
1. 歌詞の概要
「High in Brighton」は、イギリス発のインディーポップバンド、FIZZが2023年にリリースしたデビューアルバム『The Secret to Life』に収録された楽曲である。
この曲は、海沿いの町ブライトンを舞台に、自由奔放な感覚、逃避、そして青春のきらめきを鮮やかに描き出している。
タイトルの「High」という言葉には、単なる薬物的な意味合いだけでなく、開放感、幸福感、あるいは現実からの一時的な浮遊感──そんな複層的なニュアンスが込められている。
FIZZらしい遊び心と無邪気な叙情性が織り交ぜられたこの楽曲は、若さ特有の軽やかさと、その背後に潜む微かな寂しさを、瑞々しいサウンドとともに描いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
FIZZは、オリ・フォックス、ドディ・クラーク、マーティン・ルーク、そしてトビー・トリードの4人によって結成されたコレクティブであり、それぞれがソロアーティストとしても高い評価を受けている。
「High in Brighton」は、バンドメンバーたちがブライトンを訪れた際の体験をもとに作られた曲だという。
ブライトンはイギリスの中でも特に自由な空気が漂う場所であり、そこでは何者にも縛られず、ただその瞬間を楽しむことができたと、彼らは語っている。
この楽曲は、そうした「逃避の瞬間」、そして「自分を解き放つことの喜び」を捉えようとする試みであり、あえて細かいストーリーは描かず、感覚そのものを音楽に封じ込めている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
“We got high in Brighton, kissed the morning light”
ブライトンで高揚して、朝の光にキスをした“Laughed until we cried, forgot about the time”
笑い転げて、涙が出るまで、時間なんて忘れてた“Running down the pier, you said you loved me”
桟橋を駆け下りながら、君は「愛してる」と言った“Maybe it was true, maybe it was just the view”
それが本当だったのか、ただの景色のせいだったのか
これらのフレーズからは、刹那的な幸福感と、それに対するどこか淡い疑念が交錯する様子が伝わってくる。
4. 歌詞の考察
「High in Brighton」は、若さゆえの無鉄砲さと、それがもたらす一瞬の自由、そしてその背後に漂うほろ苦さを、非常に巧みに描いた楽曲である。
「We got high in Brighton」というラインは、単なる遊びの記録ではない。
そこには、現実から一時的に逃れ、ただ”今”を生きることの喜びと切なさが滲んでいる。
また、「Maybe it was true, maybe it was just the view」というフレーズは、瞬間の感情がどこまで本物だったのかという問いを投げかけている。
愛の言葉、友情、幸福──それらが本当にそこにあったのか、それとも一瞬の高揚感が見せた幻だったのか。
この曖昧さこそが、「High in Brighton」という楽曲に深みを与えている。
FIZZは、決して答えを押し付けない。
むしろ、この曖昧な幸福感と寂しさを、ありのままに抱きしめることの美しさを、音楽でそっと提示している。
サウンド面でも、軽やかなリズムと広がりのあるコーラス、そしてきらめくようなギターが、まるでブライトンの海辺で感じる自由な風のように、聴く者を包み込む。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Dog Days Are Over” by Florence + The Machine
解放感と喜びを爆発させる、生命力に満ちたアンセム。 - “Electric Feel” by MGMT
夢見心地な高揚感と、刹那的なエネルギーを描いたサイケデリック・ポップ。 - “Budapest” by George Ezra
旅と自由、そしてその裏に潜む淡い孤独を、軽やかに描いた楽曲。 - “Goodie Bag” by Still Woozy
リラックスしたビートの中に、刹那的な愛と若さの輝きを封じ込めたポップチューン。 - “New Slang” by The Shins
青春の孤独と希望を、軽やかなメロディに乗せたインディーロックの名曲。
6. 刹那のきらめきを抱きしめて
「High in Brighton」は、FIZZが描く”青春の一幕”を切り取った、きらめきと切なさに満ちた楽曲である。
私たちは、何かを忘れたくて、何かから逃げたくて、時にただ笑い、走り、抱きしめ合う。
その瞬間に感じた愛も、自由も、すべてが本物だったかどうかはわからない。
でも、それが幻だったとしても──たとえすべてが過ぎ去ってしまったとしても──
あの一瞬があったということだけは、永遠に消えない。
FIZZは「High in Brighton」で、その儚くも輝かしい真実を、軽やかに、そして深い愛情を込めて歌い上げた。
それは、すべての「かけがえのない瞬間」を生きた人々への、優しい賛歌なのである。
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