
1. 楽曲の概要
「I Hate It Too」は、アメリカ・イリノイ州シャンペーン出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、Humが1995年に発表した楽曲である。収録作品は、3作目のスタジオ・アルバム『You’d Prefer an Astronaut』。アルバムでは8曲目に配置され、終盤の感情的な重心を担う重要曲である。
『You’d Prefer an Astronaut』は1995年4月11日にRCA Recordsからリリースされた。Humにとってメジャー・レーベルでの本格的なブレイク作であり、シングル「Stars」の成功によってバンドの名を広めた作品である。プロデュースはKeith CleversleyとHum。メンバーはMatt Talbott、Tim Lash、Jeff Dimpsey、Bryan St. Pereである。
Humは、1990年代オルタナティヴ・ロックの中でも独特の位置にいるバンドである。重いギター、スローで巨大なリフ、ノイズとメロディの共存、宇宙や科学を思わせる言葉、そして感情を直接的に叫びすぎないボーカルが特徴である。グランジ、シューゲイズ、ポストハードコア、スペース・ロック、エモの要素を横断しながら、どれか一つのジャンルには収まりきらない。
「I Hate It Too」は、そうしたHumの個性をよく示す曲である。演奏時間は約6分で、ギターは分厚く、テンポは急がない。ボーカルは激しく前に出るのではなく、音の壁の中で淡々と置かれる。歌詞では、失敗した関係、自己嫌悪、距離、相手への依存が語られる。タイトルは「僕もそれが嫌いだ」という意味で、相手への同調であると同時に、自分自身の状態への嫌悪にも聞こえる。
アルバム全体では、「Stars」が最も広く知られているが、「I Hate It Too」はファンの間で特に深く支持される曲のひとつである。派手なシングル性よりも、Humの持つ重さ、悲しみ、宇宙的な孤独、ギターの巨大な響きが濃く出ている。『You’d Prefer an Astronaut』終盤において、アルバムの感情的な暗さをさらに深める曲といえる。
2. 歌詞の概要
「I Hate It Too」の歌詞は、壊れた関係の中にいる語り手の自己嫌悪を描いている。語り手は、相手を必要としている。しかし、その必要とする気持ちが自分を弱くし、相手との距離をさらに痛いものにしている。愛情、依存、屈辱、諦めが混ざり合い、明確な解決は提示されない。
歌詞には、地面に倒れている自分、相手を必要としている自分、どこかへ去っていく相手、そして自分の無力さが描かれる。語り手は、怒りを外へ向けるというより、自分自身へ向けている。相手に傷つけられたというだけでなく、そうされてもなお相手を求めてしまう自分を嫌っているように聞こえる。
タイトルの「I Hate It Too」は、非常に曖昧である。「それ」が何を指すのかは、はっきり説明されない。関係そのものかもしれない。自分の弱さかもしれない。相手の態度かもしれない。あるいは、二人が置かれた状況全体かもしれない。この曖昧さが、曲の感情を広げている。
Humの歌詞はしばしば、宇宙、機械、距離、身体、孤立のイメージを使う。この曲では、そうしたSF的な語彙は比較的控えめで、感情の痛みがより直接的に出ている。ただし、感情の表現は生々しい告白というより、少し遠くから観測されているような距離感を持つ。そこがHumらしい。強い感情がありながら、それを完全に説明しきらない。
3. 制作背景・時代背景
『You’d Prefer an Astronaut』が発表された1995年は、アメリカのオルタナティヴ・ロックが巨大な商業ジャンルになっていた時期である。Nirvana以後、メジャー・レーベルは各地のギター・バンドを積極的に契約し、グランジ、ポストハードコア、ノイズ・ロック、エモ、シューゲイズの要素を持つバンドが広く紹介された。
Humは、イリノイ州シャンペーンのローカル・シーンから登場した。アメリカ中西部のバンドでありながら、彼らの音楽は土臭いルーツ・ロックではなく、宇宙的で、重く、浮遊感のあるギター・ロックだった。シャンペーンという大学町のインディー・シーンから出た彼らは、メジャー・デビュー作で一気に広いリスナーへ届くことになる。
『You’d Prefer an Astronaut』の代表曲「Stars」は、MTVやラジオで流れ、Humの最大のヒットとなった。しかしアルバム全体は、単なる一発ヒット用の作品ではない。曲は長めで、ギターは重く、歌詞は抽象的で、全体に曇った空気がある。「I Hate It Too」は、そのアルバム的な深みを示す曲である。
