
発売日:2005年10月18日
ジャンル:Pop Rock / Alternative Rock / Power Pop
概要
I Am Meは、Ashlee Simpsonが2005年に発表した2作目のスタジオ・アルバムである。全米1位を獲得したデビュー作Autobiographyから約1年で制作され、前作を手がけたJohn Shanksが引き続きプロデュースを担当した。歪んだギターと大きなサビを中心にしたポップ・ロックを基本としながら、ニューウェイヴ、1980年代のロック、電子的な鍵盤などを加え、前作より色彩を増している。
本作が作られた時期には、Simpsonが2004年のテレビ番組出演で起きた口パク騒動をめぐる激しい批判の渦中にいた。そのため「Boyfriend」や「Beautifully Broken」を含め、他人からどう見られるか、自分をどう守るかという問題が作品の随所に現れる。ただし全曲を騒動への回答として読むのは適切ではなく、恋愛、嫉妬、自己像、別れといった20歳前後の人物に身近な題材も大きな部分を占める。
Simpsonの声は滑らかな技巧より、少しかすれた中低域と力を込めたサビに個性がある。Shanksはそこを生かしてギターを厚くしながら、曲によってシンセやピアノを配置し、Kelly Clarksonなどにも通じる当時のラジオ向けポップ・ロックへ仕上げた。I Am Meという題名通り自己主張の強い作品だが、その内側には自信だけでなく、周囲の評価によって揺れる不安も残されている。
全曲レビュー
1. 「Boyfriend」
太いギター・リフと手数を抑えたビートから始まり、サビで音を一気に広げる。歌詞は他人の恋人を奪ったという噂を否定する内容で、弁明を湿っぽく語るのではなく、苛立ちを軽快なロックへ変えているのが特徴だ。Simpsonは語りかけるようなヴァースからサビで声を荒くし、「私じゃない」という主張を強いフックへ変える。ゴシップとポップソングを直接接続したオープナーである。
2. 「In Another Life」
前曲より柔らかなメロディを持ち、現在の関係では実現できない可能性を「別の人生」という言葉に託す。ギター中心の編成は保たれているが、サビのコーラスには明るさと切なさが同居し、単純な失恋曲には聞こえない。相手を完全に否定するのではなく、条件さえ違えばうまくいったかもしれないという未練を残すことで、アルバム序盤に感情的な幅を作っている。
3. 「Beautifully Broken」
自分の欠点や傷を消して理想的な人物になろうとするのではなく、不完全な状態を受け入れようとする曲である。ピアノを含む穏やかな導入から、サビではギターとドラムが厚くなり、内向きの言葉を大きなポップ・ロックへ変える。「壊れている」ことを単純に肯定するのではなく、揺れながら自己像を組み直していく歌唱に説得力がある。
4. 「L.O.V.E.」
ニューウェイヴ風のシンセと機械的なビートを前面に出し、それまでのギター・ロックから明確に音色を変える。恋愛そのものより女友達との結束を軸にした曲で、男性との関係に振り回される歌が多いアルバムの中では視点も異なる。文字を一つずつ区切るタイトルのフックと単純なリズムを組み合わせ、歌唱力を見せるより集団で歌える楽しさを優先したポップソングだ。
5. 「Coming Back for More」
一度距離を置いても相手へ戻ってしまう関係を、テンポの速いギター・ポップへ落とし込む。リズム隊は休まず前へ進み、サビではコーラスが厚くなるため、理性では止められない反復そのものが演奏に表れている。歌詞の語り手は完全に受け身ではなく、自分でも危うさを理解しながら戻ることを選んでおり、その矛盾が曲の勢いにつながっている。
6. 「Dancing Alone」
タイトルの「一人で踊る」という状態を、孤独と自立の両方へ開いた曲である。電子的な質感を混ぜたビートによって身体を動かす軽さを作りながら、Simpsonの歌には取り残されたような響きもある。誰かがいないから動けないのではなく、一人でも進もうとする姿勢が見え、I Am Meという作品の自己主張をダンス・ポップ寄りの方法で表現している。
7. 「Burnin Up」
熱や燃焼のイメージをそのまま音へ移すように、ギターとリズムを強く押し出す。Simpsonの少しかすれた声はこうしたロック寄りの曲と相性がよく、きれいに整えるより語尾に荒さを残すことで切迫感が増す。恋愛の高揚を扱いながら、ロマンティックなバラードにはせず、制御しにくい身体的なエネルギーとして表した一曲である。
8. 「Catch Me When I Fall」
ピアノを中心に速度を落とし、アルバムの中でも特に弱さを隠さない曲である。成功や批判の中で孤立し、転んだときに受け止めてくれる人を求めるような歌詞は、当時のSimpsonを取り巻いた状況とも重ねて聞けるが、具体的な出来事だけに限定されてはいない。大きなサビでも伴奏で押し切らず、声の震えや息遣いを残すことで、自己防衛の強かった前半とは違う表情を見せる。
