発売日: 2005年7月4日
ジャンル: インディーフォーク、バロックポップ、オルタナティヴ
Sufjan Stevensの傑作アルバム『Illinois』は、2003年の『Michigan』に続く「アメリカ50州プロジェクト」の第2弾であり、彼のキャリアにおいて最も評価の高い作品の一つである。本作は、アメリカ中西部の州イリノイをテーマに、州の歴史や文化、著名人、土地にまつわる出来事を、独特なストーリーテリングと壮大なアレンジで描いている。50州を音楽で表現するという壮大なアイデアの中で、Sufjanはただ地元愛を歌うだけではなく、アメリカ全体に広がる普遍的なテーマや個人的な感情を織り込むことに成功している。
『Illinois』は、インディーフォークやバロックポップにクラシカルな要素を取り入れた多層的なサウンドが特徴で、ストリングス、ホーン、ピアノ、ウッドウィンズなどのアレンジが楽曲を壮麗に彩る。さらに、複雑で詩的な歌詞が、歴史的事実やスピリチュアルなテーマ、個人的なエピソードを深く掘り下げ、聴き手を壮大な音楽の旅へと誘う。全22曲にも及ぶボリュームと、タイトルのユニークさ（有名な長文タイトルを多用）が際立ち、Sufjanのユーモアと創造性が凝縮された作品だ。
トラック解説
1. Concerning the UFO Sighting Near Highland, Illinois
静かなピアノと繊細なボーカルで始まるこの曲は、アルバムの序章として機能する。イリノイ州でのUFO目撃事件を題材にしながらも、超自然的なテーマを通じて人間の不安や希望を描き出している。
2. The Black Hawk War, or, How to Demolish an Entire Civilization and Still Feel Good About Yourself in the Morning, or, We Apologize for the Inconvenience but You’re Going to Have to Leave Now, or, “I Have Fought the Big Knives and Will Continue to Fight Them Until They Are Off Our Lands!”
長大なタイトルが特徴のインストゥルメンタル曲。弦楽器とホーンが躍動的に展開し、ブラック・ホーク戦争の激しさと悲劇を音楽で描写している。
3. Come On! Feel the Illinoise! (Part I: The World’s Columbian Exposition – Part II: Carl Sandburg Visits Me in a Dream)
アルバムの代表曲で、明るいピアノとホーンが絡み合う壮大なポップソング。イリノイ州の歴史と詩人カール・サンドバーグがテーマで、エネルギッシュなリズムと叙情的なメロディが聴き手を惹きつける。
4. John Wayne Gacy, Jr.
連続殺人犯ジョン・ウェイン・ゲイシーを題材にした静かなバラード。ミニマルなアレンジとスフィアンのささやくような歌声が、不気味で悲しい雰囲気を醸し出している。最後の「自分自身の罪」に言及するリリックが心に刺さる。
5. Jacksonville
フォーク調のギターとピアノが軽快に進むトラックで、イリノイ州の町ジャクソンビルを描写している。黒人霊歌の要素が加わり、スフィアンらしい多層的なアレンジが魅力的だ。
6. Decatur, or, Round of Applause for Your Stepmother!
明るくリズミカルな曲で、イリノイ州デケイターを舞台にした個人的なエピソードがテーマ。アコースティックギターとバンジョーが楽しい雰囲気を演出し、スフィアンのウィットに富んだ歌詞が際立つ。
7. Chicago
アルバムの中心的な楽曲であり、最も有名なトラック。壮大なストリングスとホーンが美しく絡み合い、「I made a lot of mistakes」という繰り返しのフレーズが人生の旅路と過ちを象徴している。スフィアンの音楽的なピークを感じさせる感動的な一曲。
8. Casimir Pulaski Day
アコースティックギターを中心としたシンプルなフォークソングで、若い恋人の死を描いた感動的な楽曲。歌詞には信仰と喪失が織り交ぜられ、静かなメロディが聴き手の心に深く響く。
9. The Predatory Wasp of the Palisades Is Out to Get Us!
幻想的な雰囲気を持つトラックで、少年時代のエピソードがテーマ。ストリングスとホーンの美しいアレンジが、ノスタルジックな情景を音楽で描き出している。
10. The Seer’s Tower
静かで荘厳な楽曲で、イリノイ州シカゴのランドマーク、シアーズ・タワー（現在のウィリス・タワー）を題材にしている。スフィアンの歌声とピアノが、神秘的でスピリチュアルな雰囲気を作り出している。
11. Out of Egypt, Into the Great Laugh of Mankind, and I Shake the Dirt from My Sandals as I Run
アルバムの最後を飾るインストゥルメンタル曲。ストリングスとホーンがゆっくりと展開し、壮大なフィナーレを迎える。スフィアンの音楽的な多様性が存分に感じられるトラックだ。
アルバム総評
『Illinois』は、スフィアン・スティーヴンスの音楽的な才能と物語性が凝縮されたアルバムであり、インディーフォークやバロックポップの枠を超えて、壮大な叙事詩のような作品となっている。美しいメロディ、緻密なアレンジ、そして歴史と個人的感情を融合させた詩的な歌詞が、イリノイ州の文化と精神を生き生きと描き出している。全22曲にも及ぶボリュームは圧倒的だが、聴き進めるほどに新しい発見がある。『Illinois』はスフィアンのキャリアの中で最も重要な作品であり、彼の音楽を初めて聴く人にもおすすめのアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Michigan by Sufjan Stevens
『Illinois』の前作で、スフィアンが50州プロジェクトを開始した作品。ミシガン州の文化と自然を描いた美しいアルバムで、『Illinois』と同じスピリットを感じられる。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
より内省的で個人的なテーマを扱ったアルバム。ミニマルなアレンジと深い感情が、『Illinois』の静かな部分に共鳴する。
Seven Swans by Sufjan Stevens
宗教的なテーマを中心にしたアルバムで、フォークとスフィアンの叙情的な歌詞が堪能できる。『Illinois』の内省的な一面と共通する。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
叙情的で感情に訴えかける楽曲が並ぶフォークロックの名盤。ストーリーテリングと個人的な感情が『Illinois』と通じ合う。
The Age of Adz by Sufjan Stevens
実験的なエレクトロポップアルバムで、『Illinois』とは異なるが、スフィアンの音楽的探求心が感じられる。壮大なスケール感は共通している。
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