制作面では、Keith Cleversleyのプロダクションが重要である。ギターの音は非常に大きく、厚いが、単に歪ませただけではない。音の層が重なり、低音域と中高域が広く広がる。Matt Talbottのボーカルはその中に埋もれすぎず、しかし前に出すぎもしない。このバランスが、Humの音を独特なものにしている。
1990年代半ばには、Smashing Pumpkins、Failure、Shiner、Quicksand、Sunny Day Real Estateなど、重いギターと内省的な歌詞を結びつけるバンドが多く存在した。Humはその中でも、シューゲイズ的な音の壁と、ポストハードコア的な重量感を併せ持つ点で特異だった。「I Hate It Too」は、その特性が感情的なバラードに近い形で表れた曲である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
It’s okay, I’m still alive
和訳:
大丈夫、僕はまだ生きている
この一節は、語り手が自分の傷を確認するような言葉である。生きていることをわざわざ言う必要があるほど、彼は精神的に追い込まれている。慰めにも聞こえるが、同時に空虚な確認にも聞こえる。
Later, you’ll find me here on the ground
和訳:
あとで、君は僕がここで地面に倒れているのを見つけるだろう
この部分では、語り手の無力感が強く表れる。立っているのではなく、地面にいる。相手が戻ってきたとき、自分はまだそこにいるというイメージは、依存と諦めを同時に含んでいる。
In need of you
和訳:
君を必要として
この短い言葉が、曲の核心である。語り手は相手を必要としているが、その必要が自分を苦しめている。愛情の告白であると同時に、自己嫌悪の原因にもなっている。
歌詞の引用は、批評・解説に必要な最小限にとどめている。「I Hate It Too」の歌詞は著作権で保護された作品であり、全文掲載ではなく、短い抜粋と文脈の説明を中心に扱う必要がある。
5. サウンドと歌詞の考察
「I Hate It Too」のサウンドは、Humの特徴である分厚いギター・ウォールを中心にしている。イントロから音は重く、しかし速くはない。ギターは一音一音が大きく、空間を埋め尽くすように鳴る。轟音でありながら、単なる攻撃ではなく、沈み込むような質感を持っている。
Matt Talbottのボーカルは、感情を大きく演技しない。歌詞はかなり傷ついた内容だが、歌い方は比較的淡々としている。この距離感が重要である。もしボーカルが激しく泣き叫んでいれば、曲はもっと直接的な失恋ソングになったかもしれない。しかしHumは、重い感情を巨大なギターの中へ沈める。そこに独自の冷たさと美しさがある。
Tim LashとMatt Talbottのギターは、単純なリフの反復だけでなく、音の厚みと倍音で曲を進める。シューゲイズのように音が広がるが、リズムはより硬く、低音も重い。My Bloody Valentine的な浮遊感とは違い、Humのギターは地面に重く沈む。その重力が、歌詞の「ground」というイメージとよく重なる。
Jeff Dimpseyのベースは、音の壁の下で曲の輪郭を支えている。Humの曲ではギターが非常に厚いため、ベースは目立ちすぎないが、低音の重心を作る役割は大きい。「I Hate It Too」でも、ベースがあることで、曲はただのノイズの塊ではなく、ゆっくり進む巨大な構造物のように聞こえる。
Bryan St. Pereのドラムは、曲を急がせない。ビートは大きく、重く、空間を残している。速いロックの攻撃性ではなく、遅いテンポの圧力が曲を支配する。感情が爆発するというより、重さに押しつぶされるような感覚がある。
サウンドと歌詞の関係は非常に密接である。歌詞は、自分が地面に倒れ、相手を必要としている状態を描く。サウンドもまた、上へ飛び上がるのではなく、下へ沈み込む。ギターの重量は、語り手の精神的な重さとして機能している。
同じアルバムの「Stars」と比較すると、「I Hate It Too」の性格がよく分かる。「Stars」は、Humのポップな側面と轟音ギターのバランスが最も分かりやすい曲である。一方「I Hate It Too」は、より暗く、より沈み込む。フックはあるが、ラジオ向けの明快さよりも、感情の重さを優先している。
「Why I Like the Robins」と比べると、この曲はより内面的である。「Why I Like the Robins」には、奇妙な叙情と開けたメロディがある。「I Hate It Too」は、もっと閉じた空間の中で、自己嫌悪と依存を見つめる曲である。アルバム終盤でこの曲が置かれることで、『You’d Prefer an Astronaut』は単なる宇宙的なギター・ロックではなく、深い感情のアルバムとして響く。
