージが、軽快でダンサブルなロックサウンドに乗せて繰り返され、聴く者の身体と感情を同時に揺さぶる。
歌詞全体に通底するのは、“今”という時間の特権性。明日がどうなるか分からないからこそ、愛し、踊り、笑うという人生の肯定が高らかに歌い上げられている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「New Sensation」は、INXSのギタリストアンドリュー・ファリスが作曲し、ボーカリストマイケル・ハッチェンスが歌詞を加えた楽曲で、アルバム『Kick』の中でも特にポップで親しみやすいトラックとして知られている。
『Kick』は、ファンク、ポップ、ハードロック、ダンスミュージックの要素を融合させた革新的な作品であり、INXSを世界的なバンドへと押し上げた出世作。この「New Sensation」は、その中でも軽快なビートとソリッドなギターリフ、官能的なハッチェンスのヴォーカルが特徴的で、バンドの新しいスタイルを象徴する1曲とされている。
ミュージックビデオはカナダの街中で撮影され、シンプルながらもクールな映像美が80年代的なセンスを体現。ビルボード・ホット100では第3位を記録し、バンドにとって国際的な成功を確実なものとした。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – INXS “New Sensation”
Live, baby, live
Now that the day is over
生きろ、ベイビー、生きるんだ
今日という日が終わった今だからこそ
I got a new sensation
Perfect moments
That’s so impossible to refuse
新しい感覚を手に入れたんだ
完璧な瞬間があるんだよ
拒むなんてできるはずがない
冒頭から、生への賛歌、時間の尊さ、今を全力で生きる意義が詩的に表現されている。“Perfect moments(完璧な瞬間)”という言葉が、楽曲全体のテーマを象徴している。
Sleep, baby, sleep
Now that the night is over
And the sun comes like a god
Into our room
眠れ、ベイビー、眠るんだ
夜が終わったその今に
太陽がまるで神のように
僕たちの部屋に差し込んでくる
夜と朝、死と再生、夢と現実。そのあいだで愛し合うふたりの姿が幻想的に描かれている。ここでは時間と感覚の移ろいが神秘的な表現で捉えられており、恋愛と人生の儚さ、尊さを同時に抱えている。
Cry, baby, cry
When you’ve got to get it out
I’ll be your shoulder
You can tell me all
泣いていいんだ、ベイビー、泣きたいときは
全部吐き出せばいい
俺がその肩になる
なんでも話してくれていいんだよ
この部分は、ただ快楽や感覚だけを讃えるのではなく、感情を解放すること、そしてその居場所としての愛があることを示している。派手なビートの裏に、深い人間的優しさと共感が宿っている。
4. 歌詞の考察
「New Sensation」は、派手なギターと跳ねるようなリズムで**“即興的な生”を謳歌するロック賛歌として受け止められがちだが、その歌詞には意外なほど深い人生哲学**が息づいている。
まず、この曲が語る“新しい感覚”とは、単に目新しさや刺激を意味するのではなく、「今という瞬間にしか得られない感覚」への意識である。それは過去への執着や未来への不安ではなく、「この瞬間を感じることこそが生きることなのだ」という刹那的な悟りのような思想でもある。
加えて、Grimesのような前衛的ポップが内面の解体を行うのに対し、INXSはこの曲で内面の衝動を肯定し、それを外に爆発させるという、より外向的で明朗なロックの形を打ち出している。
また、愛や感情を「感覚」として扱う視点も興味深い。ここでの愛は永遠を誓うものではなく、いま、そこにあるぬくもりを抱きしめる行為として描かれており、その軽やかさこそがこの曲の自由さにつながっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Dancing with Myself” by Billy Idol
孤独と快楽を同時に楽しむポジティブなエネルギーが共通するダンス・ロック。 - “Don’t You Want Me” by The Human League
80年代的なポップ感と感情の交錯が魅力の男女デュエット・シンセポップ。 - “Everybody Wants to Rule the World” by Tears for Fears
時間と感情の流れを知的かつ美しく描いた80年代クラシック。 - “Let My Love Open the Door” by Pete Townshend
シンプルな言葉とサウンドで感情の解放を促す、真っ直ぐな愛の歌。 - “Take on Me” by a-ha
躍動的なサウンドと恋の魔法のような感覚が共鳴するポップ・アンセム。
6. “新しい感覚”は、いつだって“今”の中にある
「New Sensation」は、INXSというバンドが持つセクシーさとポジティブな疾走感、そして人間的な共感力をすべて詰め込んだような楽曲である。
それはただのパーティーチューンではなく、時間という概念の美しさと不確かさ、そしてその中で生まれる感覚の価値を、あくまでダンサブルでポップな形式で歌い上げた作品だ。
1980年代の終盤に生まれたにもかかわらず、この曲が放つメッセージはまったく古びていない。むしろ、“不確かな時代をどう生きるか”という問いに、自由で前向きなひとつの答えを提示してくれる。
「New Sensation」は、昨日に別れを告げ、明日を恐れずに“今”を全身で生き抜くための、きらめくロックンロールの祝祭である。
コメント