I Put a Spell on You by Creedence Clearwater Revival(1968)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「I Put a Spell on You」は、恋に狂おしく囚われた男の執念と渇望を、呪文のような言葉とともに繰り返し叩きつける、情念のブルースである。

CCR版の歌詞は非常にシンプルで、「お前に呪いをかけた」という一文が何度も繰り返される。その“呪い”とは、相手を物理的に支配するような魔術というよりは、叶わぬ愛に囚われた者が吐き出す、痛切な執着と支配欲の表現に近い。

「なぜなら、お前は俺のものだから」という一節に込められた所有の感覚は、甘美さと危うさを同時にはらんでいる。これは愛の告白というよりも、もはや呪詛に近い告発――それも、相手を責めるのではなく、どうしようもなく“呪われたように”相手に惹かれてしまう自分自身への呪いのようにも響いてくる。

2. 歌詞のバックグラウンド

原曲は1956年、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスによって発表された。

オリジナル版は奇抜なパフォーマンスとドラマティックな構成で、当時としては非常に異色な「ホラー・ブルース」のような存在感を放っていた。棺桶から登場するなど、ゴシック的な演出も話題となり、後のショックロックの元祖とも称される。

CCRはこの曲を1968年のデビューアルバム『Creedence Clearwater Revival』にてカバーした。ジョン・フォガティは、原曲のドラマ性よりもブルースの骨格と泥臭さに焦点をあて、自らのボーカルとギターで“土着的な呪術性”を再解釈してみせた。

彼らのバージョンは、サイケデリックやアートロックが主流になりかけていた60年代末にあって、逆に“原始的な感情”をむき出しにするような野性味を持っており、のちのスワンプ・ロックの方向性を示す布石ともなった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、CCR版の歌詞の一部と和訳を紹介する。

引用元:Lyrics © Warner Chappell Music

I put a spell on you

― お前に呪いをかけたんだ

Because you’re mine

― なぜなら、お前は俺のものだから

You better stop the things you do

― お前のやってることは、もうやめるんだな

I ain’t lyin’

― 嘘なんかじゃない

No, I ain’t lyin’

― そうさ、本気で言ってる

4. 歌詞の考察

CCRによる「I Put a Spell on You」は、原曲のグロテスクなユーモアを削ぎ落とし、**より“内面化された怒りと愛憎”**を全面に押し出したバージョンである。

歌詞に登場する“呪い”は、理性では抑えられない衝動のメタファーとして機能している。つまり、「やめろ」「お前は俺のものだ」と繰り返しながらも、その実態は自分自身を制御できない叫びなのだ。

また、「You better stop the things you do(お前のやってることはやめるんだな)」という一節は、相手の行動を止めようとする強い願望であると同時に、その裏にある“自分だけの存在でいてほしい”という切なる欲望を暗示している。

CCRのアレンジでは、ジョン・フォガティの叫ぶようなボーカルと、うねるようなギターが、この“執念”を増幅させている。音の隙間すらも緊張感で満たされており、聴いている側も“呪われる”ような感覚に引き込まれてしまう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Born Under a Bad Sign by Albert King
    ブルースの伝統的な“運命に呪われた者”の視点を持つ名曲。運命と愛を絡めた力強い表現が共鳴する。

  • Dazed and Confused by Led Zeppelin
    愛に翻弄され、正気を失いかける男の視点。音と感情のうねりが「I Put a Spell on You」と通じる。

  • I Want You (She’s So Heavy) by The Beatles
    “欲望と執着”をテーマにしたロックの狂気。繰り返しのフレーズが、感情のループを象徴する。

  • Suzie Q by Creedence Clearwater Revival
    同じくCCRのカバー曲で、原始的なビートとフォガティのボーカルが生々しい情熱を伝える。

6. 恋の呪縛が生んだ“スワンプ・ロック”の胎動

CCRの「I Put a Spell on You」は、バンドの方向性を示す重要な起点でもあった。

原曲の持つ“過剰さ”をそぎ落とし、ブルースの根源的な情念だけを抽出し、泥臭く再構築したこのバージョンは、その後のCCRが「スワンプ・ロック」や「アメリカーナ」と呼ばれるサウンドを切り拓いていくための出発点であった。

この楽曲に漂う湿気や熱気、うねるようなテンポ感――それはまさに“アメリカ南部の沼地”のような音の質感であり、表面的なポップさや都会的な洗練とは対極にある。

また、ジョン・フォガティというボーカリストの“声”の持つ説得力もこの曲で確立された。シャウトというよりは、吠えるような祈り。それが彼のアイデンティティとなって、以後のCCRのサウンドを根底から支えていくことになる。

「I Put a Spell on You」は、ラブソングというよりも、“呪縛された魂の叫び”である。
それはリスナーの心にも、静かに、しかし確実に“呪い”をかけてくるのだ。

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