1. 歌詞の概要
「Here It Goes Again」は、OK Goが2006年にリリースした2ndアルバム『Oh No』からのシングルであり、彼らの代表曲にして、ポップカルチャー史に残る“あの”トレッドミル・ミュージックビデオで世界的な注目を集めた楽曲である。
歌詞の内容は、一見すると軽快でキャッチーなロックナンバーに乗せられたポップな恋愛ソングのように見えるが、その実、繰り返される恋愛のパターンや自己矛盾への皮肉が込められている。「またか…」というタイトルの通り、分かっていながらも同じ失敗を繰り返してしまう人間の愚かさ、あるいは抗い難い衝動がテーマになっている。
冒頭から展開される「It could be ten, but then again I can’t remember half an hour since a quarter to four」のような、時間の感覚が曖昧になっていく感覚、理性と感情のせめぎ合いは、まさに“衝動”の象徴でもあり、愛や欲望に振り回される心の内面が、軽快なビートの下に隠れている。
2. 歌詞のバックグラウンド
OK Goはアメリカ・シカゴ出身のインディーロックバンドで、DIY精神と斬新な映像表現によって2000年代以降、独自の存在感を放ってきたグループである。
「Here It Goes Again」は、プロデューサーにTore Johansson（The Cardigansなどを手がけたスウェーデンの名匠）を迎えた『Oh No』収録曲で、バンドとしてのソリッドでダンサブルなロックサウンドが炸裂した楽曲。リリース当初からラジオやチャートで好成績を収めたが、決定的なブレイクのきっかけとなったのは、YouTubeにアップされたミュージックビデオである。
このビデオは、複数のトレッドミル（ランニングマシン）を使ってバンドメンバーが驚異的な動きを見せる一発撮りのパフォーマンス映像であり、当時はまだ黎明期だったYouTubeで一気に拡散され、世界中の注目を集めた。音楽そのものに加え、「視覚体験」としてのポップ・アイコンとしても機能した点が、OK Goというバンドのユニークさを際立たせた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“It could be ten, but then again I can’t remember half an hour since a quarter to four”
「今は10時かもしれない、でもまた… 4時15分からの30分を覚えていないんだ」“And you said, then you said it’s for the best”
「君は言ったよね、それが最善なんだって」“Here it goes, here it goes, here it goes again”
「まただよ、また始まる、またこの繰り返し」“Oh here it goes again”
「ほら、また同じことの繰り返しさ」
このように、歌詞の中では時間の流れや記憶の混乱、意識の飛躍が連続的に描かれており、感情の波に翻弄される主人公の姿が浮かび上がる。
4. 歌詞の考察
「Here It Goes Again」の真髄は、その言葉の軽妙さと、裏に潜む諦念とのコントラストにある。「わかってる、これはまた繰り返すんだ」という開き直りにも似た語り口は、恋愛における中毒性、あるいは人生の“ループ性”に対する洞察にも思える。
リズムは軽快で、ギターは跳ねるように刻まれ、全体的には明るいムードが支配している。しかしその中で繰り返されるフレーズ「Here it goes again」は、聴けば聴くほど、どこか疲弊したニュアンスを感じさせる。これはまさに、「楽しく見えるけど、実は苦しい」——そんな人間関係の奥深さを象徴しているのではないだろうか。
また、トレッドミルのミュージックビデオという視覚的象徴は、まさに「同じ場所で空回りしている」恋愛や人生そのもののメタファーとして秀逸だ。走っているのに前に進んでいない。それでもやめられない。その「滑稽さ」と「悲しさ」の両方が、この曲には同居している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Take Me Out” by Franz Ferdinand
ダンサブルなリフとひねりの効いた歌詞で、2000年代のインディーロック・ブームを牽引した一曲。 - “Move Your Feet” by Junior Senior
楽しげなサウンドの中に、どこか懐かしさとアイロニーが漂うミッド2000sのダンスロック。 - “Such Great Heights” by The Postal Service
感情の繊細さをエレクトロ・ポップで包み込んだ、OK Goのメロディセンスに通じる作品。 - “Electric Feel” by MGMT
同様に中毒性があり、奇抜さとポップさを兼ね備えたサウンドが魅力。 - “The Denial Twist” by The White Stripes
反復するフレーズと抽象的なリリックの魅力が、「Here It Goes Again」と重なる。
6. インターネットと音楽の“新しい出会い方”を象徴した作品
「Here It Goes Again」は、単なるキャッチーなロックソング以上の意味を持っている。それは、インターネットという空間を前提にした「音楽の広がり方」を象徴する存在であり、YouTubeの“バイラル文化”を象徴する歴史的楽曲でもある。
2006年というタイミングで、OK Goはメジャーなメディアやテレビではなく、自分たちのアイデアと実験精神、そしてWebプラットフォームだけで世界的注目を集めることに成功した。それは、アーティストが「自らをプロデュースし、演出する」時代の幕開けでもあった。
そしてなによりこの曲は、失恋や繰り返しの人生のシーンにおいて、聴くたびに「ああ、まただよ」と苦笑いしながらも前を向けるような、そんなポップソングの強さを備えている。OK Goのこの軽やかな痛みとユーモアのバランス感覚こそが、多くの人の心に残り続けている理由なのだろう。
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