アルバムレビュー:Invented by Jimmy Eat World

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発売日: 2010年9月28日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、エモ、パワーポップ


記憶と想像力が交差する瞬間——“過去”を写し、“物語”を創る音楽

Jimmy Eat Worldの7作目となるInventedは、バンドの核であるJim Adkinsが“写真”を題材に作詞したというユニークなコンセプトをもつアルバムである。
実際のポートレート写真を見て、その情景に登場する人物たちの物語を想像し、そこから楽曲を“発明”していくという手法。
つまりこの作品は、“記憶ではない記憶”を描いたフィクション=現実と虚構のあわいに存在する音楽なのだ。

サウンド面ではFutures(2004年)やChase This Light(2007年)のエネルギーとメロディ重視のアプローチを継承しつつ、よりシネマティックかつ情緒的な広がりをもつ構成が特徴的。
Mark Trombino(Clarity, Bleed American)との再タッグも功を奏し、音像はきわめて緻密で奥行きがあり、全体として“熟練されたエモ”とも言うべき境地に達している。


全曲レビュー

1. Heart Is Hard to Find

アコースティック・ギターと高らかなストリングスで始まる、明るくも切ないオープナー。
“心を見つけるのは難しい”という普遍的なフレーズが、アルバム全体の感情の起点となる。

2. My Best Theory

ポリティカルな比喩を用いながら、自己解放と個性の肯定を歌う疾走感あるロック。
ストップ&ゴーを繰り返すギターリフが印象的で、アリーナ対応の力強さもある。

3. Evidence

エモーショナルながら、どこか壊れそうな緊張感を帯びたミディアム・ナンバー。
“証拠”というテーマが、人間関係における真実と信頼を揺るがせる。

4. Higher Devotion

重たいグルーヴと幻想的なエレクトロ・エッジが加わった、異色のトラック。
執着と欲望の境界線を探るような、退廃美のある一曲。

5. Movielike

“映画のような”というタイトル通り、人生をメタファーとして描くストーリーテリング的楽曲。
淡々とした歌唱が、むしろ感情のリアリティを強調する。

6. Coffee and Cigarettes

カフェの会話のような親密さと、どこかすれ違う距離感を持ったミッドテンポ。
コーラスの開放感と、日常の情景描写が心に残る。

7. Stop

内省的なバラードで、ピアノを主軸に展開される。
“止まること”の意味を問い直すような、シンプルで強い楽曲。

8. Littlething

Jim AdkinsとCourtney Marie Andrewsによるデュエットが光る楽曲。
繊細な感情の交錯を、淡く繊細なメロディが支える。

9. Cut

関係性の終焉を描いた、切迫感あるギター・バラード。
“切断”という語感に込められた不安と決意が交差する。

10. Action Needs an Audience

ギタリストのTom Lintonがリード・ヴォーカルを務める数少ない曲。
よりパンキッシュなアプローチで、アルバムに緩急をつける。

11. Invented

アルバムの核ともいえるタイトルトラック。
創作された人物たちの心情が、美しいビルドアップとともに描かれる。
Andrewsとの再共演も、声の重なりに深いドラマをもたらす。

12. Mixtape

“ミックステープ”というノスタルジックなアイテムに、未完の想いを託すフィナーレ。
淡々としたサウンドの中に、時の経過と諦念が静かに流れていく。


総評

Inventedは、Jimmy Eat Worldが“自己の物語”ではなく、“他者の視点”を想像するという新たな創作領域に踏み込んだ作品である。
写真という“静止した瞬間”から音楽という“時間芸術”を紡ぐ試みは、記憶と創造の境界線を優しく、時に鋭く撫でていく。

サウンドはきわめて洗練され、バンドとしての熟達と感性のバランスが見事に保たれている。
特にCourtney Marie Andrewsとのコラボレーションにより、女性視点の物語が加わったことで、アルバム全体がより多層的な深みを獲得している。

これは、“誰かの物語を歌うことで、自分自身を再発見する”アルバムなのだ。
そして、聴き手の中にもまた“発明された物語”が静かに息づいていく。


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