1. 歌詞の概要
「Hideous Towns」は、The Sundaysが1990年に発表したデビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』の中に収録された楽曲である。タイトルの「Hideous Towns（おぞましい町）」が示すように、この曲では日常生活や社会の中で感じる息苦しさ、孤独、そして世界との不協和音のようなものが繊細に描かれている。
しかし、それはただの反抗や逃避ではなく、静かに内側で芽生える違和感、つまり“ここではないどこかを望む気持ち”が詩的に綴られている。ヴォーカルのハリエット・ウィーラーは、その感情を声を荒げることなく、むしろ囁くように、語るように歌い上げる。その儚くも芯のある歌声は、居場所のなさを抱える聴き手の胸に、そっと寄り添う。
この楽曲に流れるのは、田舎でも都会でもない「どこにも属さない場所」に生きる人間の、日常とその周縁への視線だ。そうした“透明な疎外感”こそが、The Sundaysの本質であり、この曲はその原点のような存在なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Sundaysは、マンチェスター・シーンやシューゲイザーといった90年代の文脈とはやや異なる、極めて独自性の強いバンドである。デビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』は、その名のとおり、学校で習う3R（読み書き算数）を皮肉ったようなタイトルを持ち、日常生活や若さの中にある“閉塞”や“違和感”を、美しくもどこか醒めたまなざしで描いている。
「Hideous Towns」は、そうしたテーマの中でも特に象徴的な一曲であり、ハリエットが実際に暮らしていたイングランドの地方都市で感じていた居心地の悪さ、若者特有の“この町にずっといてはいけない”という焦燥感がそのまま投影されているように感じられる。
この曲の魅力は、派手な展開や痛烈な批判ではなく、むしろその“抑制された反発”にある。語りすぎないからこそ、聴き手それぞれの「息苦しい場所」がこの曲の中に重ねられ、自分の物語のように響くのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
And these hideous towns
このおぞましい町たちWill all slip away
やがてすべて、消えていくYou’ll be lying awake
そしてあなたは目を覚ましたままCounting the days
日々を数えているだろう
このサビでは、「この町がいずれ消える」という希望とも諦念ともとれるフレーズが繰り返される。「逃げたい」という衝動ではなく、「今ここにいても、自分は消えてしまうかもしれない」という切実な感覚がにじむ。
You only want to be
あなたがただなりたかったのはSome kind of friend
何かしらの“誰かの友達”
この一節に、圧倒的な孤独が滲む。大それた夢を抱くわけでも、激しい自己主張をするでもなく、ただ誰かとつながりたい——そのささやかな願いが、逆説的にこの世界の不寛容さを浮かび上がらせている。
※歌詞引用元：Genius – Hideous Towns Lyrics
4. 歌詞の考察
「Hideous Towns」は、The Sundaysの中でも特に“無力さ”を誠実に描いた曲である。そしてその無力さは、決して否定的なものではない。むしろ、それを自覚し、それでもなお日々を生きていくことの中に、人間らしい美しさがあるとこの曲は語っている。
この楽曲における「町」は、単なる物理的な場所ではない。そこには“社会”や“周囲の期待”、“過去の自分”といったメタファーも含まれているだろう。語り手はそうした環境の中で、“期待された人間像”に合わせようとして、でもうまく適応できない——その葛藤が、シンプルな旋律のなかに繊細に紡がれている。
そして何より、この曲は「逃げる」ことを美化しない。それでも“ここではないどこか”を夢見る感情は、思春期の特権ではなく、誰もが一生のうちに何度も感じる普遍的なものなのだ。「Hideous Towns」はそのことを、そっと耳元で囁いてくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- There Is a Light That Never Goes Out by The Smiths
逃避願望と愛が交差する、若者の内的世界を描いた名曲。 - Requiem for O.M.M.2 by of Montreal
閉塞感と自己解体のはざまで揺れる、心理的ポップソング。 - Seether by Veruca Salt
抑えきれない内面の衝動をギターノイズに乗せた90sオルタナの象徴。 -
Debbie by The Bats
郊外的な倦怠と優しさが交差する、ニュージーランド・インディーの隠れた名曲。 -
Come On, Aphrodite by The Magnetic Fields
現実に不協和音を感じながらも愛と幻想を求める姿勢が詩的に描かれる。
6. “今いる場所”を見つめるということ
The Sundaysの「Hideous Towns」は、どこかに行きたい人のための歌ではなく、“今ここにいることの息苦しさ”を、ただそのまま見つめるための音楽である。そこには希望も絶望もある。ただし、そのどちらにも傾かないからこそ、この曲はリスナーにとって“居場所”になる。
愛や夢や成功では語りきれない、「説明のつかない気持ち」が人生にはいくつもある。The Sundaysは、そのひとつひとつを声にせず、ただ音にして残していった。「Hideous Towns」はそんな彼らの美学の核であり、今も多くの人の“心の風景”として鳴り続けている。
時には、居場所のなさそのものが、音楽によって救われることもある。そのことを、The Sundaysは誰よりも静かに、でも確かに教えてくれている。
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