発売日: 2015年4月14日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポスト・グランジ、ノイズロック、DIYロック
概要
『Hey, Killer』は、Local Hが2015年に自主レーベル「G&P Records」からリリースした8枚目のスタジオ・アルバムであり、
新たなドラマーRyan Hardingとの初フル作にして、バンドが再びその“粗削りで誠実なロック・アイデンティティ”へと立ち返った作品である。
前作『Hallelujah! I’m a Bum』がアメリカ政治を軸にした大規模なコンセプト・アルバムだったのに対し、
本作はよりタイトに、よりパーソナルに、“ギターとドラムの2人でどこまで音を鳴らせるか”という原点的問いかけに向き合っている。
クラウドファンディング(PledgeMusic)を通じて資金を集め制作されたこともあり、
バンドとファンの間の距離が縮まった結果、「ロックとは何か」をあらためて問うようなDIY精神が全編に貫かれている。
“Hey, Killer”というタイトルは、暴力の比喩にも、日常の皮肉にも、ロックンロールへの呼びかけにも読める。
Local Hの持つ反抗性・親密さ・知性が、三位一体で響く濃密な一枚となった。
全曲レビュー
1. The Last Picture Show in Zion
タイトルはシカゴ郊外「Zion」に実在した映画館と、1971年の同名映画へのオマージュ。
閉館する映画館の風景から、文化の終焉と故郷の消失感が広がる。
静かな出だしからサビで爆発する、アルバムの幕開けにふさわしいエモーショナルな一曲。
2. City of Knives
タイトル通りの刺々しさを持つヘヴィ・チューン。
シカゴという都市を、**裏切りと暴力の象徴=“ナイフの街”**として描く。
スコット・ルーカスのシャウトが冴え渡る。
3. Freshly F**ked
あえてピー音表記を避けないタイトルに、痛烈な現実と自嘲的ユーモアが込められている。
騙された、搾取された、でもまだ立っている。そんなロックサバイバルの物語。
4. Gig Bag Road
ツアーに明け暮れる生活のリアル。
“ギグバッグ”に詰め込まれた夢と現実の狭間で、音楽にすべてを懸ける孤独と覚悟が鳴り響く。
5. The Misanthrope
タイトルの通り、“人間嫌い”をテーマにしたミドルテンポの重厚ナンバー。
社会との断絶を叫ぶようでいて、逆に人間に絶望した者だけが持つ優しさが滲む。
6. One of Us
「もし神が私たちのひとりだったら?」という問いを逆手にとったような、シニカルで哲学的な歌詞。
“誰もが“誰か”である”という冷酷な現実が、美しいメロディに乗って届く。
7. Leon and the Game of Skin
寓話的タイトルと不穏なリズムが印象的な異色曲。
“肌のゲーム”=社会における表層のやりとりを冷笑しつつ、傷つきやすい内面に触れるアングルが新鮮。
8. The Creatures
不気味なベースと抽象的な歌詞で、“都市の獣たち”=人間の暗部や本能を描く。
パンクではなくポスト・パンク的アプローチ。
9. The Invisible Self
自分が自分であるという感覚が失われていく様子を描いた深層的バラード。
ルーカスの囁くようなヴォーカルが、自己喪失と再構築の境界線を突き詰める。
10. Age Group Champion
皮肉と愛嬌の共存するポップ・パンクナンバー。
「年代別のチャンピオン」——それは成功とは無関係の称号か、人生のささやかな誇りか。
聴き手に委ねるような余白が心地よい。
11. John the Baptist Blues
聖書的なモチーフと現代の孤独が交差する。
預言者であろうとした者が社会から乖離していく姿を、ブルージーなロックで描いた異端の賛歌。
12. Mansplainer
タイトル通り、“マンスプレイナー”=偉そうに語る男たちへの痛烈な風刺。
Local Hらしい鋭い視点とユーモアが炸裂する。
13. Body of Work
ラストを飾るスロー・バラード。
「自分という作品」を振り返りながら、後悔、怒り、愛、誇りがゆっくりと混ざり合う。
アルバム全体の総括的楽曲。
総評
『Hey, Killer』は、Local Hが再びその核に立ち返り、自分たちの“声とノイズだけで何を語れるか”を真正面から問うた作品である。
クラウドファンディングという新しい形式の制作と、2人編成という最小限の音像にこだわったその姿勢は、
ロックのDIY精神、ライブ性、そして現代的な批評性の融合体となっている。
政治色や社会風刺の比重は前作より軽くなったが、そのぶんこのアルバムは、
“不器用な個人の声”にグッと寄り添い、生活者としてのロッカーの生態を音に刻んでいる。
それは、誠実なロックにしかできない営みであり、Local Hがいまも変わらず鳴らし続ける理由そのものでもある。
おすすめアルバム
- Japandroids『Celebration Rock』
ミニマルな2人編成で最大限の熱量を放つ、DIYロックの代表作。 - Cloud Nothings『Here and Nowhere Else』
焦燥感と音の爆発力が共鳴。Local Hと同じ“感情の速度”を持つ。 - The Thermals『Desperate Ground』
政治性と内面性をバランスよく響かせたパンク/ロック中間作。 - Bob Mould『Beauty & Ruin』
パンクレジェンドによる痛みと再生のアルバム。Local Hの歌詞世界に通じる。 -
METZ『II』
暴力的なノイズの中に人間の痛みが響く。Local Hのラウド面と近い感覚。
ファンや評論家の反応
『Hey, Killer』は、ファンの間では“原点回帰と深化のバランスが絶妙”と高く評価された作品であり、
ライブでも「The Misanthrope」「City of Knives」「Gig Bag Road」などが定番化した。
クラウドファンディングでの制作プロセスも、
“ファンとともに作るアルバム”という意識を強め、バンドの信頼と愛着を一層深めた作品として語られている。
「派手さはないが、Local Hを信じる理由がすべて詰まっている」——
そんな感想を多くのリスナーが共有する、**真の意味で“ロックファンのためのロックアルバム”**である。
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