
1. 歌詞の概要
「Never Tear Us Apart(決して僕たちを引き裂かせない)」は、INXSが1987年に発表したアルバム『Kick』に収録されたバラード曲であり、深い愛と運命的な結びつきを、壮大かつ感情豊かに描いた名作である。力強い言葉ながらも繊細でロマンティックなトーンが印象的で、永遠の愛の誓いとして多くの人々に愛されてきた。
この曲のタイトル「Never Tear Us Apart」は、直訳すれば「決して僕たちを引き裂かせない」。そこには、運命的に出会った二人の間に生じた絆を、外的な力や時間の流れによって断ち切らせないという強い意志が込められている。歌詞の中では、出会いの瞬間や、互いの孤独を癒す存在としての意味、そして死すらも超えるような一体感が描かれる。
また、この楽曲は愛をドラマティックに語るだけでなく、人生の中で出会う奇跡的な関係性の深さを讃えており、シンプルな言葉のなかに深い情感が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
INXSのフロントマンであるマイケル・ハッチェンスと、キーボーディストのアンドリュー・ファリスによって書かれた「Never Tear Us Apart」は、当初はピアノを中心としたブルース・バラードとして構想されたが、最終的にはシンセサイザーとストリングス、そして印象的なサクソフォンソロを加えることで、クラシカルでロマンティックな雰囲気と、現代的なサウンドの融合が実現された。
この楽曲は、INXSの持つセクシーでクールなイメージとは一線を画し、より感情に寄り添った側面を提示することで、バンドの音楽性の幅を広げた重要な一曲となった。1988年にシングルとしてリリースされ、世界中のチャートでヒット。とりわけマイケル・ハッチェンスの抑えた語り口から高揚へと至るボーカルの演技力は、彼の表現者としての真価を証明するものとして高く評価されている。
近年では、ハッチェンスの死後もこの曲が追悼や結婚式などで頻繁に使用されており、永遠の愛の象徴曲として不動の地位を築いている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – INXS “Never Tear Us Apart”
Don’t ask me
What you know is true
俺に聞かないでくれ
君だって本当のことは分かってるだろ
Don’t have to tell you
I love your precious heart
言葉にする必要もない
君のその大切な心を、俺は愛してる
冒頭から、この関係の特別さと、言葉を超えた理解が描かれる。愛とは説明するものではなく、感じるもの、共有するものであるという視点が印象的だ。
We could live
For a thousand years
俺たちは
千年だって生きられる
But if I hurt you
I’d make wine from your tears
でも、もし君を傷つけたら
その涙からワインを作ろう
ここでは永遠の誓いと、その関係のもろさが対比される。愛の中には、癒しも痛みも混在していること、そしてそれすらも肯定して抱きしめる意思が示されている。
I told you
That we could fly
俺は言ったよね
二人なら空だって飛べるって
’Cause we all have wings
But some of us don’t know why
誰にでも翼はある
でも、なぜか分からずにいる人も多いんだ
このサビ前のラインは、人間の可能性とその迷いを象徴しており、愛することでその翼の存在に気づくという解放のメタファーとなっている。
I was standing
You were there
Two worlds collided
And they could never tear us apart
俺は立っていた
君はそこにいた
二つの世界がぶつかり合い
それ以来、もう誰にも俺たちは引き裂けない
このクライマックスでは、出会いの瞬間とその衝撃が宇宙的スケールで語られ、愛がもたらす変容と一体感が壮大に描かれる。ふたりの世界が衝突し、それが新しい宇宙を生んだという壮大なロマンティシズムが漂う。
4. 歌詞の考察
「Never Tear Us Apart」は、愛の永続性と運命性をシンプルな言葉で力強く語るバラードである。その本質は、「あなたと出会って、世界が変わった」という愛による存在の変容にある。そしてそれは、決して破壊されることのない、魂のレベルでの結びつきとして提示される。
“Two worlds collided”というラインは、物理的な出会いではなく、精神的、感情的に異なるふたりが融合することの奇跡を示している。これは、恋愛の枠を超えた人生そのものの意味を問うメタファーにもなっており、深い普遍性を持っている。
また、“But if I hurt you, I’d make wine from your tears”というフレーズに込められた詩的な優しさは、傷つけ合うことすら美へと昇華しようとする成熟した愛の視点であり、ただのラブソングとは一線を画す深みがある。
加えて、“We all have wings”というラインには、誰もが自由になれる可能性を持っているが、それを使いこなせていないという人間存在への洞察も感じられる。愛とは、その翼に気づかせ、飛ぶ勇気を与える存在――そうしたGrimesのような夢想的ポップとは異なる、現実に根ざした詩情がここにはある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “With or Without You” by U2
執着と放棄が同居する、究極のラブソング。INXS同様80年代の深層心理的ロック。 - “Wicked Game” by Chris Isaak
愛に溺れ、愛に焼かれる男の静かな告白。孤独とロマンティシズムの結晶。 - “Under the Bridge” by Red Hot Chili Peppers
個人的な痛みを都市の風景と重ねて描いた、感情の地図のようなバラード。 - “True” by Spandau Ballet
80年代のスウィートでメランコリックなラブバラードの代表格。 - “Romeo and Juliet” by Dire Straits
時を越える愛を、静かな物語として描いたリアルで切ない名曲。
6. 魂で結ばれる二人の讃歌──“壊れない愛”の時代的象徴
「Never Tear Us Apart」は、INXSというバンドの中でもとりわけスピリチュアルで普遍的な魅力を持つ作品である。その魅力は、80年代という時代にありながらも、恋愛を神話的かつ現実的に語るバランス感覚にある。
恋という感情を、“あなたと出会ったら世界が変わった”という宇宙規模のスケールで語るこの曲は、今もなお多くの人の人生に寄り添い、式場や葬儀など、**人生の節目で選ばれる“魂の音楽”**として鳴り続けている。
「Never Tear Us Apart」は、言葉を超えて繋がったふたりの間にある、揺るぎない“永遠”を美しく謳い上げた、時代も国境も超える愛の讃歌である。
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