また、後年の『Downward Is Heavenward』と比較すると、「I Hate It Too」はその前段階としても聴ける。『Downward Is Heavenward』では、Humの音はさらに重く、緻密になり、歌詞もより抽象性を増す。「I Hate It Too」には、まだ『You’d Prefer an Astronaut』のメロディアスな分かりやすさがあるが、感情の沈み込みはすでに後期の深さに近い。
この曲がファンに強く支持される理由は、Humの美点が派手ではない形で詰まっているからである。巨大なギター、静かなボーカル、自己嫌悪の歌詞、長い構成、そして最後まで救われきらない余韻。ロックの轟音を使いながら、感情を大げさに解放しない。その抑制が、「I Hate It Too」を長く聴ける曲にしている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Stars by Hum
Hum最大の代表曲であり、『You’d Prefer an Astronaut』の中心的なシングルである。轟音ギターとメロディのバランスが最も分かりやすく、「I Hate It Too」よりも明るい入口として聴ける。
- Why I Like the Robins by Hum
同じアルバム収録曲で、Humのメロディアスで奇妙な叙情がよく出ている。「I Hate It Too」の暗さに対して、こちらは少し開けた空気を持つが、孤独感と浮遊感は共通している。
- The Pod by Hum
『You’d Prefer an Astronaut』収録曲で、重いギターとSF的なイメージが強く出た楽曲である。「I Hate It Too」の感情的な重さが好きな人には、よりスペース・ロック的なHumを味わえる。
- Stuck on You by Failure
1996年作『Fantastic Planet』収録の代表曲で、重いギター、宇宙的な孤独、メロディの強さがHumと近い。1990年代中盤のスペース・ロック/オルタナティヴの文脈を理解するうえで重要である。
- Mayonaise by The Smashing Pumpkins
1993年作『Siamese Dream』収録曲で、轟音ギターと繊細な自己嫌悪が結びついた名曲である。「I Hate It Too」のような、厚いギターの中に沈む個人的な痛みが好きな人に合う。
7. まとめ
「I Hate It Too」は、Humの1995年作『You’d Prefer an Astronaut』に収録された楽曲であり、アルバム終盤の感情的な核心を担う一曲である。シングル「Stars」のような知名度はないが、Humの重く沈み込むギター・サウンドと、傷ついた内面を最も深く味わえる曲のひとつである。
歌詞では、語り手が自分の無力さと相手への依存を見つめている。相手を必要としていることは愛の証でもあるが、同時に自己嫌悪の原因でもある。タイトルの「I Hate It Too」は、関係への嫌悪、自分への嫌悪、状況全体への嫌悪が重なった言葉として響く。
サウンドは、重く、遅く、分厚い。ギターは音の壁を作り、リズム隊は曲を大きな重力で支える。Matt Talbottのボーカルは感情を叫びすぎず、轟音の中に沈むように歌う。この抑制された歌唱が、曲の痛みをより深くしている。
「I Hate It Too」は、Humが単なる90年代オルタナティヴの一発ヒット・バンドではなく、後のシューゲイズ、エモ、ポストハードコア、スペース・ロックにも影響を与える独自の音を持っていたことを示す曲である。大きな音で鳴っているのに、感情は内側へ沈んでいく。その矛盾こそが、Humの魅力であり、この曲の核心である。
参照元
- Discogs – Hum – You’d Prefer An Astronaut
- Discogs – Hum – You’d Prefer An Astronaut CD
- Apple Music – You’d Prefer an Astronaut by Hum
- Dork – I Hate It Too by Hum
- The A.V. Club – Hum’s You’d Prefer An Astronaut is an overlooked masterpiece
- Vinyl.com – Hum – You’d Prefer An Astronaut
- MusicBrainz – You’d Prefer an Astronaut by Hum
- AllMusic – Hum Biography

コメント