
発売日: 2023年9月15日
ジャンル: サイケデリック・フォーク、インディーロック、ローファイ、エクスペリメンタル・ポップ
概要
『How to Survive In + In the Woods』は、ブルックリンのサイケデリック・フォークバンド、Woodsによる2023年の2枚組アルバムであり、バンドの内省的かつ実験的な側面を濃密に反映した作品である。
このアルバムは、同時期に制作された2つのEP的作品『How to Survive In the Woods』と『In the Woods』を統合し、森林を象徴するスピリチュアルな空間と、都市的孤独の交差点に立つような音像を築いている。
Woodsは2000年代後半から活動を続け、Lo-fi録音、アナログ志向、内省的で瞑想的な音楽性によって、インディーロック/フォーク・サイケの枠内で独自の地位を築いてきた。
本作では、長年にわたって築いてきた“森”のようなサウンドスケープに加え、より崩壊的でドローン的なアプローチや、環境音楽のような抽象性が加味されており、まさにWoodsの“音のアーカイブと新たな試み”が共存する内容となっている。
全曲レビュー(抜粋)
1. The Seed
柔らかなギターのアルペジオと微かなパーカッションが織りなすオープニング。
“種”を象徴するこの曲は、アルバムの生命的テーマを提示する。
2. Double Dream
夢と現実のあいだを揺らぐような、エコーとリバーブに包まれたサイケデリック・フォーク。
Jeremy Earlのハイトーンボーカルが幻想的に浮かび上がる。
3. Between the Past
かすかなテープノイズとともに展開する静謐なトラック。
ノスタルジーと再構築をテーマにした、時間の層を感じさせる楽曲。
4. Day Moving On
60年代フォークロックの影響を感じさせる、軽やかなギターポップ。
だが、その明るさの背後には“移ろいゆく日々”への寂しさがにじむ。
5. In the Cradle
シンセとサンプルが溶け合い、子守唄のような包容力を持つアンビエント・トラック。
アルバムの中盤に訪れる静かな呼吸のような楽曲である。
6. New Life Road
浮遊感あるシンセベースとルーズなドラムが交差するサイケ・ジャム。
新たな旅立ちと、その道の不確かさを表現している。
総評
『How to Survive In + In the Woods』は、Woodsというバンドの音楽的旅路の集大成であると同時に、新たな内的宇宙への“静かな開拓”とも言える作品である。
本作に通底するのは、“消えゆくものたちへのまなざし”と“自然との再接続”というテーマであり、アコースティックギターやリズムボックスの温もり、ローファイ録音のざらつきが、聴き手の内面を優しく震わせる。
一方で、アンビエントやドローン的要素、サンプルの導入により、彼らの音楽はより非具象的な方向へと拡張されている。
それはまるで、森の中を歩きながら、目に見えない記憶や時間の層に触れているような感覚だ。
このアルバムを貫くのは“音による風景画”であり、それは鮮やかではなく、淡く、柔らかく、曖昧で、しかし確かに存在する。
耳を澄ませるほどに深まっていくこの作品は、目立たずとも心の深部に根を張る“静かな傑作”なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Strange to Explain / Woods
本作に直接つながる2020年の作品。メロディと実験性のバランスが秀逸。 -
Microcastle / Deerhunter
ドリーミーなローファイ・サイケと構造美が共鳴。Woodsの音響美学と重なる。 -
Sung Tongs / Animal Collective
アコースティックな実験性と“森的な感覚”が近似する、エクスペリメンタル・フォークの代表作。 -
A River Ain’t Too Much to Love / Smog
静謐と内省、淡々とした語りの美しさ。Jeremy Earlの語り口に通じる空気がある。 -
Ghost Tropic / Songs: Ohia
夜と自然、孤独とスピリチュアリティを結びつける名作。『How to Survive In』の影絵のような反映。
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