1. 歌詞の概要
「I See(アイ・シー)」は、アメリカのオルタナティブ・ロック・バンド、Letters to Cleo(レターズ・トゥ・クレオ)が1993年にリリースしたデビューアルバム『Aurora Gory Alice』に収録された楽曲である。
この曲は、内に秘めた想いが相手に届かず、傷つきながらも諦めきれない心情を描いたバラード調のナンバーであり、ケイ・ハンリー(Kay Hanley)の憂いを帯びたボーカルが、リスナーの胸を静かに揺さぶる。
「見えるのに、届かない」――そんな切実な距離感が、全体を通して貫かれている。
タイトルの「I See(見える)」とは、単なる視覚的な意味を超え、相手の本心や自分の置かれた状況を“ようやく理解した”という内的な気づきを象徴している。
恋愛の中で、見ないふりをしていた現実、信じたかった嘘、すれ違い――それらが霧の中から徐々に輪郭を帯びて見えてくる。その瞬間の痛みと清さが、この曲には刻まれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Letters to Cleoは、1990年代初頭のボストン・インディーシーンから登場したバンドで、Kay Hanleyのボーカルと、ポップパンク的なギターサウンドの組み合わせで注目を集めた。
『Aurora Gory Alice』は彼らのファーストアルバムでありながら、感情の機微を繊細かつ力強く描く楽曲が多く、特に「I See」はアルバムの中でも最も叙情的なトーンを持った一曲である。
当時のLetters to Cleoは、ガレージ的なラフさとメロディックな美しさを兼ね備えたサウンドを志向しており、この曲はバンドの“静かなる側面”を象徴する存在と言える。
また、ボーカルのケイ・ハンリーは、若い女性の自意識や孤独を鋭く捉えたリリックを書くことで知られ、「I See」ではその力が特に繊細に発揮されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「I See」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“I see you, and I’m waiting / To see what you’re gonna do”
「私はあなたを見ている / あなたが何をするのか、ただ待ってる」
“I can’t make you love me / I can’t make you care”
「あなたに私を愛させることはできない / 気にさせることも、できない」
“And I see it’s not me / That you want anymore”
「そしてようやく見えたの / もう私じゃないってことが」
“So I go, but I still see you there”
「だから私は行く / でもまだそこにあなたの姿が見えるの」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Letters to Cleo – I See Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「I See」は、愛する相手の心が自分から離れていくことに気づいていながら、それを受け入れたくないという複雑な心情を描いた楽曲である。
“見る”という行為は、本来真実を受け止めることでもあるが、それが同時に“痛み”を伴うこともある。
この曲の主人公は、その痛みを逃げずに見つめる勇気を持った人間であり、恋愛における成熟の一端を静かに掴み取っている。
「I can’t make you love me(愛させることはできない)」という一節には、恋愛の根源的な非対称性――“どれだけ想っても、報われないことがある”という苦い現実がにじむ。
そしてその次に「But I still see you there(でもまだあなたの姿が見える)」と続くことで、“終わりを受け入れても、気持ちはすぐには消えない”という人間的な矛盾と余韻が表現される。
曲調も非常に繊細で、エレクトリックギターのささやくようなアルペジオと、ケイ・ハンリーの透明感あるヴォーカルが、まるで誰かの部屋の中でひとり語っているような親密さを醸している。
この“親密さ”こそが、リスナーに強く届く理由であり、派手さのないこの曲が長く支持されている所以である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Shadowboxer by Fiona Apple
恋の駆け引きと自尊心が入り混じる、繊細で強い女性の心情を描いた名曲。 - Why by Annie Lennox
去っていく恋人を見送る視線と、内なる問いかけを淡々と紡ぐバラード。 - I Know It’s Over by The Smiths
“恋が終わった”と理解する痛みを、静かに深く掘り下げる叙情詩。 - A Mistake by Fiona Apple
自分の感情を誤魔化しながらも、見ないふりができなくなる瞬間を描く。 - Paper Bag by Fiona Apple
希望と幻滅が交錯する現実の中で、自己と向き合う繊細な表現が秀逸。
6. “恋の終わりを『見る』ことは、始まりでもある”
「I See」は、相手の心がもうここにはないと気づく、その“視線の痛み”を真正面から描いた楽曲である。
見ないふりをすることもできた。でも、見てしまった。気づいてしまった。
だからこそ、この歌は美しいのだ。
「I See」は、終わりを受け入れる勇気と、そこからまた自分を再び見つけ出そうとする優しい決意の歌である。
恋が去ったあとに残る、静かな光と影。その余韻が、この曲をひときわ深いものにしている。
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