In the City by The Jam(1977)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

In the City」は、The Jamが1977年に発表したデビュー・シングルであり、彼らのファースト・アルバム『In the City』のタイトル曲でもある。この楽曲は、疾走するギターリフとパンク由来のエネルギー、そして若者の視点から見た“都市”という舞台に対する興奮と怒りが詰まった作品である。

歌詞は、イギリスの都市に生きる若者の実感に満ちており、警察の暴力、社会の偽善、無関心、抑圧への不満を描きながらも、そこに希望や反骨の精神が見え隠れする。“In the city there’s a thousand things I want to say to you(この街には、君に伝えたいことが千もある)”という冒頭のラインからもわかるように、本作は単なる風景描写ではなく、「この世界を変えたい」という切実な衝動の表明でもある。

この曲における“都市”は、腐敗と暴力、退屈と可能性、無関心と夢が共存する場所として描かれている。そして語り手は、その矛盾だらけの都市の中で、何かを訴えようとする。街を疾走するバンドの音は、そのまま若者の心拍数のように鳴り響き、社会へのメッセージとなって届いてくる。

2. 歌詞のバックグラウンド

「In the City」は、1977年5月にリリースされ、UKシングルチャートで最高40位を記録したThe Jamのデビュー・シングルである。当時の音楽シーンではセックス・ピストルズやザ・クラッシュといったパンク勢が台頭しており、The Jamもまたその一角に属しながら、モッズ・カルチャーや60年代のビート・ミュージックへのリスペクトを強くにじませていた。

この曲は、フロントマンであるポール・ウェラーが18歳のときに書いた作品で、彼の文学的センスと社会的視点が早くも完成されていたことを示す代表例でもある。ウェラーは当時のロンドンを舞台に、警察権力や制度的暴力に対する怒りを、ただの暴力ではなく言葉と音で返すスタイルを確立しようとしていた。

音楽的には、ピート・タウンゼントとザ・フーからの影響が顕著であり、鋭く刻まれるギターのカッティングと跳ねるようなリズムは、パンクロックのスピード感とモッズのソウル感を融合させたハイブリッドなサウンドとなっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「In the City」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

In the city there’s a thousand things I want to say to you
この街には、君に伝えたいことが千もある

But whenever I approach you, you make me look a fool
でも近づこうとするたびに、君は僕を馬鹿にするんだ

In the city there’s a thousand faces all shining bright
街には、明るく輝く何千もの顔がある

And those golden faces are under 25 / And they’re doing just fine
その黄金のような顔たちは、25歳以下——彼らは自分たちなりにやっている

But there’s a million more who are living in the streets / And they have no place to go
けれどもっと多くの若者たちは路上にいて、行き場すらないんだ

引用元:Genius Lyrics – In the City

4. 歌詞の考察

「In the City」の歌詞は、18歳の若者が持ちうる最大限の視野と怒り、そして希望をもって社会に向けたラジカルなラブレターである。ここで描かれる“都市”は、ただの風景ではなく、“時代”そのものの象徴であり、若者たちがそこで何を感じ、どう生きようとしているかの断片が詰め込まれている。

“黄金の顔たち”とは、夢や希望を抱いて街を歩く若者たちを示している。しかし一方で、“行き場のない若者たち”が路上にあふれているという現実も提示される。この二面性が、都市という場所の持つ残酷さと美しさを同時に映し出している。

また、警察への批判や社会構造への疑念も織り込まれており、ウェラーの言葉は怒りと冷静さが共存する稀有なバランスで構築されている。“システムへの怒り”を爆発させるのではなく、“言葉で戦う”姿勢は、The Jamが単なるパンク・バンドではなく、“思考する反抗者”だったことを証明している。

※歌詞引用元:Genius Lyrics – In the City

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • White Riot by The Clash
    若者による暴動の意味と権力への反抗を描いた初期パンクの金字塔。

  • London Calling by The Clash
    都市の崩壊と新たな夜明けを描いた黙示録的ロック。都市を題材にした視点が共鳴。
  • Substitute by The Who
    若者のアイデンティティと社会への皮肉をテーマにしたモッズの原点的楽曲。

  • Time for Action by Secret Affair
    モッズ・リバイバルの代表曲で、行動する若者たちの心情をストレートに伝える。

6. “都市”という戦場に立つ若者たちの宣言

「In the City」は、The Jamの出発点であり、1977年のイギリスにおいて、“若者たちの現実”をストレートに歌にした希有な作品である。そこには、怒りも、興奮も、失望も、希望もすべてが混在している。そして、その複雑な感情を、ギターとドラムと声という最小限の手段で爆発させる潔さが、この曲にはある。

ポール・ウェラーはこの楽曲で、「街の中には話したいことが山ほどある」と歌った。その声は、世代を越えて、時代を越えて、今もなお多くの若者たちに響いている。“都市”とは単なる場所ではない。それは、自分が何者であるかを試される舞台であり、叫びを上げるべき戦場でもある。

「In the City」は、その最初の一声だった。そしてそれは、今も変わらず、“言葉と音で変えていける”という信念を語り続けている。

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