1. 歌詞の概要
「Hurting Each Other」は、Carpentersが1972年にリリースしたアルバム『A Song for You』に収録され、シングルとしても大ヒットを記録した楽曲である。そのタイトルが示す通り、この曲が描くのは「互いを傷つけあう」恋人たちの姿。だが、それは憎しみや断絶の物語ではない。むしろ、愛し合っているがゆえに、どうしてもすれ違い、傷つけてしまうという、普遍的でやるせない人間関係の真実が描かれている。
歌詞の中では、語り手が「僕たちはずっとお互いを傷つけてばかりだ」と繰り返し訴える。けれどそこには、非難や怒りではなく、どうしようもない切実さと、もう一度やり直したいという静かな願いが込められている。愛しているのに傷つけてしまう――そんな矛盾に満ちた感情を、カレン・カーペンターの繊細な歌声が見事に表現している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Hurting Each Other」はCarpentersのオリジナル曲ではなく、1965年にジミー・クラントンによって初めてレコーディングされた作品である。その後、いくつかのアーティストによってカバーされたが、決定的なヒットとなったのは1972年にCarpentersが手がけたヴァージョンであった。
リチャード・カーペンターによるストリングスとブラスの織りなすドラマチックなアレンジ、そしてカレン・カーペンターのボーカルによって、この曲は単なるポップソングから、感情の機微を表現した「小さなドラマ」へと昇華された。シンプルな構造ながらも、メロディラインとボーカルの抑揚によって、心の揺れや痛みを鮮やかに浮かび上がらせている。
全米シングルチャートでは最高2位を記録し、Carpentersの代表的なバラードとして多くのリスナーに愛されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
No one in the world
Ever had a love as sweet as my love
世界中探しても
僕たちほど甘く愛し合った人はいない
And giving each other love every day
And every night
That kind of love lasts forever
毎日、毎晩、互いに愛を注いだ
そんな愛は、きっと永遠に続くと思っていた
But somehow, we just keep on
Hurting each other
なのに、なぜだろう
どうして僕たちはこんなにも
互いを傷つけてばかりなんだろう
引用元:Genius Lyrics – Carpenters “Hurting Each Other”
4. 歌詞の考察
「Hurting Each Other」は、愛し合っているにもかかわらず、互いに痛みを与え合ってしまう人間関係のもどかしさを真正面から描いている。ここで歌われているのは、冷え切った関係ではない。むしろ、深く結ばれたふたりのあいだでしか起こり得ない、感情の衝突なのである。
“そんな愛は、きっと永遠に続くと思っていた”という回想には、過去の幸福な日々への惜別がにじむ。それだけに、「どうしてこんなふうになってしまったのか」という語り手の戸惑いや悲しみは、よりリアルに胸に響いてくる。
そして、“Hurting each other”というフレーズが繰り返されるたびに、リスナーの心には問いが生まれる。愛は、いつから傷に変わるのだろうか? それとも、愛とはそもそも、傷つけあうことを含んでいるものなのか? この楽曲は、そうした簡単には答えの出ない感情を、3分少々のポップソングの中に見事に封じ込めている。
カレン・カーペンターのボーカルは、こうした複雑な感情を声の抑揚で的確に表現している。怒りに満ちることなく、涙に溺れることもない。ただ、心の奥から湧き出るような切なさを、誠実に、まっすぐに届けてくる。だからこそ、この曲は時代を超えて愛され続けているのだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- You Don’t Bring Me Flowers by Neil Diamond & Barbra Streisand
すれ違いと愛の終焉を描いたデュエット。互いを思いながらも遠ざかっていく心の描写が共鳴する。 - If You Leave Me Now by Chicago
離別の切なさを美しいメロディで綴った名曲。傷ついた心のやわらかな触れ方が似ている。 - For All We Know by Carpenters
愛の儚さと信頼をそっと歌い上げた、Carpentersらしい繊細なバラード。 - All Out of Love by Air Supply
想いを伝えられずに苦しむ語り手の姿が、「Hurting Each Other」と感情的に重なる。
6. 愛が生む傷と、それでもなお求めてしまうもの
「Hurting Each Other」は、恋愛において誰もが一度は経験するであろう感情を描いている。愛しているのに、理解しあえない。近くにいながら、心が遠ざかっていく。そんな矛盾を、人はどう扱えばいいのか――この曲はその問いに明確な答えを与えることはしない。ただ、その感情を誠実に描き、聴き手に静かに委ねている。
そして、カレン・カーペンターの歌声は、その問いに寄り添い、ただ“そばにいる”ような安心感を与えてくれる。リスナーは、彼女の声に包まれながら、自分自身の経験や感情と向き合うことになるのだ。
「Hurting Each Other」は、恋の甘さと痛みの両方を知っているすべての人にとって、まるで日記のように、あるいは手紙のように、心の奥に静かに寄り添ってくる。悲しいのに、どこか温かい。その矛盾こそが、愛というものの本質を語っているのかもしれない。
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