9. 「I Am Me」
タイトル曲では、他人が期待する人物像ではなく自分自身でいるという主張を、ストレートなロックへ変える。ギターとドラムが明確な拍を刻み、Simpsonも細かな歌唱技巧より言葉を強く発音することを優先する。ただしアルバム全体には迷いや傷つきやすさを描く曲も多いため、この自己宣言は「もう何も気にしない」という完成された自信より、自分に言い聞かせる言葉として聞く方が自然である。
10. 「Eyes Wide Open」
周囲で起きていることを見逃さないという警戒心が、やや暗いギターと緊張したリズムによって表現される。明るいパワー・ポップとは違い、ヴァースでは音を抑えて不安を蓄積し、サビでギターを広げることで心理的な圧迫を解放する。タイトルは無邪気な好奇心というより、傷ついた後に警戒を解けなくなった人物の状態を思わせる。
11. 「Say Goodbye」
最後は別れを題材にしたミッドテンポの曲で、怒りより受容へ重点を置く。関係の終わりを劇的な復讐や勝利として描かず、別れを口にするまでのためらいをメロディに残している。前半では他人へ強く反論し、タイトル曲では自分自身を宣言したアルバムが、最後には何かを手放す行為へ向かう。完全な解決ではないが、自己主張だけで終わらない余韻を作る締めくくりである。
総評
I Am Meの中心には、2000年代半ばのポップ・ロックらしい即効性がある。ギターは太く、ドラムは明瞭で、ヴァースを抑えてサビを大きくする構成も多い。しかしJohn Shanksのプロダクションは同じ音を全曲で繰り返さず、「L.O.V.E.」ではニューウェイヴ的な電子音、「Catch Me When I Fall」ではピアノを使い、Simpsonの声を異なる環境へ置く。そのため、基本形は明快ながら11曲を通して一定の起伏が生まれている。
Simpson自身の歌唱も、この作品では技巧的な完璧さより声質が重要である。中低域にはざらつきがあり、高いサビでは少し無理を残したような押し出しがある。それが「Boyfriend」の苛立ちや「I Am Me」の自己主張では強さになり、「Catch Me When I Fall」では逆に不安定さとして機能する。音程や声の美しさだけではなく、その曲の人物がどの程度自信を持っているのかを声の質感から感じられる。
歌詞では「自分らしくいる」という題名ほど単純な自己肯定にはまとまっていない。噂への反論、友人との連帯、戻ってしまう恋愛、他人に支えてほしいという願いが並び、語り手は曲ごとに強くなったり弱くなったりする。その不統一さは、むしろ本作の題名を興味深くしている。「I am me」という宣言は完成した人格の提示ではなく、外部の視線が強くなる中で自分の位置を確保しようとする行為として聞こえるからだ。
デビュー作ほど鮮烈な方向転換を提示した作品ではなく、基本的にはAutobiographyで確立したポップ・ロックを拡張した一枚である。それでも、電子音や80年代的なポップ感覚を加えたことは、次作Bittersweet Worldでのニューウェイヴ志向を先取りしている。2000年代の女性ポップ・ロックが商業的に大きな存在だった時期の音を記録すると同時に、激しい注目を浴びた若い歌手が、その視線を楽曲の材料へ変えようとした作品としても位置づけられる。
おすすめアルバム
Autobiography by Ashlee Simpson
2004年のデビュー作。歪んだギター、かすれた歌声、恋愛と自己像を扱う歌詞という基本形がここで確立されている。I Am Meが何を引き継ぎ、どこに電子的な色を加えたかを比較しやすい。
Bittersweet World by Ashlee Simpson
2008年の次作。I Am Meの「L.O.V.E.」などで顔を出していたニューウェイヴ志向をさらに押し広げ、シンセ、ダンス・ビート、ロックを混ぜたより大胆なサウンドへ進んでいる。
Breakaway by Kelly Clarkson
2004年作。John Shanksらの制作による巨大なギター・ポップと力強い女性ボーカルを組み合わせ、同時期のラジオ向けポップ・ロックを代表する一枚。本作との制作感覚の共通点も多い。
Under My Skin by Avril Lavigne
2004年作。キャッチーなポップを維持しながら、前作より暗いギターと内向的な歌詞を増やしている。若い女性歌手の個人的な不安を大規模なロック・プロダクションへ変換する点で共通する。
The Best Damn Thing by Avril Lavigne
2007年作。パワー・ポップの大きなサビと挑発的な自己主張をさらに明るく押し出した作品である。I Am Meにあるギター中心の即効性が、その後のメインストリーム・ポップでどう展開したかを比較できる。

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