発売日: 2010年5月18日
ジャンル: インディー・ロック, オルタナティブ・ロック, アメリカーナ
Band of Horsesの3枚目のアルバム『Infinite Arms』は、これまでの作品で培ったサウンドをさらに深化させつつ、彼らの音楽的な視野を広げた作品である。バンドの中心人物であるベン・ブリッドウェルが語るように、『Infinite Arms』は「バンドとしての一体感」を強く意識した作品だ。レコーディングも各メンバーが均等に関与し、これまで以上に多様なサウンドが展開されている。プロデューサーにはフィル・エクが再び参加し、彼らの特色であるドリーミーなギターサウンドとリバーブを効かせたボーカルは健在だが、今回はオーガニックな質感と広がりが加わっている。
アルバム全体を通して、アメリカーナ的な要素が一層強まり、自然や風景、愛と喪失といった普遍的なテーマが描かれている。その結果、作品はまるでアメリカ南部の広大な風景の中を旅するような、穏やかで心温まるものになっている。アルバムのカバーアートも美しい山々の写真が使われており、音楽が自然と密接に結びついていることを象徴している。
それでは、アルバムの各曲について詳しく見ていこう。
1. Factory
オープニングを飾るこの曲は、ストリングスを取り入れた優雅なイントロが印象的だ。軽やかなピアノとブリッドウェルの繊細なボーカルが重なり、都会的で洗練された雰囲気を醸し出す。歌詞には「Factory bells ring」というフレーズが繰り返され、日常の喧騒やその中で感じる孤独感を描いている。曲の終盤にかけて、サウンドが壮大になり、アルバム全体の広がりを予感させる幕開けとなっている。
2. Compliments
軽快なギターリフと力強いリズムが特徴的なこの曲は、エネルギッシュで明るいトーンを持つ。「Compliments」は人々の相互評価や社会的な期待に対する反発を表現しており、バンドのメッセージ性を垣間見ることができる。キャッチーなメロディーと歌詞が耳に残り、自然とリピートしたくなるトラックだ。
3. Laredo
アルバムの中でも特にアップテンポで、カントリー・ロックの要素が強い一曲。テキサスの都市「ラレド」を舞台にしたこの曲は、喪失感と逃避をテーマにしており、力強いギターとドラムが疾走感を生み出している。歌詞には「Gonna take a trip to Laredo, gonna take it easy」とあり、人生の困難から一時的に離れたいという願望が感じられる。
4. Blue Beard
このトラックは、バンドの内省的な側面が際立つバラードで、穏やかなアコースティックギターとメランコリックなメロディーが印象的だ。「Blue Beard」というタイトルは寓話や伝説に登場するキャラクターを指し、歌詞の中で失われた愛や後悔が描かれている。繊細で感傷的な曲調がリスナーの心に深く響く。
5. On My Way Back Home
ノスタルジックな雰囲気を持つこの曲は、バンドのアメリカーナ的な要素が色濃く表れている。アコースティックギターとハーモニーが穏やかに展開し、歌詞には帰郷や過去への想いが込められている。静かなメロディーが心に染み渡り、穏やかな夜に聞くと特に心地よい。
6. Infinite Arms
アルバムのタイトル曲であり、サウンドの広がりを象徴するような壮大な一曲。ギターのリフとブリッドウェルの浮遊感のあるボーカルが美しく絡み合い、自然や宇宙を思わせるスケールの大きいサウンドが特徴だ。歌詞には「The world is too heavy for me」といった孤独感や不安が描かれており、それが音楽全体のドリーミーなトーンと絶妙に調和している。
7. Dilly
アルバムの中でもポップで明るい雰囲気を持つ曲で、軽快なテンポとリズミカルなギターが耳に残る。「Dilly」は、バンドの楽しい側面を強調したトラックで、歌詞も軽やかでリラックスした内容だ。ドライビングミュージックとしても最適な爽やかな一曲。
8. Evening Kitchen
アコースティックな質感が前面に出たシンプルで美しいバラード。曲名の通り、静かな夜のキッチンで聴きたくなるような、親密さと温かみが感じられる。歌詞も日常的な風景や感情を描いており、バンドの家庭的な一面が垣間見える。
9. Older
懐かしさと成長をテーマにした楽曲で、明るく軽快なメロディが特徴だ。リズムセクションがシンプルながらも心地よく、歌詞には人生の移ろいや家族との関係についての深い思索が込められている。前向きで楽観的なトーンが、このアルバム全体のバランスを取っている。
10. For Annabelle
穏やかなアコースティックギターと優しいメロディが印象的なこの曲は、非常にパーソナルなトーンを持つ。タイトルの「Annabelle」は、誰か特定の人物を示唆しており、歌詞には愛情や保護、温かさが感じられる。非常に繊細で心温まるバラードだ。
11. NW Apt.
この曲は、力強いロックの要素を持ちながらも、カントリー的な要素を含んでいる。エネルギッシュなギターとドラムが主導し、都会のアパートでの生活を描いた歌詞が印象的だ。短いながらも、活気に満ちたトラックで、アルバムにダイナミズムを加えている。
12. Neighbor
アルバムの最後を締めくくるこの曲は、バンドのハーモニーが美しく、広がりのあるサウンドが聴く者を包み込むような壮大なエンディングを飾る。歌詞には「Neighbor, neighbor, don’t you know」など、近隣の人々とのつながりや、共同体を意識したメッセージが込められている。心に残る静かな余韻を残し、アルバム全体を完結させるにふさわしい一曲。
アルバム総評
『Infinite Arms』は、Band of Horsesにとって音楽的な成熟を感じさせるアルバムであり、自然や人間関係、人生の浮き沈みといったテーマが大きく描かれている。バンドのサウンドは、これまで以上にリラックスし、親しみやすさと奥深さが共存する。特に「Laredo」や「No One’s Gonna Love You」に続く名曲「Compliments」や「Dilly」は、シンプルながらも印象的なメロディーで、多くのリスナーの心に響くだろう。自然と共にあるような感覚を楽しめる、心地よくもエモーショナルなアルバムだ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- 『The Suburbs』 by Arcade Fire
都会生活と自然、過去と現在という対比を描いたこのアルバムは、『Infinite Arms』のノスタルジックで広がりのあるサウンドと共鳴する。壮大なスケールの音楽が特徴。 - 『The Shepherd’s Dog』 by Iron & Wine
アメリカーナの要素と繊細なフォークサウンドが特徴的な作品。自然と人間の関係性をテーマにした歌詞が多く、『Infinite Arms』のファンにおすすめ。 - 『High Violet』 by The National
メランコリックで感情的なロックサウンドが魅力のアルバム。人生の喪失感や孤独をテーマにした歌詞が、Band of Horsesの内省的な一面と共通する。 - 『Fleet Foxes』 by Fleet Foxes
美しいハーモニーとアメリカーナの要素が色濃く表れた作品。自然をテーマにした歌詞と広がりのあるサウンドが、『Infinite Arms』のファンに響くだろう。 - 『Helplessness Blues』 by Fleet Foxes
自然や人生の意味についての深い問いかけが込められたアルバムで、豊かなサウンドスケープと哲学的な歌詞が、『Infinite Arms』と同じくリスナーを魅了する。
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