発売日: 1977年5月20日
ジャンル: パンク・ロック、モッズ・リバイバル
1977年、イギリスのロックバンドThe JamがデビューアルバムIn the Cityで登場した。その年の音楽シーンはパンクの台頭により混沌としつつも革新的なムードに包まれており、The Jamはクラシックなロックの影響を持ち込みながらも鋭いパンクエッジを加え、独自の立ち位置を築いた。リードボーカルのポール・ウェラーは当時19歳という若さながら、鋭い社会観察と力強い歌詞で注目を集め、時に痛烈な皮肉と怒りを込めながら、都市の生活や階級の葛藤を描き出している。
プロデューサーのヴィック・スミスのもとで録音されたこのアルバムは、イギリスのロックのルーツであるモッズ文化へのオマージュを込めつつ、The WhoやThe Kinksといった60年代のバンドを思わせるパワフルなサウンドに仕上がっている。全体としてアルバムは約32分の短いながらも情熱的な構成で、スピード感とエネルギーに満ちたトラックが詰まっている。この作品はThe Jamのキャリアのスタートであると同時に、イギリス音楽シーンにモッズ・リバイバルを吹き込む契機となった。
トラックごとの解説
1. Art School
アルバムの幕開けを告げるこの曲は、パンキッシュなリズムと挑発的な歌詞でリスナーの心を掴む。ウェラーは「芸術とは何か」という問いかけを通して、反抗と自由な自己表現の意義を描いている。強烈なギターリフが耳に残り、エネルギッシュで先鋭的なイントロダクションとして機能している。
2. I’ve Changed My Address
都市生活における孤独と疎外感を描いた一曲。ウェラーは新しい場所に移り住むことで新たな自分を模索する若者の心境を表現し、自由と不安が入り混じった感情を映し出している。シンプルなドラムビートが安定したグルーヴを生み出し、ストレートな歌詞に共感を呼ぶ。
3. Slow Down
原曲はラリー・ウィリアムズによるロックンロール・クラシックで、The Jamはこのカバーで自らのロックルーツを再確認している。疾走感あふれるアレンジが原曲に新たな命を吹き込み、ウェラーの荒々しいボーカルが際立っている。リスナーに「スローダウン」する暇も与えない一曲だ。
4. I Got By in Time
ここでは若者の恋愛や友情といったテーマが描かれ、ウェラーの歌詞には青春期の儚さとエネルギーが滲んでいる。ギターリフが曲全体を駆け抜け、シンプルな構成がその感情的なエネルギーをさらに引き立てている。
5. Away from the Numbers
このアルバムのハイライトともいえる曲で、社会から疎外されることへの恐怖と同時に、その解放感をも描写している。「ナンバー(数)」から離れることは、束縛から逃れることであり、ウェラーの詩的な表現がその矛盾した感情を強く感じさせる。深いベースラインとドラマティックな展開が印象的だ。
6. Batman Theme
この楽曲は軽快で遊び心があり、ザ・ジャムのユーモアと自由なスピリットが感じられる。インストゥルメンタルのカバーであり、バットマンのテーマソングをパンク的に再解釈しているのが斬新だ。
7. In the City
アルバムのタイトル曲であり、都会の混沌とエネルギーを象徴する一曲。疾走感あるビートに乗せてウェラーが「都市の生活とその冷たさ」を熱く歌い上げる。イギリスのパンクシーンにおいて象徴的な存在となった曲であり、若者の怒りと情熱が爆発している。
8. Sounds from the Street
街の音、つまり若者の声が中心テーマとなっているこの曲は、ウェラーの社会への鋭い視点が光る。「ストリートからの声」を通じて、若者が声を上げる意義を表現している。エネルギッシュなギターとベースの掛け合いが特徴的で、全体にリズムが引き締まっている。
9. Non-Stop Dancing
タイトル通りのアップテンポなナンバーで、躍動感あふれるエネルギーが全編にわたって溢れている。パーティーやダンスフロアを想起させ、リスナーをその場に引き込むようなグルーヴが心地よい。
10. Time for Truth
政治的なテーマを前面に押し出した楽曲で、ウェラーの若者としての怒りがストレートに表現されている。反体制のメッセージが込められ、シンプルでありながらも力強いギターサウンドがそれを支えている。
11. Takin’ My Love
愛とその複雑な感情がテーマで、恋愛における失望や苦しみが描かれている。ウェラーはここで感情的な歌詞とメロディを用いて、リスナーに深い共感を呼び起こす。軽快なギターのリフとリズミカルなドラムが耳に心地よい。
12. Bricks and Mortar
アルバムの締めくくりに相応しい重厚感あるトラックで、現代社会の物質主義や都市生活の圧迫感を描写している。エコーのかかったギターが空間を支配し、アルバム全体を通じたテーマがここでひとつの終結を迎える。
アルバム総評
In the CityはThe Jamのパワフルで鋭いデビュー作であり、若者の視点から見た都市生活や社会の葛藤をストレートに表現している。このアルバムはパンクの枠を超え、モッズの精神を再び現代に蘇らせた意欲作である。ウェラーの繊細で力強い歌詞は今でも共感を呼び、バンドの初期衝動を体現したサウンドがリスナーを引き込むだろう。アルバム全体が短時間で駆け抜ける一方、その余韻は長く残る作品である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
London Calling by The Clash
社会的なメッセージ性やエネルギッシュなサウンドに共通点があるアルバム。パンクとロックを融合させた深みのある作品で、特に現代の社会問題に敏感なリスナーに響くだろう。
Setting Sons by The Jam
The Jam自身の後期作品で、より成熟したサウンドと社会的メッセージが特徴的。このアルバムのファンにとって、ウェラーの成長と深化を感じることができる作品である。
My Generation by The Who
60年代のモッズカルチャーを代表するアルバム。The Jamがインスパイアされたモッズの精神が詰まっており、ウェラーの音楽的ルーツを知りたいリスナーには必聴。
All Mod Cons by The Jam
The Jamの3作目であり、より洗練されたサウンドとリリックが特徴。社会的テーマとパーソナルな視点が混ざり合い、In the Cityの延長線上にある作品として楽しめる。
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars by David Bowie
70年代のイギリス音楽の革命的作品で、都市生活や自己表現のテーマが共通している。ボウイの先鋭的なビジョンとウェラーの鋭い社会観察に親和性を感じるファンにおすすめ。
コメント